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がんサバイバーと未来の医療,そしてSDGs

臨床研究といえば、医学研究者や製薬企業が率先して行うものだ、という患者である私の認識はどうやら違っていた。

2008年、邦題「希望のちから」とする映画「Living Proof」がアメリカで制作された。

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NBCの医療担当記者ロバート・バゼル氏の著書『Her-2: The Making of Herceptin, a Revolutionary Treatment for Breast Cancer』が原作である。

悪性度が高く、手術予後も芳しくない(再発・転移の危険性が高い)とされるHer2ポジティブ乳がんサバイバーにとって、商品名「ハーセプチン」と呼ばれる分子標的薬「トラスツズマブ」の登場はセンセーショナルだったのよ、と幾度となくサバイバー仲間から聞かされていたのは、私の乳がんのタイプがまさにHer2陽性だったからである。

余談ではあるが、3週間ごとに化学療法室に通い、「ハーセプチン」療法に挑んでいた頃を懐かしく思い出す今。

「希望のちから」が封切られた2年後の2010年、ピューリッツアー賞やジェラルド・ローブ賞受賞のジャーナリスト、ジータ・アナンド原作の書籍『Extraordinary Measures』(邦題『小さな命が呼ぶとき』)が、同じアメリカで映画化された。

難病「ポンペ病」と闘う二人の我が子を救おうと、製薬会社を設立し奮闘するパパとそれをサポートするママ、そして、その難病の薬に精通した学者の実話である。

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いくつもの犠牲を払い、また、いくつもの困難を乗り越え、ハーセプチンを発見した「希望のちから」の主人公、スレイモン先生は、来日した時、政府を動かすのは、正しい知識を持ち合わせた患者や患者組織である、と話した。

アメリカでは、患者にアドボカシーを勧めるよう4日間のアドボケート養成講座が開かれ、専門家から知識の共有を可能にする、という。

「希望のちから」では、乳がんの治療薬のひとつとしてハーセプチンがFDAに認可される過程において、主人公のドクターのみならず、あらゆる医療者や研究者、製薬企業、そして、患者や患者団体の協働が必要であることを教えてくれた。

「小さな命が呼ぶとき」では、二人の幼い子どもがポンペ病患者のパパ、ジョンは、子どもを持つ親たちに呼びかけ財団を立ち上げ募金活動をするも、新薬開発ができるほどの金額には達せなかったため、さらに奮闘を続ける。

ついに、ジョンは安定した大手企業のサラリーマンを辞め、ポンペ病研究の第一人者と高評価される博士とタグを組み、製薬会社を起業し、ポンペ病の治療薬開発に邁進することになったのである。

ハーバード・ビジネス・スクールを卒業したエリートと、一見、偏屈そうに見える薬学博士との二人三脚から始まり、ベンチャー企業設立、企業買収の内情、また、企業であるが故に捨てられない利潤追求とCSRとの葛藤などが巧みに描かれていることで、共に観た夫は、わたしとは違った観点から感心したようであった。

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ところで、わたしは、今年に入り、いくつかの患者・市民向けセミナーに参加する機会があった。

セミナーの内容には、臨床研究・臨床試験・治験についてのものが含まれていて、その時、思い浮かんだのが、これら二つのアメリカの臨床研究にまつわる実話の映画であった。

実際、セミナーのひとつでは、講師の先生から映画の紹介があったりもした。

セミナーでは医療者の講師は、臨床研究を「人々とともに、人々によって実施される研究」とした上で、患者やその家族をはじめ一般市民の臨床研究への参画を呼びかけ、これは未来の医療のための社会参画でもあると説く。

2015年に設立された国立研究開発法人日本医療研究開発機構、通称「AMED」では、患者さん一人一人に寄り添い、そのLIFE(生命・生活・人生)を支えながら、医療分野の研究成果を一刻も早く実用化し、患者さんやご家族の元に届けることを目指し、医学研究・臨床試験における患者・市民参画(PPI : Patient and Public Involment)の取組を目指します、と明記している。

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アメリカでは、1988年、AIDS患者団体の活動を契機として、3年後には、患者代表者がAIDS治療薬開発に向けての委員会メンバーとなったことを皮切りに、患者の声が医薬品開発に反映されるようになっていった歴史がある。

また、ヨーロッパでは、1996年、HIV感染者がヨーロッパ医薬品庁との対話を実現させ、これが双方の連携の契機となり、徐々にその連携が強化されていくことになった。

我が国日本では、まだ始まったばかりのPPIである。

がんに罹患したわたしに何ができるだろうか。

6年前に採択されたSDGsが、コロナ禍の今、地球に生きるわたしたち皆に課せられた共通の目標として再認識させられるのは、わたしだけではないだろう。

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非専門家であるわたしが、専門家の持つ知識や情報を共有し、専門家や企業とともに研究のファースト・ステップからパートナーシップを築き、研究や創薬、治験にかかわっていくことは、未来の医療に貢献することであろう。

これこそが、がんに罹患したわたしができるSDGsではなかろうか。

来月から、一般社団法人医療開発基盤研究所主催の患者・市民向けを対象にしたコースで、創薬から処方までの過程を理解し、ユーザーの視点から行動するのに必要な知識を習得することにした。

これからも、医療に対して常に主体的な姿勢で臨みたいと思う。

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