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この夏、1人のメンヘラ女子と出会った話①

『俺のライフハック』響です。

書こうか書くまいか悩んでいた話がありました。

私事ではありますが、この夏1人のメンヘラ女子と出会いました。

ルポという動機で会ってみたものの、心の空洞を埋めようと依存し合ってしまったそんな男女のお話を書き綴っていこうと思います。

只のフィクションだと思って読んで頂ければ幸いです。

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今思い返せば、長いこと白昼夢を見ていた様なふわふわとした記憶だ。

今年の6月は梅雨と30度超えの暑さが入り交じって、過ごしにくかったことを肌が覚えている。

昼前に起きて夜勤の支度をし、SNSの巡回を行っているとTwitterの裏アカウントに1通のDMが届いていた。

『そういえば、○○町に住んでるんだっけ?』

送り主は元カノの友達(以下N)だった。

俺の持っている裏アカウントは元々、数年前付き合っていた彼女とその周りのお友達間をフォローし合うためだけに作成されたものであり、数年前に関係が消滅してからはフォロワーに残ったNとリプライを送り合うのみのツールと化していた。

「そうだよ、○○町のこの辺。」

『結構近所じゃん。今度飲みに行かない?彼氏と別れて暇なんだよね。』

Nとはこれまで直接会ったことは無いものの、元カノから人物像は聞いていた。
高校時代は大人しい性格で、目立つようなタイプじゃなかった事
エリートな家系に生まれ、大学受験時に1年間浪人している事
大学進学を機に異性を覚え、遊び耽る様になってしまった事。それと同時に元カノ含め周りの友達とも音信不通気味になりかけていた事。

N自身、Twitterでは出会い系アプリを駆使し色々な男と遊んでいる写真を投稿していた事は俺も知っている。今で言うところのビッチだろうな、と薄っすら想像を抱いていた。
また、彼女は自身をメンヘラと称し時々精神的な弱さをインターネットに吐いていた。

ここで俺は今まで生きてきて、メンヘラという人種に関わってこなかったことに気づいた。相見えない人種だと思っていたし、この先も無縁だと勝手に決め込んでいた。

メンヘラか

興味が勝った俺は取材と云う名目で彼女の誘いに乗った。この時点で決して下心が0だった訳ではないが、それよりも彼女のルーツや生き方、考えを知ってみたいという好奇心が強かった。

LINEを交換し、約束を取り付けた。


それから数日後彼女の最寄り駅で待ち合わせた。久方ぶりに緊張していた気がする。改札を出てLINEのやり取りをし、彼女を特定した。

「Nさん、でしょうか。」

『あ...そうです。』

「初めまして、になるんですかね。今日は宜しくお願いします。」

『あ...宜しくです。』

物凄く華奢な女性だ。形容動詞を勝手にいじっていいのかわからないが《過華奢》と表していいくらい細い。年齢は俺と同じだが幼く見え、加えてちゃんと栄養取ってるのか?と感じさせるほど肌が白い。

元カノから聞いた話から勝手に人物像を想像していたが、かなりかけ離れていた。そう思うと同時に、イメージ現実間のギャップが俺の好奇心を加速させた。

夕日の眩しさに辟易しながらNに駅近くの居酒屋まで案内してもらい、そこで密会となった。聞けばここは頻繁に元彼と訪れていた思い出の居酒屋なんだと言う。

俺もNもお酒が弱いので、カクテルで乾杯した。

彼女のルーツとしては、両親は日本最高峰レベルの大学を卒業、姉は現役の医者だという。N自身も同じレベルを目指していたものの現役時代では届かず、浪人するも叶わずといった結果に落ち着いた。そして大学進学を機にこの町で一人暮らしを始めたのだという。

俺らが過去に投稿したTwitterの話を舵に話は膨らんでいった。

「そういえば彼氏とはいつから付き合ってたの?」

Nは淡々とした口調で話を進めた。元彼とは大学の学部で出会い、数年前から付き合っていたがN自身の重さが裏目に出て1か月程前に別れを告げられてしまったらしい。大学へ進学してからその彼以外にも交際をしていた男はいたが、特に思い入れがある存在らしく、まだ忘れきれないと言う。

「ヨリを戻すことも考えてるんでしょ?」

『できればしたいけど・・・。』

口をつぐんだ後、改めて話してくれた。性格や考え方の違い、心の奥底で互いに共感できない部分に気付いており、それは交際している上で障壁になる場合もある。それに再度交際を申し込んで付き合っても、再発しうる重さからより一層嫌われてしまうのではないかと懸念を感じていた。

