サイコパス--あなたは隣のサイコパスを見抜けますか?

監修:ゆうきゆう 出版:日東書院

「サイコパス」とは

 サイコパスの語源は「psychopathy、精神病質」という英語だった。意味は社会的な規範から性格が逸脱し、そのために社会で問題を起こしたりすることがある反社会性パーソナリティ障害の一種とのこと。 

 その特徴としては

1、良心や罪悪感の欠如

2、極端な冷淡さ、共感性の欠如

3、病的な虚言

4、自己中心的

などが挙げられる。

 DSMの診断基準による調査ではその有病率は男性3%、女性1%とのこと。

※DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル

 Psychopathy Checklist Revised(PCL-R)をネットで検索。40点満点中、27.6以上がサイコパスの入門レベル。しかしデータの徹底的な検証と半構造化面接に基づいて採点される。(サイコパス 秘められた能力p.84)

 注意点:サイコパスだと勝手に認定する人がいるが、サイコパスには様々な人格特性と行動パターンの組み合わせがあり、サイコパスか否かを判断できるのは、資格を有した専門家に限られる。(社内の知的確信犯を探し出せ p.372)

ソシオパスとの違い

 ソシオパス(社会病質者)はサイコパスと同様、反社会性パーソナリティ障害の一種である。両者ともに医学用語ではない。

 定説では

ソシオパス:劣悪な仮定環境、虐待によって受けたトラウマを原因とした後天性の疾患である。

 特徴として、

衝動的、

行動の一貫性の欠如、

他者と心が通じ合わない、

家族や会社など、長期的な関係性を持てない

一部個人や集団に愛着を感じる場合もある


サイコパス:遺伝的、生物学的な先天性の疾患である。

特徴:

緻密

リスクを最小限に抑える

他者と心が通じ合わない

人を操るのに長けている

表面的に魅力的、高学歴

家族やパートナーがいる場合もある

 とのこと。しかし、ケヴィン・ダットンの著書では前者の幼少期のトラウマも後天的サイコパスの要因とされていた。


精神障害の歴史

近代になってサイコパスが定義される

1835年、イギリスの精神科医ジェイムズ・コウルズ・プリジャード『狂人論』

1888年、ドイツの精神科医ユリウス・A・コッホ

エミールクレベリン、「精神病質的性格」

統合失調症の診断基準を定めたクルト・シュナイダー

「精神病質的人格の10タイプ」

 その後、クレッチマーの三大気質の類型論

一般気質 → 精神病質(精神病になる手前) → 精神病

 この真ん中の精神病質を三つのタイプに分類した。

 次は1941年、ハーヴェイ・M・クックレーの『正気の仮面(Mask of Insanity)』。「正気の仮面」とは表向きは正気に見えるのに、その仮面の裏では感情を持たず、特異な反社会的行動を取る人々のことを指す。

 クックレーは精神病質的人格の特徴16項目を挙げて、サイコパスのモンタージュを作ることに成功した。(日本心理臨床学会編『心理臨床学辞典、サイコパス』を参照)

5因子モデルに見るサイコパスの人格

 心理学者ドナルド・ライナムは、サイコパシーの世界的権威の心理学者たちに、5因子モデルを構成する30の特性について採点を行ってもらった。

 サイコパスの採点結果、

協調性は全体的に低い

誠実性については、義理堅さなどの点で低い数値となった一方、有能さの点数は高い

神経症的傾向では、不安は低く、衝動性の点数は突出して高い。

まとめると、魅力的で有能、冷静でいながら衝動的にどんな行動を起こすのか予測不可能なものとして浮き彫りになった。


闇の三位一体(ダークトライアド)

 ピーター・ジョナソンは2010年に同僚とともに『ジェームズ・ボンドとは何者か--闇の三位一体と諜報員的社交スタイル』と題した論文を発表した。


サイコパスはIQが高い?

