COOL 脳はなぜ、「かっこいい」を買ってしまうのか

 面白い研究がわかりやすくまとめられていて、株の話だけでも十分に元が取れる。また暇になったら読み返してもいいと思えた一冊。

人の中に存在する3つの意思決定機関

 神経科学、コンピューターサイエンス、そして経済学を組み合わせた神経経済学では、人を3つの意志決定機関(”コントローラー”)の連合体とみなす。ある種の”快楽機械”が3つ、人の中に潜んでいるのだ。

・生存快楽機会--本能的行動。

 例えば、ほとんど考えることなく、食べ物に手を伸ばすといったこと。

・習慣快楽機械--習慣的行動の基盤。

 朝新聞を読みながらコーヒーを飲むといったことなど。

・目標快楽機械--To Do リストを作らせるもの

 様々な選択肢の利点と欠点を、入念かつ合理的に調べることができる。

 以上の3つは進化の過程で、それぞれ違う圧力によって作られたもの。それぞれ独自の戦略、価値観、情報、感情を持ち、私たちの行動を誘導する。また、それぞれ多くの場合は意識下で、独自のルールに従っている。これらの快楽機会が、意思決定と行動を左右するべき人間に備わったのは、近代的な消費が生まれる遥か以前からである。ということわ、近代の消費は、大昔に人間の中で確立していた目的と戦略と反映したものである。

 そしてこの本の中では、消費者を3つのタイプに分類している。

本能的消費者

習慣的消費者

社会的消費者

「理性VS感情」論の誤り

 従来私たちの意識と無意識の区別は、理性と感情の区別つながっていた。多くの場合において、感情的な意志決定は、熟考せずに下されるものだと考えられている。

 社会心理学者ジョナサン・ハイト感情決定についてのシナリオ

 通りの向かいの家族は長年、飼い犬に深い愛情を注いでいた。ある日、その犬が庭の外に出てしまい、車にはねられて死んだ。その家族は犬の死体を料理して食べることにした。この行動は間違っているだろうか?

 大抵の人は、この話に感情的な嫌悪を感じ、問いへの答えはほとんど考えることなく口を突いて出てくるだろう。 

 だが感情的な反応とは別に、このちょっと変わった家族の行動が間違っているかどうか、よく考えて判断することもできる。その場合はおそらく、犬を食べてはいけないと言うのは、1つの文化的規範、慣例に過ぎないと考え、感情的な反発を押さえつけて彼らの行動は全く問題ないと結論づけるだろう。これが理性を働かせた思考の例だ。意識的で慎重で、時間がかかり、丁寧だ。

 理性パート:もっと詳しく考えてみると、中国の地方では犬を食べる習慣がある。蝙蝠なども。さらに日本でも昭和時代では、祭りの縁日でヒヨコ釣りがあった。大事に育てていた女の子が学校から帰ってきて、ひよこがいなくなっていることに気づく。食卓に並べられていたというオチ。(実際の話)

 私たちは理性と感情は別のものだと考えてしまいがちだが、ニューロダイナミックの見解では、これを捨てなければならない

 ニューロダイナミック論では、感情とは適切な行動を選ぶのに必要な価値観を、脳が様々な方法で変換したものだと考えている。例えば目標快楽機械は、価値を表現するために、感情を使っているので、これら2つを切り離してしまうと、筋が通らなくなる。

ミツバチとブローカー

 花の蜜は希少で、かつ、他のコロニーや生物と奪い合ってようやく手に入れられるもの。そこで、ミツバチはどうやって多くの花の中から効率的に多くの蜜を手に入れようとしているのか?

A. 慎重なブローカーと同じく、リスクの高い花より、確実に手に入れられる方を選ぶ。(エモリー大学 レスリー・リアル)

脳の「自分勝手」な計算

 金融学教授 Preuschoff, Kirstin, Peter Bossaerts and Steven R. Quartz 2005 "Neural differentiation of expected reward and risk in human subcortical structures."

Neuron 51 :381 -90; 2008 " Human insula activation reflects risk prediction error as well as risk." the Journal of neuroscience

 ドーパミンシステム、すなわち一般的に大脳基底核と呼ばれる部位の一部に、意思決定の際に予想される報酬とリスクの判断が、コード化されていることを発見した。

 1から10までの10枚のカードから2枚のカードを引く。2枚目のカードの数字が1枚目のカードより大きいと思えば、1ドルを賭ける。

 この賭けのリスクは、1枚目に5をひいたとき最も大きくなる。リターンの分散が最大になるからだ。このような意味でのリスクを、株式の変動性(ボラティリティー)を測るのに使う。前述の実験では、基底核の一要素である線条体が、金融理論による予測と同じような方法で、これらの数値を計算していることが明らかになった。つまり株のブローカーが何に投資するかを決める時と同じように計算していることだ。

 ここで重要なのは、この実験の被験者は1枚目のカードを引いた後、期待を感じているものの、報酬やリスクを意識的に計算しているわけではないし、それに気づいてさえないということだ。つまり、多くの場合、脳がどう問題をどのように提示し、解決するかについて、私たちが自ら認識している事は限られているのだ。

 簡単に言うと、リスクリワードを考えずに、ただ闇雲に期待して、祈ってるだけ。トレードでも一緒。

 上に行く方が高いと思えば買えばいいし、下に行くリスクの方が高いと思えば、下に行ってから買えばいいだけの話。だけど、目の前で株価が上昇していると、期待(ドーパミンシステム)が働いて判断が鈍る。かつ、目の前の機会を損失したくないというプロスペクト理論によって、大抵の人が買ってしまう

