見出し画像

春はたけのこ

春が来るたびに、楽しみにしているものがある。
それは夫の実家から送られてくる、たけのこ。義母はなにかと手まめで、毎年4月になると、あく抜きしたたけのこを送ってくれる。

そろそろたけのこの季節だねと、夫と話していたある日のこと。
「冷蔵のお荷物でーす。」と事務所に宅配便が届いた。送り主は、義母だ。

仕事の手を止め、ずっしりと重たいダンボールをいそいそと開ける。まず目に飛び込んできたのは、小分けにされた野菜たち。菜花にカリフラワー、わさび菜にプリーツレタス、どれも義父母が作った採れたて野菜だ。
そして野菜の下に、ジップロックに入った大きなたけのこが2本あった。

その瞬間はまさに、キターーーーーーーっ!!! である。

ウキウキしながら夫に「今年もたけのこ届いたよ。」と声をかける。そして野菜を冷蔵庫に移しながら「菜花もあるし、たけのこと合わせてパスタにしたら美味しそうだねえ。」と言ってみた。
するとそれまで静かだった夫が「よーし。夜、俺が作ったる。」やる気まんまんで言った。ほんと? やったー。

そしてその日の夜、夫が台所に立った。
手際のいい夫は、大きな鍋と小さな鍋にお湯を沸かして、菜花の束とたけのこをさっと湯通しする。その間にパスタを計量し、お皿を温め、パスタソースの準備をする。

わたしはといったら飲み物やドレッシングを運び、夫のまわりをウロチョロするだけ。しまいにはやることがなくなり、えへへと夫の背中をそっとハグしてみる(邪魔)。

夫は苦笑いして「ああ、もういいから、座って本でも読んでて。」
へいへい。
完全に使えない妻。わたしはすごすごとキッチンを離れ、買ったばかりのソファに座り本を読み始める。


しばらくすると、部屋じゅうに香ばしいニンニクとレモンのかおりが漂ってきた。そして
「出来たぞー。」「はーい。」

わたしは温めたスープをよそい、サラダを運び、夫はコトンとパスタをテーブルに置く。席につき、冷えたワインと炭酸水をそれぞれのグラスに注ぐ。

夫が作ったたけのこと菜花のパスタは色鮮やかで、とても春らしかった。なによりたけのこが贅沢に使われていて、とてもおいしそう。写真に撮りたい…

でも我が家では、料理の写真を撮ることはない。どんなに見栄えよく出来たとしても、けして。
なぜって、夫は「温かいうちに、はやく食べて。」が口癖で、出来たての料理を楽しむひとだから。それにもし携帯をいじったものなら、神経質な夫はすかさず「手を洗って」とか「消毒して」と言うだろう。

「今日もお疲れさまでした。いただきます。」グラスを持ち乾杯する。

いつもならスープやサラダを食べるけれど、今日だけは真っ先にパスタをいただく。
ひとくち食べると、レモンの酸味と菜の花の苦みがふわーっと広がった。そしてコリコリとした、たけのこの食感。最高だ。「おいしい!」夫も「なかなか上手くできたな。」と満足そうだ。


次の日も、夫がたけのこと菜花のパスタを作ってくれた。全然飽きない、むしろ毎日食べたい。そしてその次の日は、焼き筍とお味噌汁にした。煮物も作りたかったけれど、たけのこは数日でなくなった。

ああ、季節の食材を楽しむしあわせよ。お義母さんありがとう。夫もありがとう。
やっぱり春は、たけのこ。

記事を読んで頂きありがとうございます(*´꒳`*)サポートをいただきましたら、ほかの方へのサポートや有料記事購入に充てさせて頂きます。