 近年の研究では、サイコパスは平均より知能が劣ることがわかっている。

精神病質的傾向が高いとIQが低い傾向に

セントルイス大学のブライアン・バウトウェル

 一般の人々に比べて、サイコパスの知能が平均より高いという事実は発見されなかった。中でも精神病質的傾向が高いサイコパスは、IQテストが低い傾向があるという。

サイコパスの脳を科学する

大脳辺縁系の未発達がサイコパシーの原因?

 大脳辺縁系は、各領域が連携しあって、複雑な意思決定や情動の抑制などの処理を可能にしている。サイコパスの脳のf MRI画像は明らかに薄く、未発達だったとのこと。しかし、そうした脳の状態であったとしても必ずしも反社会的行動をとるわけではない。

恐怖を感じるか、感じないか

 扁桃体は神経細胞の集合体であり、快感、不安、恐怖、喜びなどの情動反応を処理する、いわば感情の中枢機能である。特に恐怖を感じる認識能力を握る存在。サイコパスの扁桃体は機能不全になっているという。つまり、自分自身が恐怖を感じることが難しいだけではなく、他者の感じる恐怖も感じることができない

反社会的行動を起こすサイコパスの原因

四つの仮説がある

1、恐怖感情の低下仮説

 罪を犯すことや罰に不安や恐怖を感じないので反社会的行動を行う

2、注意力欠如仮説

 目先のこと以外、何も目に入らないために反社会的行動をとってしまう。

3、性急な生活史戦略仮説

 平気で嘘をついて複数の相手を騙したり、相手の気持ちを考えないで不特定多数の異性を取り替える→子孫繁栄に有利に働くため?

4、共感の欠如仮説

 相手のことを感じる感受性が全くないため、反社会的な行動をとる。


サイコパスの遺伝子

「反社会的サイコパスは遺伝するのか?」

 この疑問については様々な見解がある。一つに、約3500組の双生児を調査比較した大規模研究では、サイコパス傾向である冷淡さや情動の欠如は、7歳児ですでに発現しており、その3分の2が遺伝的要因によるものとされている。しかし、情動障害のみで、サイコパスは遺伝するとは言えない。

 モノアミン酸化酵素A(MAOA)が気分や情動を調節する神経伝達物質。酵素MAOA量が低下すると攻撃性が強くなり、社会性が低下する傾向がある。

「戦士の遺伝子」はこの酵素MAOA量を低下させる働きをするもの。主に男性に見られて、女性がこの遺伝子を持つ確率はわずか9%に過ぎない。

ファロンの三脚スツール理論

反社会的サイコパスの三大要因

1、一部脳領域の昨日低下

2、遺伝子のハイリスクな変異体

 いくつかの遺伝子はエピジェネティック・タグを保有している。発育過程で、環境要因と相互に作用し合い、時にハイリスクな変異体となる。

3、幼少期早期の精神的、身体的虐待

サイコパスの種類

成人男性の発病率は0.75%

 サイコパスは成人男性に多くその発病率は0.75%と推定されている。女性のデータは乏しいが、その発病率は0.25%。(日本では更に少ないとの研究報告もあった気がする)

種類は、

1、暴力型

2、パラサイト型

3、支配型(成功リーダータイプに多い)

4、複合型

に分けられるが、サイコパスかどうかの二択に限られるものではない。そのサイコパス的傾向の外側にも内側にもグレーゾーンが存在し、個人差がある。


感想

 まあ、他の著書に比べて、ざっくりまとめられていて、大まかに知りたい場合は便利な一冊だと思う。近年の研究ベースにしたハウツー本みたいな、肩肘はらずに気軽に読める本。

 面白いと思ったのは、サイコパスの定義。先天的だと定義しているが、実際には遺伝しないという見解があったりと、実はまだまだ発展途上の分野だと知れてよかった。幼少期のトラウマを含むかどうかも気になるところ。

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