見出し画像

君の世界に生きたいと、胸を焦がした夜


いつの間にか、Spotifyのプレミアムサービスの期間が切れていました。

無料サービスの利用だと、途中で広告が入りますね。

そして、お気に入りのプレイリストを選んでいても、しばらくすると別のアーティストの曲へ飛んでしまうようです。

しかも、どうやら飛んでいくのは、少し前に自分がヘビロテしていた曲みたい(あくまで個人的な感想です)。

そういえば、この曲よく聴いていたっけ。懐かしさと同時に、その時のことが思い出されて、ふふ、と思わず笑みがこぼれます。


夕飯の片づけをした後、リビングでくつろいでいたときのこと。

相変わらず自由に流れてくる音楽を聴いていると、ふと懐かしい曲が流れてきました。


ああ。


その曲を聴いて、わたしは一年前のあの夜にタイムスリップしました。


(今日は内緒の話です。苦手な方は、そのまま閉じてください。)


◇◇◇


夏の終わり。熱帯夜で、珍しく寝付けずにいた。

時刻はもう少しで午前2時を回る。真っ暗な部屋。隣で主人はぐっすりと眠っている。

ベッドに横になったままぼんやりとタブレットを覗いていると、ポンとメッセージがひとつ届いた。

あの子からだ。

SNSで繋がってる、かわいい男の子。

思わず起き上がり、枕の上にタブレットを置いてじっと覗き込む。


毎日、たわいのないメッセージのやりとりをしていた。彼は人懐こい性格で、いつも優しくてお茶目なメッセージをくれる。あたしは彼から癒しと、笑顔と元気をもらうのだ。

ちっぽけな携帯の中にいる友人のひとり。でも、あたしはひそかに彼に恋をしていた。


彼からのメッセージは、いつも変な時間に届く。

だいたい朝の4時。それか、夜の9時前後。それ以外はほとんど見かけない。寝不足なのか、いつも「ねみー」と言っている。やんちゃなくせに、季節の移り変わりに敏感で、聞いたことのない古風な単語をつぶやいたりする。自分のことはそっちのけで、あたしには「ちゃんと寝るんだよー」と言う。

気遣いができて、どこまでも優しい子だ。

仕事も勉強も頑張っていて、アプリに滞在しているのはいつも数分。あたし以外の他の友達にも同じようにメッセージを送ると、すぐにいなくなる。

風のようにさっと現れて、すぐに消える。人懐こい割にどこか近寄りがたくて、手が届きそうで届かない。追いかけたくなるひと。

あたしはだいたい日付が変わる頃にこっそりとログインするから、これまで同じ時間に会うことはなかった。


だけど今夜は違う。

今、まさにあたしの近くにいる。


どうしよう。今なら、おしゃべりできるかも。

そんなことを考えてしまった。


頭の中に流れてきたのは、King Gnu「It's a small world」

秘密の夜の歌。 


皆寝ちゃったよ 今夜 世界は僕らのもの


———いやいや、そんなことしたらマズいだろう。


以前、彼氏いるの?と遠回しに聞かれたことがある。あたしは答えなかった。

結婚してるとは言えなかった。心地の良い関係を壊したくない。あたしは、自分の都合だけを考える、ずるい女だ。


想うだけなら、自由だと思う。

でも。

リアルタイムでのやりとりってどうなの?

やっぱり、いけないことかな・・・

そもそもこんな真夜中に、声をかけていいのだろうか。

ベットの上でひとり、寝返りをして悶々とする。はっ、はっと、呼吸が浅く乱れる。理性と感情が行ったり来たり。

君を探してみる。 大丈夫。まだ近くにいる。


恐れずに この夜に 飛び込むの


きっと、真夜中のやりとりなんて他の誰も見ていない(はず)。あとで消しちゃえばいいし。

心臓が、耳もとで脈を打って、ドクドクと音がする。

ああ、あたしはバカなのか。

真夜中に考えることは、たいていおかしなことばかり。


律儀なあの子のことだから、気付けばすぐに返事がくるだろう。

いや、とことん優しいから、やんわりと知らないふりをしそうな気もする。それがいい。うん、そっちの方がうれしいかも。

そうだ。真夜中にひとり舞い上がった痛い女のメッセージは、あとでこっそり削除しておけばいいだけなのだ。 お願い、知らんぷりして。


理性が、飛ぶ。


君の世界に、ほんの少しでいいから、生きてみたい。

君の時間に入り込みたい。いま。何かが変わってしまうかもしれないけど。


刻々と時間が過ぎてゆく。

君が消える前に、はやく。


———まだ起きてるの?

送信ボタンを押そうか、押すべきではないのか。

心も、手も、震える。



この曲を聴くたびに思い出すのは、痛いくらいに胸を焦がした、あの夜のこと。



◇◇◇


最後までお読みいただきありがとうございました。

たまに書きたくなる秘密のお話です(о´∀`о)すみません。


この「It's a small world」は、King Gnuの中でも特に好きな曲です。サーカスを観ているような、不思議な感覚になります。

ちなみにMVに出てくるダンサーは、実はボーカルの井口理さん。歌が抜群に上手いうえに、ダンスまで踊る。多彩な才能の持ち主だなぁ。さらに、曲中、逃げることなくじっとしている猫もめちゃくちゃかわいいです。ぜひ、MVも見ていただきたい一曲です。

真夜中に聴きたくなる、不思議な曲。

眠れない夜のおともにぜひ。


記事を読んで頂きありがとうございます(*´꒳`*)サポートをいただきましたら、ほかの方へのサポートや有料記事購入に充てさせて頂きます。