vol.2「動物性」 VS 「植物性」?

最先端のバイオ技術から、今晩のおかずのお話まで。
微生物の道先案内人が、オーガニックのもろもろを
ミクロからマクロまでたっぷりお届けいたします!

はじめまして。オーガニックや農業、微生物のお話(できるだけためになるやつ)をつづっていこうと思います。私は「金澤バイオ研究所」という微生物の研究所の企画をやっております。こちらは、「すべては土から」をコンセプトに、四半世紀以上のあいだ大学で微生物の研究をしていた父の立ち上げた研究室。土のことなら顕微鏡でしか見えないミクロから、宇宙レベルまで、がっちり説明する自信がありマス! この世界を、たまたまこの環境に生まれ落ちた私がハブとなってお伝えできればと思っております!

今回は、土の世界にもあるんですね「動物性」VS「植物性」。それぞれどんなのがあるの? とか、メリットデメリット、そう言ったお題でいきます。

土には「動物性」 VS 「植物性」どっちが正解?
肉食? 草食? あなたはどっち派? 私の食の好みはどちらかというと肉食です。実は農業の分野でも、資材の点から「動物性」と「植物性」があります。お好みもあると思いますが、どっちが正解なんでしょう?。今回のお題は、農業の分野での「動物性」VS「植物性」というお話をしてみようと思います。


このところのナチュラル嗜好で、色はもちろん、コスメからファッションまでアンチ毛皮(違う?)などなど、動物性が不人気な今日この頃です。

なんとなく「植物性」のほうが安全そうだしヘルシーな感じがする、と軍杯が上がっていますよね。今やお肉大好き国家アメリカでさえ、ここ数年でヴィーガン率が6倍に増えたとか! ベルリンでは15%増加とも。大豆ミートでお肉代わりの時代。ひと昔前のテンペ(大豆のお肉もどき)は、私の料理の腕の問題なのか、大豆よりもお肉よりもまずいシロモノになり下がります。モドキをおいしく食べるのってなかなか難しいものです。精進料理では◯◯もどき、と殺生ができない禅宗のお坊さんがお肉や魚もどきのレシピを編み出しましたね。やっぱり欲求ありますよねー。


「植物性」と「動物性」の肥料おさらい

では、まず土に入れる資材「肥料」のどっち? からまいります。
①植物性のもの
植物性のものは、植物を腐らせて作る「植物性肥料」、馴染みのあるものでは油かすやトウモロコシなどがあります。対して動物性の代表選手は「牛フン」。そのほか「鶏フン」などの動物のフン・シリーズ。そのほか動物性の資材には肉骨粉魚や血を使ったもの、コウモリのフンなど、マニアックなものもラインナップされておりますネ。

②動物性のもの
さて。肉派は何かとやり玉に上がりやすい今日この頃ですが、農業分野でもそっちの傾向が強いですね。金澤バイオが作るオーガニック肥料「土の薬膳」は、100%植物性とうたっておりますが、真正ヴィーガンの人からすると牡蠣は動物性ということでした。牡蠣の殻なので? とは思うのですが、ウールのセーターは羊の毛なので動物性とか。厳しい! そんなアンチ動物性が強めの今日この頃ですね。

海外の例をおひとつ
ここで私、アメリカのオーガニック肥料を調べてみることにしました。そのときたまたまアメリカに行っていた友人(農業未経験者)をつかまえ、現地のホームセンターで人気の肥料をノミネート、聞き込み、購入、日本に郵送に成功。原料を洗い出して日本に送ってもらいました。で、私が見る前に友人「トランクん中臭くて困るんだけど〜。」と。送られてきた肥料パッケージは、何となくかっこいいけれど、袋を開けたらプーンとカツオ節のような生々しい臭い。確かにトランクに入れるには臭すぎる・・・。ごめん(笑)。土に入れてみたいとは思わない匂いが。原料に魚の骨、とあるので「動物性」のくくりですね。

アメリカ肥料

こちらがアメリカのホームセンターでポピュラーなオールマイティの肥料です。花と野菜の肥料です。

原料は魚の骨、昆布の粉、アルファルファのペレット、硫酸カリウム。ダシにしたらおいしそう。

しかも開けてみたら「お魚のふりかけか?」原料乾燥しただけなんじゃ・・・??? 結構粗めです。原料を調べたところ原料は魚の骨、昆布の粉、アルファルファのペレット、硫酸カリウム。臭いがまだまだあることからこれを乾燥させたのかな? と推測。微生物博士の父に聞いてみると「水分が30%以下になると、腐敗菌が活動できないから臭気が発生しなくなるんだよね。魚の干物と同じ原理だよね。干物って感想してたら匂いそんなにしないでしょ? ニオイのある肥料はキチンと下処理をされないまま、乾かしただけで肥料にされちゃう。これ乾燥状態でも臭っちゃてるけどね。」

