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差し伸べられた、もうひとつの手 【ほしかったラブレター】

#ほしかったラブレター

先生
ご無沙汰をしております。お元気でいらっしゃいますか。

先生へ手紙を書くのは二度目ですね。
初めの手紙は、たしか14年前。先生に手術を執刀していただいた御礼と共に、故郷のよいところを認めました。私の生まれ育った町に赴任されたばかりの先生に、この町を好きになってもらいたかったから。

そして手紙の最後に連絡先を添えました。
とても迷いましたが、先生に私と同じ何かを感じたのです。


里帰り入院をする病院で先生に初めてお会いした時、若くして小さな地域の医療を担う志の高い方だと思いました。

先生は穏やかでよく笑い、しっかりと話すお兄さんの様な存在でした。お医者様らしくない気さくなお人柄に、母から「あきら先生みたいな人と結婚して頂戴。」とよく言われたものです。

退院日にはお忙しい中「ああ間に合った!」と見送りに来て下さいましたね。

地元を離れた後も考えていました。
廻診が待ち遠しかったこと。リハビリ室から病室に戻る階段で、先生のいる病棟を眺めたこと。先生は今何をされているのかと思うたび、なぜか涙が溢れたこと。先生の存在が日毎大きくなったこと。
この気持ちは、恋人に対する裏切りだと自覚しながら。

先生にとって私は沢山いる患者の内の一人で、私にとって先生は雲の上の人。だから先生から「お元気ですか」とメッセージが届いた時、息を飲みました。


先生。
本当はとても嬉しかったのです。叶うはずのないあわい願いが届き、返ってきた。
なのにそっけない態度を取ってしまった事をどうかお許し下さい。

突然目の前にもう一つの道が開いた瞬間、自分の愚かさと狡さに気付きました。

差し出されたその優しい手を握り返してしまったら、何かが動き出してしまいそうで、後戻りできなくなりそうで。

私には、今の生活を全て投げ出す勇気も、覚悟も、幸せになる自信も、ありませんでした。

ごめんなさい。先生には本当に感謝しています。
夢は、夢のまま。これで良かったのですよね。

(800字)


本記事は山根あきら様の企画「ほしかったラブレター」への参加記事となります。

すてきな企画をありがとうございました! お返事はいつでも、なくてもかまいません。
そしてみなさま、Happy Valentine♡


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