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感覚を共有したい相手は誰? ~docomoのFEEL TECHを通して感じたこと~

テレビで彦摩呂さんのブイヤベースの食レポを見た綾瀬はるかさんがスプーンを手に取るdocomoのCMをご覧になって、自分でも味わってみたい!と思った方は多いでしょう。
もちろん私もです。グルメ番組だけでなく、料理番組もどんな味か分かって作ることができるなんて、なんてすばらしいんでしょう。

そんなdocomoの『FEEL TECH』のCMで紹介されているストーリーは明治大学の宮下芳明教授とH2L株式会社との連携で開発された技術を基にしています。

この技術を展示会でデモンストレーションする様子が1月17日にTBSの『THE TIME,』で紹介されていました。
(ながら見だったので、番組のどのコーナーで紹介された、何という展示会だかが分からないのです…只今開催中だとは思うのですが…)
(東京国際フォーラムにて1月17日~18日開催の最新技術の展示イベント「docomo Open House’24」でした。オンラインでは2月29日まで展示内容を掲載するらしいです。出典:ドコモの“味覚共有”を体験した - Impress Watch)
CMでは『FEEL TECH』のスプーンを使うことでテレビに映る彦摩呂さんの食べたブイヤベースを綾瀬さんが味わうことができる!という表現でしたが、番組を見てこの技術が提供するものは少し違うのではないかと感じました。


番組では、FEEL TECHのブースにきた来館者は、最初に味覚についてのアンケートに答え、自分(受信者)の味覚のクセ(苦味を感じやすいとか甘味に慣れているとか)を調べます。
そして、「発信者の感じた味」を受信者が感じることができるように、五味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)の元になる成分が溶けた液体をミリ単位で調合して味わうということのようです。

つまりそれは、私が彦摩呂さんと一緒に同じ鍋のブイヤベースを食べたとしても、私が感じる味と彦摩呂さんの感じた味が同じになることは、まずない、と言うことではないでしょうか。
そこで私が食べるブイヤベースと、隣で彦摩呂さんが同じものを味わった味を再現したFEEL TECHのスプーンで味わう再現ブイヤベースは違う味になるということです。
同じ釜の飯を喰ってなお、同じ味を感じることはないのだと思うと切なくも感じるし、個人の尊厳も感じます。

そして、ブースではCMで紹介した「旨味の宝石箱ブイヤベース」ではなくて、「幼い女の子が美味しくないと言ったトマトスープ」の味を提供されていました。
試食したレポーターは「酸味が薄く塩味が強い」と言っていたと思います。
これを小さい子が「ちょっと酸っぱいし、塩がきつくて美味しくない」なんて言えませんよね、とも。
よって、子どもは「おいしくなぁい」と顔をしかめ、料理を作った親はガックリと肩を落とすという光景が全国各地で毎日繰り広げられているわけですが、FEEL TECHの技術を使えば食卓に並べる前に親が味見をして子どもが美味しく食べられる味に調整することができるのです。

調べてみたら、別に他の誰かが味わった味にチューニングしなくても、対象の食品の味をストレートに表現することも当然可能でした。
その場合でも、私が感じた味と誰かが感じる味は異なった味わいになりそうです。


あれ? これって感覚過敏/鈍麻を理解するために利用できるんじゃない?と思ってさらに調べてみたら、実は去年のFEEL TECHは慶應義塾大学の南澤孝太教授とのプロジェクトで触角を共有することに挑戦していたのでした。
(そうだよねー、視聴覚の次に五感の何を伝えるかって言ったら、まずは触角だよねー)
あまり民放を観ないので去年のCMは見ていなかったようです。ごめんなさい。
もしかしたら、今年の「味覚」に食いしん坊センサーが反応しただけかもしれません。すみません。

こちらの記事の最後の方に「障がいなど異なる身体性を持つ人や異なる文化を持つ人の感覚を共有すれば、他者への理解を深めることにもつながります」と言及されていました。


視聴覚の次に、って簡単に流しましたが、視覚や聴覚も実は個人差が大きいですよね。
私は右目と左目と、片方ずつで見ると見える色が少し違います。
空を見上げる時、左目で見ると右目で見た時よりもほんの少しだけ藤色がかって見えるのです。
一人の人間の右目と左目でさえ見えるものが違うのですから、他の誰かが見ているのもが違うのは当たり前のことです。

夫は、私が驚いて声をあげると私以上にびっくりして「そんな大声を出さないでよ」と言います。
別に絶叫してるつもりはないのですが、とても耳に響いて苦しいそうです。

隣にいる家族や親しい人のいる世界と、私が感じている世界は同じだけど全然違うんだということ。どちらが正しいという訳ではないことを心に留めていたいと願っています。
でも、「違うんだと思うことしかできない相手の世界」を垣間見ることができるかもしれないと知ったことは、大きな喜びでした。


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