見出し画像

第5話 武士に二言はない

5. 復習(1) is, am, are からの適語選択問題の解法

(4月30日 教室③)

教室を取り囲む木々の中に1本だけ、薄ピンク色の淑やかな花を咲かせる木がある。
毎年4月中旬から下旬にかけて開花するのだが、見たところ今年はまだ五分咲きだ。
そして、この花が満開となる頃に、俺はある作業に取りかかる。
その手始めとして今、俺は行き付けのホームセンターに来ている。
この歳になってこの顔でウキウキするのもどうかと思うが、これまで特に趣味のなかったこの俺が、今や「趣味は家庭菜園です!」と、胸を張って言えるのだ。
子供嫌いの俺としては立場上、あまり大きな声では言えないが、子供よりも野菜を育てる方がはるかに楽しい。
人ごみの中を軽快なステップで園芸コーナーに足を運ぶ。
去年までは苗を買っていたのだが、3年目の今年は、種から育ててみようと企んでいる。
さて、今年は何を植えようか。
定番のキュウリ、トマトに加え、何か別なものにも挑戦したい。
そのためには畑も新たに作らなければなるまい。
今ある畑はもとからあったもので、2メートル四方ほどの小さなスペースなのだが、隣にもう1つ、それの倍、いや、3倍、4倍の大きさの畑を作って大量生産を試みる。
いつもお世話になっている「みやぎ生協」さんには大変申し訳ないのだが、今年の夏は自給自足の生活をさせて頂きます。
と、どうでもいいようなことを真剣に考えているときだった。
膝元で、小さな女の子の声がした。
「買って。ねぇ、買って」
と、囁くような声だったが、その姿はない。
気のせいだと思い、足を進めようとすると、また「買って。ねぇ、買って」と、その声は俺の足を引き止める。
――ん?
と、よく見ると、囁いているのは通路の脇のひな壇にちょこんと座っているイチゴの苗だった。
「おぉ、なんと可憐な!」
と、思わず俺は、人目も憚らず今時武士でも使わないような言葉を叫んでしまった。
葉緑素をふんだんに含んだ緑色の葉っぱが、その白い花をより一層引き立てている。
どうも最近は、キャバクラのお姉ちゃんよりも、こっちの方に惹かれてしまう。
しかし、今日は買わぬ。
出かける前に「余計なものは買わぬ」と、そう誓ってきたではないか。
ここで買ったら、まんまと店側の思う壺にはまることになる。
許せ、お市の方。
武士に二言はない。
それが田村塾のモットーじゃ!
誘惑を振り払い、俺は奥にある「店長一押し! 人気の種コーナー」に向かった。
そして出会ってしまったのだ。
ビール党の俺とは切っても切れない縁のある者に。
こいつらを育てて、夏にはビールで乾杯だぁ! イェイ!
時間が経つのは早いもので、枝豆に気を取られていた愚かな侍は、このあと講習会があることを思い出し、はっとする。
急いで、購入した種と肥料、そして園芸用の土――数袋あるのだが、これがまた重い――をトランクにぶち込み、教室へと車を走らせた。
お気に入りの歌を口ずさみ、煙草に火を点ける。
今日も一日、穏やかな日でありますように。
助手席を見ると、そこにはなぜか、慎ましげに座っている市姫の姿が、……。
――可愛いのぉ、まったく。

(だから、一緒に行こうぜ)
(行かないって言ってるだろ! しつこいなぁ)
(なんでさ)
(なんでも。俺も忙しいんだってば!)
(いーじゃん、ちょっとくらい。オルっぺは?)
(……)
(クソッ、どいつもこいつも)
(そういう言い方はないだろ!)
何やら教室が騒がしい。
中に入ると、ソン太とヘラクレスが揉めていた。
オルっぺは相変わらず、マイペースを保っていた。
「ケンカなら外でやれよ。俺は止めんよ」
「別にそういうことじゃないけど」と、ソン太が顔を赤らめて言う。
冒険好きのソン太は、焦っていた。
と言うのも、彼には「黄金羊の毛皮」探しの船旅に出るという夢があるのだが、まだその良き協力者を見つけられずにいたからだ。
乗組員の募集は随時行ってはいるものの、この船旅には多くの危険が待ち構えているため、おいそれとこれに参加しようとする者はいなかったのである。
ソン太としては、超人的なパワーを持つヘラクレスと、竪琴の魔力で冥界の番犬をも眠らせることのできるオルっぺの力を借りたいところだが、それなりの目的や動機がなければ、なかなか人は動かない。
果たしてソン太は、ヘラクレスとオルっぺを動かすことができるのだろうか。

「どぉれ、やっぞぉ。今日のテーマは『is, am, are からの適語選択問題の解法』ね。ま、これまでの復習だ。はい、早速、<アテナの黙示録5>を見てみましょ。

<アテナの黙示録5> 復習(1) is, am, are からの適語選択問題の解法
【1】be動詞(現在形=is/am/are)の使い分け
|★be動詞は主語の種類によって使い分ける。
||①I→ am
||②you→ are
||③3人称単数主語(he, she, it, this, that, Tom, my sister, your brother, the student(その学生は), one of the students(その学生たちの1人は), …)→ is
||④複数主語(we, you, they, these, those, Tom and I, my sisters, your brothers, the students(その学生たちは), …)→ are

