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“歩けない僕”と“見えない私”の交換日記②by小林幸一郎

パラクライミング世界選手権“視覚障害”クラスで4連覇のレジェンド・小林幸一郎さんと、“車いす”クラス銀メダリストのルーキー・大内秀之さんが、クライミングへの思いを語り合うため、交換日記を始めました。

“パラクライミング界のレジェンド“である小林さんが、“ルーキー“の大内さんの登場によって、いかに奮起させられているかが語られました。


▼君の活動は、私の活動のまるでガソリンのようだ

NPO法人モンキーマジック代表の小林幸一郎です。大内からとっても素敵なビデオレターをもらって、僕から1回目の手紙を送りたいと思います。とってもとっても、こっちが恥ずかしくなるような手紙をもらえて、改めていろいろと考えてしまったのだけれども、その中で再三、モンキーマジックという僕の活動を評価をしてくれる言葉がたくさんつづられていて、そのことがとても嬉しく、また励みになる言葉たちでした。

僕にとって大内との出会いは、大内の職場である大阪の堺市にある健康福祉プラザで、地元の小学生に向けた、クライミングの壁を仮設してのイベントをやったときに、イベントが終わって後ろの方で、車いすに座って僕らのやることを見ていた大内に、“僕もやってもいいですか?”という話をしてもらえたときに、“何を言っているんですか、どんどんやりましょう”と言って、一緒に登ったことが僕と大内との出会いであり、大内とクライミングとの出会いであったことを覚えています。

その後、僕が全国に広めている交流型クライミングイベント、その大阪版「なにわモンキー」に関わってくれるようになり、クライミングの世界に入ってきてくれて、そして日本選手権に出場、そして世界選手権に出場という形で、僕が伝えようとしている、クライミングのチカラや魅力を、肌で受け取ってくれて、そして、それを自分の言葉で、人に伝えようとしてくれている大内の姿が、僕の目の前に現れてくれるようになり、本当に嬉しい限りです。

そんな大内が、僕の代表を務めるモンキーマジックの活動について15年16年と続いているということを、何度も前回のビデオレターの中で言葉にしてくれました。自分の中では、いまのモンキーマジックの活動を振り返れば、15年いろいろなことがあったし、長かったような気もするし、あっという間にこの日がやってきたような気もしています。でも同時に、僕にとっていま、一般社団法人フォースタートの活動を始めている大内、もうすぐ3年を迎えようとしていると思うのだけれども、その活動の中からは、ほんっとうにたくさんの刺激を受けていて、本当にたっくさんの学びをさせてもらっていて、自分たちモンキーマジックの活動の発展の、次なる、まるでガソリンのようになっているんじゃないかという風に思っています。

このコロナ禍の時代に、 私が2012年あたりから全国に広げてきた、クライミングを通じた障害のある人とない人の交流の場を生み出して、多様性の理解の実現に寄与したいという活動は、残念ながら全国でズタズタになってしまった印象です。多くの地域が、未だに再開の光すら見い出せずにいる中で、自分としては、モンキーマジックが力を注いできた活動を、いま一度、元気にさせることが、自分のやるべきことだと思っている中で、次々と力のあるアイデアを生み出し、それを実行していく大内の姿は、自分にとって刺激でしかないです。僕は目が見えない。大内は車いすに座って移動する生活をしている。お互いに違う場所に暮らして、違う環境の中で暮らして生きているけれども、見ている方向や見ている未来は同じだというふうに思っているので、お互いに刺激を受けながら、これからもやっていきたいなという風に思う。

でも、一番いっけねーなーと思うのは、なっかなかお互いゆっくり話をしたり、次どんなことしようとしてるの?、なんていうようなことを言葉に交わすチャンスが少ないことかなという風に思う。フランスのブリアンソンから帰ってくる飛行機の中で、たくさんの言葉を交わした記憶があります。やっぱり、あの十何時間飛行機の中にいた時間は、僕たちにとって、お互いの距離を近くするのに十分な時間だったのではないかと思います。なかなかそんな時間が取れないけれども、またああいう時間を取れるように、お互いこのビデオレターの行き来をきっかけにして、たまには会ってゆっくり話するような時間を作れたらいいかなと思っています。コロナに負けずに頑張ろうぜ!

“歩けない”大内さんと、“見えない”小林さん

▼大内秀之さん

  • 兵庫県出身

  • 生まれながら脊髄にガンを抱える

  • ガンは摘出するも、腹筋から下にまひが残り、車いす生活に

  • 13歳、車いすバスケを始める

  • 大学で社会福祉士の資格を取得

  • 現在、大阪府堺市立健康福祉プラザに勤務

  • 36歳、小林と出会い、クライミングを始める

  • 38歳、一般社団法人フォースタート設立。車いすバスケチーム「SAKAIsuns(サカイスンズ)」を運営

  • 2018年パラクライミング世界選手権インスブルク大会(オーストリア)AL1(車いす)クラス初出場

  • 2019年ブリアンソン大会(フランス)AL1クラス準優勝

▼小林幸一郎さん

  • 東京都出身

  • 16歳でフリークライミングと出会う

  • 大学卒業後、アウトドアインストラクターとして活躍

  • 28歳、「網膜色素変性症」が発覚。将来失明すると宣告される

  • 34歳、米国の全盲登山家エリック・ヴァイエンマイヤーとの出会いから、障害者クライミング普及を目指す

  • 37歳、NPO法人「モンキーマジック」設立。同年、アフリカ大陸最高峰キリマンジャロ登頂

  • 2011年パラクライミング世界選手権イタリア大会(アルコ)視覚障害B2クラス優勝

  • 2012年フランス大会(パリ)B2クラス準優勝

  • 2014年スペイン大会(ヒフォン)B1クラス優勝

  • 2016年フランス大会(パリ)B1クラス優勝

  • 2018年オーストリア大会(インスブルク)B1クラス優勝

  • 2019年フランス大会(ブリアンソン)B1クラス優勝 4連覇

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