思い出すのは、バタークリームのクリスマスケーキ

クリスマスの思い出はいろいろあるけれど、一番はバタークリームケーキだ。

卵白とバターでできたバタークリームは、くすんだアイボリー色をしている。子どもの頃に食べたケーキには、淡いピンクのバラとサンタクロースのデコレーションがあって、シルバーのちいさな粒もあった気がする。

見た目は可愛らしい。けれど、独特の香りとべたっとした食感が、正直苦手だった。本当は、真っ白でふわっとした生クリームと苺のデコレーションケーキがよかった。

調べてみると、当時はバタークリームケーキが主流だったようだ。

生クリームやチョコレートのデコレーションケーキにチーズケーキ、アイスケーキ、そしてバタークリーム。昔も今も、クリスマスケーキは高価なもの。子どもが食べる量もたかが知れている。

電気店を営む父と専業主婦の母に、何不自由なく育ててもらった。毎年12月になると、サンタクロースにプレゼントをお願いしていたし、クリスマスには美味しいごちそうもあった。父と母と、祖父と祖母と、弟とわたし。家族6人、みんなでわいわいとお祝いをした。

今思えば、母はやりくりが大変だっただろう。
なにかと厳しい義父母と同居し、二人の子育てをしながら、仕事ひと筋の父をサポートする。母はひとりで何でもこなす、まめなひとだ。

クリスマスだって、わたしと弟の二人のプレゼントを用意して、夜はチキンやオムライス、たくさんのごちそうを作ってくれた。

そして、大きな大きなケーキ。愛がこもったクリスマスだった。

それなのに。

子どもだったわたしは、苦手なバタークリームケーキを見て、どんな顔をしたのだろう。いやだいやだと駄々をこねたのか、我慢して食べたのか、今はもう何も覚えていない。というより、思い出したくないのかもしれない。

大人になった今、心を込めてクリスマスの準備をしてくれていた母のことを想うと、鼻の奥がつんとする。

わたしや弟が家を出るまでの間、家族でいろんなクリスマスケーキを食べた。チーズケーキや生クリームのケーキ、チョコレートケーキ。やがてカットケーキを数種類買ってきて、それぞれ好きなものを選ぶようになった。

そしてクリスマスの過ごし方も変わってゆく。家族から仲間、恋人、そして新しい家族へと。クリスマスはいつも楽しくて、いつも美味しかった。

今年も冬がやってきて、クリスマスを迎えようとしている。
夫とふたり、とても静かだ。

今もクリスマスは楽しくて、美味しい。

けれど、なぜだろう。賑やかな部屋で食べた、あの少しくすんだ優しい色のバタークリームケーキをぼんやり思い出すのだ。

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最後までお読みいただきありがとうございます。
本記事は、漫画『キツネのカササ』でおなじみの旬くんの企画「今年のクリスマス」参加のために、リライトしたものです。

旬くん、すてきな企画をありがとうございます。

各地でたくさん雪が降っています。そして今週末には大きな寒波がやってくるそうです。どうかみなさま足元には気をつけて、楽しいクリスマスをお過ごしくださいね🎄✨