 その結果、大体は高値掴みに終わる。

 追記

 サル様々な学習実験を行わせて、その時のドーパミンニューロンの働きを調べた実験。すると、学習させる前はドーパミンニューロンが最も活性化するな報酬(数的なフルーツジュースなど)を与えられた後だった。

 しかし、ジュースが出てくる前に音をきかせて奉仕を予測できるようにすると、ジュースを与えられた後ドーパミン・ニューロンは活性化しなくなった。活性化したのは、音が聞こえた直後だった。何故だろうか? ジュースをもらった後でも猿は変わらずご褒美を喜んでいるように見えたというのに。

 ここでもう一つ仕掛けをした.。それがジュースを予測できるようになった後、予告だけしてジュースを与えるのをやめた。すると、ジュースをもらえるはずのタイミングで、ニューロンの活動が止まった。


 強化学習--環境からのフィードバックを通して学ぶときに起こる。ドーパミンシステムの予測より結果が良かった時と悪かった時、そのミスマッチから私たちは学習する。ニューロンはこの情報を使って方向性を決め、私たちは報酬の価値を行動に結びつけるようになる。こうしてドーパミンシステムは学習と意思決定を結びつける。

 全く同じことがパチスロ中毒者などの頭の中でも起こっている。彼らの報酬系が活性化しているのは、パチスロをしている時ではなく普段の生活でパチスロをイメージしている時、想像しているときに最もドーパミンが放出されている。

 言い換えると、トレーダーの報酬系が1番活性化しているときは、実際に報酬を得たときではなく、まだ買ってもいない銘柄の、どんどん上がっていっている株価を見ている最中。この時、報酬やリスクの計算をせず、既にキャピタルゲインを得た気分になってしまっているのだ。

→リスクリワードがぐちゃぐちゃのギャンブル投資になっている。

 確かに、そのまま上がっていくこともあることもある。しかし、それはギャンブルであって、リスクがどんどん高くなっている。勝ちたいのであれば、自然の法則、つまり、マルハナバチを見習うこと。


脳は「ブランド」が大好き

 ブランドは私たちの経験を作る。あるブランドが持つ文化的情報が、主観的快楽と言う形でより多くの雇用を生み、経済価値を高めることもあるのだ。その逆もまた然り。悪いイメージがつくと最悪。

 ブランドは強烈な感情的記憶を喚起することで、商品の経験に価値を加える。

問)しかしブランドはそもそも、その価値をどうやって獲得するのだろうか?

 この答えはブランドをどのように使っていく決定をしているかを考える上でも重要な意味を持つ。

 無意識の習慣システムに頼った行動した方が、消費者としての決定が楽になる。脳は省エネモードが好き。実のところ、無意識に決めさせてしまった方が楽なだけでなく、より良い決定を行えることも多い。

 習慣快楽機械において極めて重要なのは、結果ではなく行動に価値を見いだすと言う事を思い出そう。あらゆる決定の結果を計算するのではなく、積み重なった行動の価値に基づいて行動するのだ。そしてブランドは習慣のようなものなのだ。

 だから私たちがスターバックスのマーメイドやマクドナルドのゴールデンアーチなど、見覚えのあるロゴを見たとき、脳はそのシンボルを中心に築いた価値の無意識の記憶に反応する。

 習慣快楽機械は、予測と報酬が一致しなかったときに学ぶ。予測と報酬とは例えば、スターバックスのコーヒーがどのような味かの予想と、実際の味だ。あなたが報酬を予測し、もたらされた報酬がそれと同じだった時、そのブランドの価値は高まらない。ブランドの価値が上がるのは、そのブランドがもたらす経験が予想上回った時だけだ

 ブランドは私たちの記憶と消費の間に感情的なつながりを作る。そのような感情は消費にとって重要だが、進化のどこかの時点で感情と正気のつながり方の何かが変わった。新しい種類の感情が生まれたのだ。

 この新しい社会的感情は、私たちの社会的アイデンティティー、つまり自分が何者なのか--そして他人が自分をどう見ているか--という感覚と、商品とを結びつけた。まもなく私たちは、自分が何者か、ものを使って他人に伝える能力を手に入れた。それが起きた時、まったく新しい経済価値が生まれたのだ。

 セックスの戦略とクール

 「長期的なパートナーとして好ましい性質」と「良い遺伝子」はトレードオフの関係である。全く重複しないわけではないが、良い遺伝子室(健康な子孫を残す力)を持つ人は、長期的なパートナーとしての信頼性がやや低くなるといったこと。

 女性の性ホルモンの1種であるエストラジオールのレベルが高い女性は、より魅力的だとみなされる。しかしそのような女性は、軽薄で浮気勝ちでパートナーに満足できず、遊び人のターゲットになりやすい。

 テストステロンのレベルが高い男性は、浮気や離婚をしやすく、結構も遅い傾向がある。またテストステロンレベルが低い男性より、子供の泣き声の反応が鈍い。


 ある顔の特徴に惹かれるのは(大抵それには気づかないが)それが隠された遺伝的特徴のシグナルだから。

 こうした戦略が自分の行動を決めていると言われたら激しく否定し、無意識の要因が背後で働いていることを知って驚くだろう。


 25年以上前は子供時代を学習する上で特別な時期だと言う考えが強調されていた。しかし現在では脳は一生変わる可能性があると言うことが証明されている

 成人の脳の可塑性は、子供と広い範囲で見られるわけではないが、脳は変化可能だと言う考えは社会的に大きな反響を呼ぶ。「ルモシティ」ゲーム企業

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