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色は薄め。香りはモロいりこダシ。

こちらは魚が原料ということで「動物性」の仲間。です。私もいち業者として他者を落とし入れているわけではなく、現実をフェアに伝えております。でもやっぱりカツオブシ臭のする肥料は避けたいものです(泣)。そして今回アメリカについて調べて驚いたことに、州によってオーガニックなどの規格が異なっています。このアメリカ事情については別枠で「お題」にしたいのでこの辺でやめておきますね。

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これが原料。色薄め。アガリクスがなかったため上の写真は干し椎茸です(あしからず!)

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出来上がりこれ。原料よりも色が黒くなっていますね。お味噌も大豆なのに茶色いのと同じ原理ですね。

製造の都合などでなかなかじっくり発酵できない事情もありそうですね。コストやスピード重視になるとそうも言ってられないのが現状なのでしょうか。それでは、本題の動物性資材の問題点の根拠をひも解いてみましょう。まず代表的な牛フンを例にお話ししていきます。

命に関わる!肥料のフン問題

①雑草問題
牛は植物を繰り返し噛んでいるのでこなれたフンは腐りやすく、堆肥に使いやすい。しかし栄養の面でいうと肥料効果はあまり高くありません。また十分に完熟していないと、フンの中に雑草の種子が入っていて、土に入れたら雑草が生えることがよくあります。(外来種の雑草はとても厄介)有機肥料入れて草ボウボウになる、という現象もこれですね。

②エサ問題
それとエサとなる草問題。ほとんどの牛は農薬で汚染されていたり、遺伝子組み換え操作をされたエサ、抗生物質やホルモン剤を使ったエサを食べています。このフンから生まれ資材で作った農作物は安全とは言えません。

③未熟問題
未熟な牛フン堆肥を土に入れると有毒なガスが発生したり、未熟な堆肥が腐る時に微生物が繁殖するのにチッソが必要になり、植物にとって必要なチッソややリンを横取りしてしまうんですね。うーん、世に出回っている牛フンも「未熟」だと悪さするんですね。

④病原菌問題
ここでもうひとつ、フンの肥料の大問題を指摘したいと思います。フン=排泄物ですね。これをそのまま土に入れて、その土が付いた生野菜を食べるとしたら・・・ローフードとかホールフードとか気取ったこと言ってる場合じゃないですよね(笑)? きつい冗談ですね。実はこれ、普通に起きているんです。アメリカでロメインレタスの生食による食中毒が多発。死者まで出てしまって大ごとになりました。これは未熟な肥料が原因と思われます。アメリカはレタスの生食を禁止しましたが、これでは根本的な解決にはなっていません。原因はわかっているはずですが、  。

⑤ガス問題
未熟な堆肥を土に入れると、アルコールや酢酸ならいいけれど、悪臭を放つガスが発生します。炭酸ガスになる前が臭い。完全に発酵すると臭いはなくなります。臭いが残っているというkとは、肥料としては未完成品。たとえ乾燥して無臭でも、土にまいて水を含んだら臭いが発生します。これが未熟な証拠となります。未熟な堆肥は土を弱くしてしまって、逆効果になってしまいます。
悪臭を放つ毒性の高い化合物が生まれてしまいます。そもそもガスが発生するのは、栄養価が高いから。フンやその他栄養価の高い素材が土に入ると腐敗ガスや様々な危険な化合物ができるのです。・・・・・

・・・臭いが残る未熟な製品が出回るには理由があります。発酵が終わった風に乾燥させるのが簡単だからです。面倒な堆肥化をせずに(味噌作りのように手間がかかる)乾燥だけで出来上がれば効率上がりますね。特に大量のフンは待ったなし。
完璧なものでなければいけないとか、神経質になりすぎているわけではありませが、これらのリスクは目に見えませんが、私たちの体を汚染して弊害を起こすのは間違いありません。ちびっこたちにはリスキーな作物はまずいですよね。


・・・ここで先ほどの動物性=ガス発生=臭い。でしたが、植物性だって出来上がるまでは相当臭いです。堆肥に欠かせない「匂い問題」について語り出すと止まらないので、それは「お題」として別枠にまとめたいと思います。話を戻して肥料は土に入ってナンボのものです。土に入れた作用についてお話しします。


こわ〜いフン問題の解決法
問題山積のフン肥料を列挙しましたが、じゃあどうしたらいいの? という解決策をお伝えします。フンはいやおうなしに毎日排出され、これをいい形で資材に変えていくのは理にかなっていますね。

土や肥料って、地味立ち位置ですが、実は人間にとって相当大事なファクターなんです。直接口に入れるので、実は生食の場合は命がけな課題なのです。スルー口ですから、生野菜が体にいいからと食べて、菌にやられて健康を害したり、下手したら命を落としてしまうというブラックジョークは止めなければなりません。ですから、「完熟」が大事なんです! 

