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【先行配信】『サリの物語』第2章 許されない想い~2

『あやおり工房楽屋裏』、今回も先行配信になります。
今回は、しばらく放置してました、長編ファンタジー小説『サリの物語』の続きを投稿サイトよりも1週間早く、お届けします。

『サリの物語』は、貴族の娘でありながら、父の失脚後に騙されて売られ、奴婢となった少女が幸せをつかむまでの物語です。
序章・1章では、奴婢となるまでと、そののち主一家が亡くなり、都の貴族の奴婢となるまでが描かれます。
続く2章は、貴族の屋敷での日々となるわけですが……。
なお、これまでの物語は、以下からお読みいただけます。

それでは、続きをどうぞ。

第2章 許されない想い~2

 翌朝。
 サリはいつもより少し早い時間にウラリーに呼ばれ、母屋の彼女の執務室に来ていた。
「奥様、何かございましたか?」
 エリザの姿もなく、そこにウラリーだけしかいないことを不審に思い、サリは尋ねる。
「あなたに聞きたいことがあって。……あなたは、侍女のアンナと知り合いなのかしら」
「いえ」
 小さく息を飲みそうになって、サリは慌ててそれを引っ込め、冷静を装ってかぶりをふった。なぜそんなことを問うのか尋ねたかったが、奴婢の身分ではそれは許されていない。
 だが、顔には出ていたらしい。ウラリーは言った。
「昨日の夜、あなたとアンナが物干し場で話しているのを見たという者がいるのよ。仕事が終われば、何をしていても自由ではあるけれど、都では身分違いの者同士が仕事以外で言葉を交わしたりするのは、喜ばれないわ」
 言われてサリは、なるほどと思う。
 ポスト家でいた時も、他の奴婢らから、「ここは特別だけど」との注釈付きでそんな話を聞かされたことがある。
 サリは、口を開いた。
「食事のあと、物干し場で涼んでいたら、アンナさんが来られたんです。ヘアピンを落としたとかで、それを探しに来て……わたくしがいたので、見ていないかと尋ねられました。それで見ていないと答えたのですが……奥様に話した者は、そこを見かけたのではないでしょうか」
 アンナならば、もしあとで尋ねられても、これぐらいの口裏合わせはできるだろうと考えながら、問題なさそうな話をでっちあげる。
「そう。わかったわ」
 ウラリーは少し考え、うなずいた。
「では、少し早いけれど、仕事を始めましょうか」
「はい」
 答えてサリは、書棚の中から今日の仕事に必要なものを取り出し始めた。
 そんな彼女を見やってウラリーは、小さく胸に吐息をつく。
 ウラリーに、サリとアンナのことを告げたのは、クラーラだった。
 朝食のおりに給仕についた彼女は、ウラリーにボソボソとした低い声で二人が夜、夕食も終わったあとに物干し場で話し込んでいたと告げたのだ。
 ウラリーとしては、身分違いではあっても、同性間での交流は多少のことならば見逃してもかまわないと考えていた。喧嘩でもしているならともかく、仕事外で話すぐらいならば、かえって仲間意識ができて良いのではないか、との考えなのだ。
 ただ、貴族の中でそうした考えが少数派なのは理解していたし、実際にこうして訴えがあれば、それに対処しないわけにはいかない。
 だからサリを一人呼び出して、問い質したわけだが――。
(何か、本当のことを話せない理由でも、あるのかしら?)
 サリの答えに納得したフリをしながら、彼女は直感的にそれが嘘だと感じていた。
 もちろん、咎められるのを恐れて嘘を言ったとも取れる。けれど。
(ここに来てからの彼女は、常に嘘偽りなく働いていたし、奴婢の分をわきまえながらも、言うべきことは言っていたわ。なのに今、咎められるのを怖がって嘘をつくなんてことが、あるかしら)
 彼女は、そんなふうにも思うのだ。

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