『嫌われるくらいなら、今は付き合わない方がいいかも・・・。』

俺はずっと抱えていた問いを投下した

「なぜメンヘラになってしまったのか。」

話を聞くに、彼女が歩いてきた人生に歪みを感じた。消極的な性格から中学・高校時代では周りと上手く馴染めないばかりか、軽い虐めを受けることもあった。自分を殺して人と関わっても、『あなたの考えてることが分からない』と距離を置かれてしまい友達と呼べる存在はできなかった。家に帰っても結果を残している姉ばかり寵愛を受け、いつも比べられていた。どこにも居場所はなく、長く蓄積したストレスはいつしか承認欲求の肥大へと変化した。正解が分からない日々の中でコンプレックスが募った。

大学では、男性比率の多い学部で勉学に励んだ。その環境から、女性というだけで特別扱いを受ける部分もあったそうだ。女性というだけでちやほやされる、自分が認められたような気分になれる。少しこちらから寄り添えば大抵の男性は優しくしてくれる。自分は誰かに必要とされる存在だと認識した。

でも、それはベッドの中だけに限定されていた。

一度交じりあってしまえばそれ以外私は都合の良い人間なんだな、と次第に気づいた。自分が誰の何なのか分からなくなっていった。そんな時に1か月程前に別れた彼氏と出会い、強く依存していった。明確に自分に愛を伝えてくれて、自分を必要としてくれる、そんな存在はNにとって宝石の様だった。

一緒に時を過ごす日に限れば。

会えない日は寂寥感に拍車をかけ、今までよりその日限りの男性との逢瀬を増大させた。マッチングアプリ、ナンパ、大学の同期、手あたり次第だった。行為自体が好きなわけではないそうだ。彼女は気づいているか分からないが、その日その日に自分を愛してくれる存在が欲しいだけなのかもしれない。行為が終わり、一人になればまた寂しさが生まれ一人で泣きくれた。そうしてまた仮の愛を貰いに家に男を呼び込む、それのループだった。

禄に口をつけていないグラスの氷をかき混ぜながらNは話した。

『それでも、元カレは何度も必要としてくれて、自分に唯一感情を向けてくれる人なの。他の男性を考えられない理由はそれかな。』

いつしか敬語は取れていた。自分につかえていた物が多少とれたのだろうか、酒がまわってきたのだろうか。

『生きていくのって難しいね。』

何度も自嘲気味にそう笑っていた。

「メンヘラになった今、後悔はあるの?」

『はっきりとよく分からないけど、昔より明らかに寂しさが強くなったし、気分が沈むようになったね。できれば“普通”になりたいな。』

”普通”とは彼女が今まで目にしてきた同性の子たちを指すのだろうか。もう戻れないことを知っているかのような寂しい物言いだった。

気づけば時刻は21時を回っていた。また機会があれば、と改札前で解散した。


家に戻り、俺は部屋で一人先程までの時間を思い出していた。

初めてNを目にした感想としては、思いのほか普通過ぎる見た目をしていたことが印象的だった。肌は白く、華奢な身体付きではあるがそれでも派手に遊んでいるようには見えない。

また、始終感じたのが極度のネガティブ思考だということだ。そして信じられないくらい声が小さい。密会の場所として選んだ場所が場所ではあるが、日常に支障をきたすのではないか、と心配になるほどだ。本人からしたら思い出したくないかもしれない過去を聞き出したのは俺の方だが、今の自分をも否定してしまうかの様に浸食されているように感じた。確かに自分を今の彼女の立場に置き換えてみたとき、満たしても満たしても満ち足りない寂寥感や欲求に囚われてしまい、終わりが見えない日々が続いているとする。それはもうその日暮らしと変わらない。その日その日に自分を特別扱いする人間を探し続けることの果てしなさを想像するだけでも身がすくんだ。

しかし俺は彼女ほど苦しんだことは無いものの、それでも共感できる部分はあると感じた。人にちやほやされたいという感情、自己顕示欲や承認欲求は抱えているし、それが悩みの種となる日もある。コンプレックスだって腐るほどあるし、人と比較されることに嫌気が刺すこともある。お互いが弱いというよりは、みんなそうなのかもしれない。ただ、それのぶつけ方や表現の仕方が違うだけなのだ。

それと同時に、自分自身もメンヘラになってしまう可能性は十分にあるんだろうな、と息が漏れた。

肌の白さと対比的に黒目が大きい瞳は、一度踏み込んだらもう後に戻れないような深い色を感じた。

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以上、『俺のライフハック』響でした。

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