サイレンな夜

もう住み慣れた、自分には贅沢すぎるホテルの一角。

今まで殆ど物干し竿的扱いを受けていたカウチに寝そべり、クッションを一つ腹の上に乗せて日経新聞を読むという大人な時間を過ごしていると、遠くからサイレンの音が鳴り響いた。

高層なのでサイレンがどこからやってきたのかは見えないが、自然と窓に視線が行き、外はすっかり夜だと知る。

雨の日の夜にサイレン。この組み合わせはどうも不吉な予感を漂わせたがるが、私にとってはこの上なく落ち着く環境だ。

本来なら「雨」という億劫なものと「サイレン」という非日常な音に畏怖するだろう。でも今は雨は贅沢なホテルが代わりに浴びてくれているし、今すぐにコテンと寝たって何の支障もないほど丁度いい空間にいるわたしには、サイレンの音さえ人々の生活音と化す。

心地いい、サイレンな夜だ。

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