いがぁ、【1】から。is/am/are は、主語の種類によって使い分けるんだったよ。はい、ヘラクレス、主語が I だったら?」
「am」
「そ。んで、メドりん、主語が you だったら?」
「are」
「そ。じゃあ、I, you 以外で1人/1つを表す主語だったら? これを3人称単数主語、って言ったよ。はい、パンドラ」
「is」
「そだ。で、2人/2つ以上を表す主語、つまり複数主語、だったら? ソン太」
「are」
「そだ。じゃあ、今度はその、主語が英文のどこにあるのか、って話だよね。いくら主語の種類とbe動詞の使い分けを覚えても、肝心の主語がどれなのかがわからなければ、is/am/are も選べないわけだからね」
「たしかに」と、ソン太が頷く。
「そこで、【2】だ」

【2】主語の位置
|★主語の位置は文末の符号(=./?)によって変わる。
||①ピリオド<.>で終わる文 → 主語(is, am, are)~.
|||例)My father (is, am, are) a doctor. 答え:is
||||※主語は(  )の左側にある。
||②クエスチョンマーク<?>で終わる文 → (is, am, are)主語 ~?
|||例1)(Is, Am, Are) you from Japan? 答え:Are
|||例2)What (is, am, are) your name? 答え:is
||||※主語は(  )の右側にある。

ヘラクレスの他、全員がテキストに目をやった。
俺はしばらくの間、ヘラクレスの様子を窺っていた。
すると、ようやく周りの様子に気付いたのか、ヘラクレスも慌ててテキストに目を向けた。
「いがぁ。まず、ピリオド<.>で終わる文の場合、主語は(is, am, are)の左側にある、ってことね。例えば、My father (is, am, are) a doctor. であれば、(  )の左側、つまり my father(私の父は)が主語だ。よって、答えは?」
「is」と、ソン太が答える。
「そのとーし!」
得意げな顔をするソン太は、先ほどの揉め合いのことなど、すっかり忘れている様子だった。
――それでいい。普通なら引きずるところだが、さすが英雄候補だ。どんな状況においても自分が今、何をすべきかをきちんと把握して実行できる人間は必然的に周りから一目置かれる。そういう意味では、ヘラクレスよりもソン太の方が大人か。オルっぺは、……あいつだけはわからん。
「で、次、注意! クエスチョンマーク<?>で終わる文、つまり疑問文の場合、主語は(is, am, are)の右側にある、ってこと。例えば、(Is, Am, Are) you from Japan? であれば、(  )の右側、つまり you が主語だ。よって、答えは?」
「Are」
負けじと、今度はヘラクレスが答えた。
「そのとーし! あるいは、What (is, am, are) your name? であれば、……これも<?>で終わる疑問文だから、主語は(  )の右側、つまり your name が主語だ。よって、答えは?」
と、俺はクラス全体を見回した。
メドりんが、ゆっくりと、視線を窓の外に移す。
――こうなると、あてたくなるのが教師のいやらしいところだ。「はい、メドりん、どうぞ」
「ゲッ」
「『ゲッ』じゃねーよ。your name(あなたの名前は)ってことは、I, you 以外で1人/1つを表す主語なんだから?」
「あ、is か」
「そのとーし!」
――ただの意地悪であてたわけではない。仮にその生徒にはわからないであろう問題であっても、ヒントを与えて何とか生徒自身に答えさせることに意味があるのだ。よって、田村塾では、あてられた以上、「わかりません」で逃げることはできません。
「でね、ここでチョイと注意! 今の your っていうのは『あなたの』っていう意味で、これ1語では主語になれないのね。your name で初めて『あなたの名前は』っていう主語になるよ。で、name に複数を表す s がついてないから、これは3人称単数主語(=I, you 以外で1人/1つを表す主語)、……よって is を使う、ってことね。さっきの my father もそうなんだけど、日本語で『私のお父さんは=1人』っていう考え方は間違いのもとだから、やめてちょうだい。あくまで、father に複数を表す s がついてないから、これは3人称単数主語なんだ、って考えること。メドりん、OK?」
「おけ」と一言、足を組みながら爪磨きに余念のないメドりん。
――お前は、どこぞのギャルだ。
「さて、主語の位置を確認したところで、チョイと注意が必要な主語があるんで、はい、【3】を見ておくれ。

【3】注意すべき主語
|★次の主語には注意する。
||①Tom and I(トムと私は)(=複数主語)→ be動詞は are を使う。
||②one of ~s(~の1人は/~の1つは)(=3人称単数主語)→ be動詞は is を使う。
|||※one of のうしろには名詞の複数形(=名詞に s をつけた形)がくる。