動物性の菌や薬品などの害となるリスク要因は、そのくらい派手に熱して撹拌して、の丁寧なプロセスが必要なわけですね。
そのプロセスを経た「動物性肥料」は、土に入れてももちろん良いことはすれど、悪さはせず、そのカロリーやパワフルな効果のいいところを発揮してくれるのです。

解決策その1.バイオハザートフリー堆肥の誕生
危険なものからフリーということにこだわりを持つ「金澤バイオ」ですが、それにはワケがあります。その怖い因子の現実をデータや実験で知り尽くしているのです。大腸菌、抗生物質耐性菌、そのほかたくさんの目に見えないバイオハザートがウヨウヨしているのです。それをフリーにして土に入れて健康になろう! と伝え続けております。それを形にしたのが「土の薬膳」®︎肥料なのですが、それが実現に近ついたきっかけが九大で行われたイベントです。大学の研究成果を市民の皆さまに知ってもらおう、という趣旨だったような。

平成13年、九州大学時代に学内のイベントがあり、研究課題「超高温・好気発酵法による有機性廃棄物の資源化新技術の創世ーキャンパス・ゼロエミッションシステムの構築に向けてーとして、オーガニック肥料を発表しました。その名は「バイオハザートフリー堆肥」という名前。ゲームの名前のようですが、バイオハザート=危険物質。直訳すると、危ないものフリー、という名前です。
内容は以下のもの。

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代表者:金澤慎二郎 (九州大学大学院農学研究院 教授)教育・研究の概要

超高温好気発酵法による「21世紀型有機性廃棄物の資源化システムの創生」を構築するために、農と医の教官と学生の共同作業により実施する。
学内から発生する生ゴミを学外に出さない、いわゆる、キャンパス・ゼロエミッションシステムを創生する。本研究成果は、九州大学研究都市づくり関連研究として活用する。
1.バイオリアクター省エネ発酵法の開発
 有機性廃棄物の堆肥化を迅速に行うために、新規に高い発酵熱を活用するバイオリアクター省エネ発酵法を開発する。
2.バイオ熱温室の創生
 九州大学方式として、「ヒートポンプにより回収した発酵熱によるバイオ熱温室の創生」の基礎研究へと発展させる。
3.堆肥の安全管理システムの構築
 病原菌の残存の有無を衛生医学の観点から把握し、安全管理システムを構築する。


植物性はやさしいのか?

さっきの植物性でも熟するまで臭いよ、に近い観点ですが、植物=マイルド、ではないのです。西洋医学の薬と東洋の漢方だと、植物性の漢方方がマイルドなイメージがあるけどとんでもない。漢方でショック起こしたりアレルギー起こしたり、自他共に怖いエピソードはたくさん。侮れないのですよ、植物の力。

数字で見ても、植物由来の「土の薬膳」の成分は窒素4.6、りん5.8、カリ1.8。(本当はいわゆる窒素リン酸カリ以外で土にとって大切なミネラルや成分はこれだけではないのですが)化学肥料顔負けの結構強めでございますよ。匂いもせず、植物性100%というと「やさしいけど弱い」イメージを持たれますが、
初期の立ち上がりが意外と良好。そして根っこに触れても肥料焼けせず(化学肥料は強いので根っこに触れると焼けることが)、とこういうデリケートなところにはマイルドにやってくれる。入れすぎても大丈夫なので園芸初心者の方が入れすぎても問題ないです。本当に自然は偉い、としか言いようがない仕事っぷりなのです。プロセスは、じっくりジワジワとくるので、植物がじっくり頑丈になります。

人間が頭を使って作りあげた農薬や化学肥料よりも、繊細かつスピーディ、じわじわとも効いてくれるわけですから、ほんとに頭が下がるっていうものですネ! そんな土と植物の、自然界にのっとった相関関係を円滑に再現してくれるオーガニック肥料、本当にエライですよね。大事です。


畑の肉投入。植物性を肉並みに
先ほど植物性=マイルドというわけじゃない、と伝えましたが、パンチのある肉にも負けない、というとそうではないです。それに比べると優しいのが現実です。そこで私たちは「土の薬膳」を作るときに考えました。肉に負けない植物性を作ろう。そこで、考えたのが文字通り「畑の肉」です。そう、大豆やお米、きのこ菌床、ビール麦芽カスという、植物ながらパンチのあるラインナップを揃えました。発酵するときの臭いこと臭いこと。パンチあるだけありますネ。ということで、工夫次第では植物性なのにパワフルな力を発揮する資材ができるわけですね。


