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アニメ『グリム組曲』第4話『小人の靴屋』考察

毎日めちゃくちゃ暑いですね(;^ω^)
みなさん、いかがお過ごしでしょうか。

さて今回は、ネットフリックスで配信されているアニメ『グリム組曲』の第4話『小人の靴屋』について、あれこれ思うところがあったので、考察めいた文章を書いてみたいと思います。
なお、『グリム組曲』については、こちらの公式サイトをどうぞ。

4話の『小人の靴屋』は、売れない小説家が自分が書いた覚えのない小説で大成するお話で、タイトルどおり、グリム童話の『小人の靴屋』を元にしています。
最後近くで、大成した主人公は、なぜか昔住んでいたアパートの近くの公園にいて、そこで昔会った赤い髪の少女と出会います。
彼は少女に、人々が絶賛する自分の小説がさっぱりわからないと吐露し、少女はではなぜそれを受け入れたのかと、問い詰めます。
そのあと、主人公はきれいな身なりのまま、昔いたアパートに帰るのですが、そこには奥さんと子供がいて、以前は険悪だった大家や近所の人たちとも仲良く笑い合っています。
そしてふと気づくと、年老いた主人公があの公園のベンチに座っており、そしてニュースでは大成した作家の突然死が告げられていて……というところで、物語は幕を閉じます。

私はこの公園で大成した主人公が少女に会って問い詰められるあたりで、世界は分岐したのだと思います。
仮に三つのルートをそれぞれA、B、Cとしましょう。

Aのルートでは、主人公は「自分ではなんだかわからないが、世間が絶賛する小説」を出版社の言うままに書いて渡し、名声を得ます。
これはたぶん、「自分の価値観を捨てて、世間の価値観だけを全面的に受け入れた」ということなのではないか、と思います。
Bのルートは、昔のアパートに奥さんや子供がいるものです。昔は険悪だった大家や隣人とも仲良くやっていて、おそらく主人公は、そこまで大成はしていないが、そこそこ食べて行けるようになった、といったところでしょう。
この彼は、「世間の価値観を受け入れたが、自分の価値観も捨ててはいない」んじゃないかと思います。
そしてCのルートは、出版社の絶賛するものを正直に「自分が書いたものではない」と言い、自分が書いたもので世に出ようとした結果、鳴かず飛ばずのまま年老いてしまった――といった感じでしょうか。
この彼は「世間の価値観は拒絶し、自分の価値観でのみ勝負し続けた」のではないかと思います。

自分自身も創作をしている身としては、Cルートの主人公もわかる、とは思います。1から10まで自分が面白いと思うもの、自分がすごい・すばらしいと思うもので満たした小説で勝負したいという気持ちは、すごくわかりますし、それで大成できれば、それほど素晴らしいことはないと思います。
ただ、「出版社」というフィルターを通してそれを本にして収益を得ようとする場合、他人の価値観を完全にスルーするわけにはいかないと思います。
この作品の舞台が、少し昔(昭和の半ばぐらい?)っぽい時代なのは、そうしたことをはっきりさせるためもあったかも、とも思います。
現代だと、大成するためにかならずしも出版社のメガネにかなう必要はないと思いますので。

一番人として幸福なのは、やはりBルートだと思います。
「完全に」ではなくても「自分の価値観で書いたもの」が世に認められ、愛する人や笑い合える人たちが周囲にいる、というのは人間としては一番幸せなことではないでしょうか。
ちなみに「人としての幸せ」で考えるなら、私は一番不幸なのは、Aルートの大成した主人公だと思います。
彼が実業家とかなら、これはこれで幸せだと思うのですが、小説家なので、自分に理解できない、誰が書いたかわからない作品で絶賛されても、楽しくもうれしくもないだろうと思うのですね。
そもそもこれって、他人とちゃんと打ち解けられない気もしますし。
たとえば好きな人ができて、その人にだけはと「実はあれは俺が書いたんじゃないんだ」とかって事実を話したとしても、「朝起きたら机の上に原稿がある」という時点で、「それって寝ぼけて書いてて、覚えてないだけでは」と本気にされない気もします。
まあ、大成した時点でもう誰にも話さないかもですが。
なんにしても、彼は一生、「自分が理解できず、書いた覚えもない作品」の作者として絶賛され続ける苦痛を背負って生きないといけないわけなので。
私なら、そんなのはごめんだなと思います。

以上、ざっくりとですが、『小人の靴屋』について書いてみました。
『グリム組曲』は、他の話もなかなか皮肉な作りになっていて、面白かったです。
また機会があれば、他の話の感想も書いてみたいと思います。

それでは、最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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