いがぁ、まず1つ目は、Tom and I ね。『トム』と『私』で2人なんだから、これは複数主語、の仲間だ。よって、使うbe動詞は are だよ。Tom だけ見て is とか、I だけ見て am とかって、やらないように。ま、Tom and I に限らず、Nancy and Tom(ナンシーとトムは)でも、my sister and I(私の姉妹と私は)でも、とにかく and で結ばれていたら複数主語、って覚えとこ。それから、もう1つ。one of ~s っていうのは、of のうしろから訳して『(複数いる)~のうちの1人は/(複数ある)~のうちの1つは』っていう意味なんで、これは3人称単数主語、の仲間ね。よって、使うbe動詞は is だよ。of のうしろにくる単語(=名詞)の s(=複数形)に騙されて、are とかって、やらないようにね。メドりん、爪ばっかり磨いてないで、……わかった?」
「りょ」
――何の略だよ。まったく、近頃の若いもんは、……あ、やべっ、オヤジ化進行中だ。
「てなわけで、<スピンクスの謎5>をやってみよう。

<スピンクスの謎5> 復習(1) is, am, are からの適語選択問題の解法
次の英文の(  )内から適語を選びなさい。
(1) I (is, am, are) from Australia.
(2) My brother (is, am, are) a college student.
(3) (Is, Am, Are) your sister at home now?
(4) Ken and Tom (is, am, are) good friends.
(5) One of my brothers (is, am, are) a pilot.

はい、ヘラクレス。(1)から、答え入れて読みぃ」

次の英文の(  )内から適語を選びなさい。
(1) I (is, am, are) from Australia.

「I am from Australia.」
「そだ。どして am にしたの?」
「主語が I だから」
「そのとーし! その理由が大事よん。ちなみに意味は?」
「私はオーストラリア出身です」
「おしっ。はい、次、(2)、メドりん」

次の英文の(  )内から適語を選びなさい。
(2) My brother (is, am, are) a college student.

「My brother is a college student.」
「そだ。どして is にしたの?」
「主語が my brother で3人称単数主語だから」
「そのとーし! ところで、なんで my brother が3人称単数主語だって、わかった?」
「え、だって、brother に複数形の s がついてないから、単数かなぁ、って」
「そ! その考え方が大事よん。素晴らしい!」
「いぇあ!」
――何じゃ、そりゃ。ま、いっか。
「ちなみに意味は?」
「私の兄弟は大学生です」
「おしっ。次、(3)、パンドラ」

次の英文の(  )内から適語を選びなさい。
(3) (Is, Am, Are) your sister at home now?

「Are your sister(×)」
「まてまてまてまて、主語は you じゃないぞ」
「あ、そっか。じゃあ、Is your sister at home now?」
「そだ。どして is にしたの?」
「主語が your sister で3人称単数主語だから」
「そのとーし! 疑問文の主語は(  )の右側にあるんだったね。ところで、なんで、your sister が3人称単数主語だって、わかった?」
「えーとねぇ、sister に複数形の s がついてないから」
「そのとーし!」
「いぇあ!」
「(……、それ、流行ってんのか?)う、うん、その考え方を忘れないように。ちなみに意味は?」
「あなたの姉妹は今家にいますか」
「おしっ。んで、次、(4)、ソン太」

次の英文の(  )内から適語を選びなさい。
(4) Ken and Tom (is, am, are) good friends.

「Ken and Tom are good friends.」
「そだ。どして are を使ったの?」
「主語が Ken and Tom で2人だから」
「そのとーし!」
「いぇあ!」
「(何なんだ、お前らはまったく、……。)うん、and で結ばれていたら複数主語、だったね。ちなみに意味は?」
「ケンとトムはよい友達です」
「おしっ。んで、ラスト、(5)、オルっぺ」

次の英文の(  )内から適語を選びなさい。
(5) One of my brothers (is, am, are) a pilot.

(One of my brothers is a pilot.)と、オルっぺがうつむきながら囁いた。
何とか聴き取った俺は、
「そだ。どして is を使ったの?」
(主語が one of my brothers で3人称単数主語だから)
何を言っているのかほとんど聞こえなかったが、俺はどうにか彼の口の動きで理解した。
「そのとーし! brothers の s に騙されないようにね。ちなみに、問題が、My brothers (is, am, are) pilots. だったら?」
しばらく考えた末に、オルっぺはようやく、
(are)と、口を開けた。
「そ。これは複数主語、だから are を使う、……いでしょ。よく理解してるよ、素晴らしい!」
「……い、いぇあ!」
――オ、オルっぺ、……どうした? そんな無理にみんなに合わせなくても、……。
「う、うん。ちなみに意味は?」
(私の兄弟の1人はパイロットです)
やはり小声だったが、オルっぺはしっかり理解しているようだった。
「おしっ。んで、本日終了! おつかれさ~ん」

(なぁ、一緒に行こうぜ! ヘラクレス)
(だから、行かないって! しつこいなぁ)

<オイディプスの答え> 復習(1) is, am, are からの適語選択問題の解法
(1) am
(2) is
(3) Is
(4) are
(5) is

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?