見出し画像

【全史】第12章 山内丸の船出、「新ミサイル打線」構築へ/1979(昭和54)年

(1)「かっぱえびせん」本領発揮

 「試合を見ていて、手にしているハンバーガーをね、思わず口に入れるのを忘れて、見入ってしまう。そんな野球をファンの皆さんに見て頂きたいんです。そしてね……」。
 テレビのインタビューを受けた山内一弘監督。とにかく、話し出したら止まらない。このインタビューを編集した人も大変だったろうな、と思いながらテレビを見た。打撃コーチ時代も選手にアドバイスをし出したら止まらない。そこでついたあだ名が『かっぱえびせん』。そう、「やめられない、止まらない」のCМをもじったあだ名だった。

 さて、オフの間に2件のトレードがまとまった。前年11月に広島との間で、金田留広投手・渡辺秀武投手と望月卓也投手・平田英之投手・剣持節雄外野手がトレード。1月には、新生西武ライオンズとの間で山崎裕之内野手・成重春生投手と古賀正明投手・倉持明投手のトレードが成立した。一時代を支えた山崎、金田留の放出にはファンの間でも賛否があったが、山内監督の構想から外れていたこともあり、投手力の強化につながるならば、との声も多かった。
 戦力は前年の実績からも、打撃陣は山内監督の掲げる「新ミサイル打線」に近づく布陣となっていた。中心はリー兄弟と有藤、この3人に白、得津、弘田、そして遊撃だった飯塚を山崎が抜けた二塁にコンバート。遊撃には、前年守備固めとして堅実な守備力を見せていた4年目の水上を抜擢する構想だった。
 心配されたのは前年リーグで最下位(南海と同率)の防御率4.01の投手陣だった。村田頼みの陣容だったが、前年9勝した仁科、ヒジ痛で12試合の登板に終わった三井、2年間右肩痛に泣かされたものの、最終戦で本来のピッチングを見せた成田の復活、前年一年間ローテーションを守った左腕水谷、奥江ら成長の跡は見せた。そして、トレードで古賀、倉持、望月が加わった。コマ不足と言われていたが、コマはようやく揃いつつあった。しかし、実績としては未知数なところも多く、不安は今シーズンも同様だった。

 1979(昭和54)年は川崎球場の自主トレーニングからスタートした。始動は早く1月6日から若手主体、11日から主力も加わった。バットをスイングしている選手がいたら、早くもアドバイス全開。30分、1時間と個人指導が続いた。
 カネやん時代の自主トレは走る時間が長かった。もちろん、山内体制になっても走ることは基本だ。山内監督も走るメニューはしっかりと取り入れた。ただ、自主トレでは、トレーニングメニューの様々なところで工夫されたアイデアが見られた。8日には、若手選手が川崎球場と川崎駅の間約3キロをランニングした。12日からは、ラグビーボールを扱うメニューが加わった。「同じ足腰を鍛えるのにも、走るだけでは飽きてしまうだろう」と山内監督のアイデアだった。
 自主トレ中、カネやんが視察に訪れた。ルーキー・落合博満のフリーバッティングを見ると「こんな打ち方じゃプロでは通用せんぞ」と声をかけた。山内監督もその場は同意したが、落合には不思議な素質を感じていた。「打ち方を直せば一流になる」とかっぱえびせんに火が点いた。

 2月1日に川崎球場でユニホームを着て一次キャンプ開始。そして、10日には鹿児島に移動し、11日から鴨池球場で二次キャンプを開始した。鹿児島キャンプではミーティングの時間もしっかり取られ、山内監督自ら方向性や考えを選手たちに直接伝えた。

鹿児島キャンプでミーティングを行う山内監督

 鹿児島キャンプに入ると、山内監督の「かっぱえびせん」はさらに炸裂する。特に、ルーキーの落合、大砲候補の5年目芦岡俊明、7年目の新谷嘉孝、森山正義、ショートレギュラー候補の4年目水上善雄、2年目の袴田英利らに連日、つきっきりで打撃指導を行った。

(2)復活期す、エース成田文男

力投する成田

 1月6日、若手主体の自主トレーニングが始まった川崎球場に、復活を期す成田文男の姿があった。このオフ、冬季練習の期間中も若手に混ざって汗を流していた。それは、復活に手ごたえを得ていた裏返しだった。
 「この2年間は、自分ながら情けないシーズンだった。右ヒジ、右肩の故障も完全に治ったし、無理かも分かりませんが、とにかく、あと31勝に迫った通算200勝を目指したい」。
15年目の今シーズンは33歳になるが、まだ老け込む年ではない。他球団の第一線の投手を見ても、前年最多勝、最優秀防御率と二冠の近鉄・鈴木啓示は32歳、日本ハム・高橋直樹は34歳、阪急・山田久志は31歳だ。実績は負けていない成田にとって、ケガさえ癒えれば、再びオリオンズのマウンドを支える自信はある。山内監督も「帰って来てもらわないと困る」と期待を寄せていた。

ここから先は

8,740字 / 5画像
この記事のみ ¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?