現代税論.4 ディマンドプルインフレ対策としての増税の危険性
ディマンドプルインフレになったら簡単に「増税で対応すれば良い」という人がいますが、そう簡単なことではありません。
DPインフレが行き過ぎたときにやるべきは累進課税的税収を前提としたビルトインスタビライザー（最後で説明します）によるインフレのコントロールなのです。
■CPインフレ対策
こちらでも述べていますが、コストプッシュインフレとディマンドプルインフレを税制の観点から見てみましょう。
■コストプッシュインフレ（CPインフレ）
CPインフレは、消費の拡大以外の要因、例えば輸入物価の高騰によって物価が上昇する現象です。具体例としては、戦争や災害により輸入石油が高騰し、その結果、石油製品の価格が上昇する現象を指します。
この状況では、可処分所得が変わらないまま物価が上昇するため、需要者の購買力が落ち、商品が欲しいのに買えない（需要が無効になる）状態、つまり貧困に陥ります。
「貧困に陥る」というのを「景況」の観点で見るとこれは「不況」ということになります。不況とは市場取引が低下する現象です。
さて、CPインフレの不況対策として政治が取るべき対策は税制においては「減税」です。働いても、取引を促進しても、生産を増やしても、その上で労働生産した利益を税として搾取されるのであれば、労働生産をした甲斐がありません。
労働生産したことに対する罰金が「税」として徴収されるわけです。これが基本的な「所得税」に当たります。
この罰金が高ければ、働くのが馬鹿らしくなります。
一方で、罰金が安ければ、働くのは儲かることになり、みんな率先して働くようになり、賃金を得、そして市場取引の低下を食い止め、「好景気」へと向かうことになるでしょう。
■DPインフレ対策
さて、ではDPインフレの時はどのように対応すればよいでしょう？
■ディマンドプルインフレ（DPインフレ）
DPインフレは、需要（消費）の拡大に伴う物価上昇です。需要が満たされることを有効需要と言います。これは、商品を躊躇なく購入できる、つまり購買力が上がっている状態を指します。そのためには、需要者の可処分所得が増大しなければなりません。
これは理想的な好景気状態ですが、一部問題もあります。それは、購買力が増大しない貧困層が存在し、物価上昇と共に彼らの生活が苦しくなるという点です。
多くの積極財政派は、DPインフレが行き過ぎた時は、増税をして市場の貨幣量を減らして対応するべきだ、というでしょう。基本的にそれは間違ってはいません。
しかし私はDPインフレの対応はもう少し複雑だと思います。
例えば1960年代のイギリスはDPインフレが行き過ぎた状態で英国病と言われる状態に陥りました。「インフレ（物価上昇をしている）」のあと、「経済成長せず、諸外国との競争力も落ちてしまった」のです。
これは、「すわ、ケインズ経済学の限界！」と当時の主流派経済学者を色めき立たせ、「今こそ増税を！緊縮を！」の声を大きくしました。
しかし、私はこれに関しては違う見解を持っています。
これは単純に「DPインフレ状態から、供給力が低下し、『増税しなくともCPインフレに素早く移行した』ため、経済成長しなくなった」と、考えられる、というのが私の意見です。
単純化して考えると、「労働をしなくてもお金が貰える」状況があれば人は「労働生産（供給）を行い賃金を稼ぐことをしなくなります」。
その結果、労働者は減り、供給生産を行う、例えばパン工場などが生産を停止し、市場のパンの量も減ります。
その結果、
「お金があるので物価上昇しても対応できる」
というDPインフレから
↓
「商品が少なくなったので物価上昇する」
というCPインフレに速やかにフェーズが移行してしまうのです。
「経済成長しないCPインフレを『増税することなく招いた』」わけですので、やるべきは「DPインフレで開いてしまった富裕層と貧困層の格差を縮小する為に貧困層へ減税と給付金を行う対策」になるでしょう。
■まとめ：過度なDPインフレへの増税はビルドインスタビライザーで対応すべし
以上から、DPインフレの時は増税をするのは当然という姿勢は、時として適切とは言い難い状況を引き起こす場合があります。DPインフレからCPインフレへの転換は簡単に起こるため、現実には過度なCPインフレにならないように対策をする必要があるわけです。それは非常に繊細な対応が必要になってくるでしょう。
その繊細な対応は本来「累進課税」的な「税率」でコントロールするわけです。これをビルトインスタビライザー（組み込まれた安定化税制）と言います。
これは簡単に言うと黒字なら徴税対象だが、赤字なら減税対象である、というシステムを税制に最初から組み込んであることです。
日本はこの30年以上、この税率をCPインフレだろうと、DPインフレだろうと、まったくかまわずにガチャガチャいじくり回し、結果として「逆進的な税率」を構成させ、そのまま馬鹿の一つ覚えのように突き進んでいって皆、貧困になりました。