家畜の場合病原菌がいるから。動物性は窒素やリンが多い。重要だからいい。植物はカリウムが多い。
薬膳は植物性でもおから、大豆タンパクが、植物性たんぱく質、リンはビール麦芽カスが発酵するときにリンが必要なため。
きのこ菌床植物を培養するときにきのこはカビだからたくさんリンが必要となる。だから。
きのこの菌体も微生物、リンもタンパク質もある。

菜食主義ではパワー不足、だから肉的な栄養を植物で補うには? のレシピなのですね。だから力強い効果を土の中で発揮できるわけです。そして高カロリーの栄養豊富なもの、かつ未発酵だと土に入れたら栄養価が高いものが大好きな病原菌が増えてしまうのですね。でも十分高温で発酵しているから、悪させずに栄養も入れられるんです。


「土の薬膳」®︎動物シリーズを作ってみた

さっきから動物のよくないところばっかり言ってましたが、薬膳の動物シリーズを作ってみました。きっかけは地元ではおいしいたまごで一目置かれている養鶏場の方からのお声かけ。鶏糞は病気になったり匂いがきついのがネック(臭い=病気の元)でした。超高熱発酵菌で作ったところ、匂いがなくてガツンと効く、という位ことで園芸店で評判に。私たちも作ってみました「土の薬膳バード」。農家さんに匂いを嗅いでもらったら「ほんとにコレ鶏糞?」とほぼ100%のお答えをいただいております。もちろんバイオハザートフリーの自信作でございます。しかもお安い! 一部園芸店でテスト販売を開始しておりますが、なかなか好評のようです。

この流れで「薬膳ビーフ」「薬膳ホース」「薬膳ピッグ」etc。と薬膳動物シリーズをリリース予定。日々排出されるフン問題を解決すべく、頑張ります!

で、結局どっちがいいの?

結論。しつこく言っている完熟さえすればどちらでもいいということです。動物性はチッソやリンも多いので、パワフル。植物性はチッソやリンが少ないので病原菌にやられにくい、植物性は安全であるけれど炭水化物が多く養分が少ない。リスクは少ないけれどそれなり、という結果です。「土の薬膳」®︎の場合は栄養不足をお米や大豆やビール麦芽カス、きのこ菌床で補っています。要はきちんと「完熟!」していること。ここさえ押さえれば、その人の目的、必要な栄養でチョイスすればいい。完熟している前提で、植物性のいいところ、動物性のいいところ、成分を目的別に考えて土に入れるのがベストだと思います。難しいことはないですね!

今回動物性のリスクについてばかり言いましたが、植物性にも問題があります。動物のエサの原料、トウモロコシや油かすの多くは中国など海外からの輸入もの。きちんと発酵すれば、微生物がデトックスしてくれますが、未熟ですとリスクをそのまま土の中に。動植物、どちらにしても「完熟がキモ」ということに変わりはありません。

まとめると、どんな原料だろうときちんと発酵すれば微生物がきちんと天然の力でデトックスしてくれるわけです(電気も使わず自らの力で。エライ・・・)。悪い原料もきちんと発酵さえすればいいものに生まれ変わるなら、これぞ本当のエコではないでしょうか?

私は絶対丸々!といういこだわりがなければ、「完熟」さえしていれば、用途で使い分けるツウな使い方がベストだと思っています。
経験値で言いますと、以前肥料とか土とかまったく知らなかったとき、鶏フンでチンゲンサイを作ってみたのです。こんな地味な野菜にも関わらず、肉厚かつやわらかい葉のと甘み、うまみにはまってしまい、収穫したチンゲンサイを完食した覚えがあります。その経験から漠然と「鶏フンっていいかも」と思っていたのでした。

ものを比較したり選んだりするとき、どうしてもイメージ先行してしまいますよね? 自然派とか無添加は何となく良さそうとか。私はそうなんですが。でも実際その専門になると実は間違った認識をしていることがあると気づくわけです。車の専門家からしたら真実を知っているはずだし、その業界ではタブーで言えないこともあるでしょう、真実ってあるものです。

少なくとも農業やオーガニックや微生物マターの話題であれば、ここに書いてあることは(100%とは言えないかもしれないけれど)ほぼ確実で大丈夫な情報でございます。ということで信用していただき、日々の選択や毎日の生活に役立てていただければと思います。

・・・というわけで、肉vs植物論争は、結局やっぱり「完熟」が答え。リスクもノンリスクにしてくれるお助けマンはやはり微生物の技だったわけですね。

vol.2 も無事提出できましたので、お次のお題も考えます!


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