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第2話 迷える子羊たち

2. 主語と述語動詞

(4月15日 教室②)

(おっしゃー!)
(何なの、あんた!)
(ごめん、……つい)
(でね、そのおっさんがまたしつこいのよぉ)
(えー、やだー、アタシむりー)
(んー、船の名前はどうしよう)
(あ~あ、なんかいいことないかなぁ)
(ぅぉぉぉおおお!)
(だからさぁ)
(ご、ごめん)
(アラゴ、アリゴ、アルゴ、……ん? アルゴ? アルゴー号!)
俺は教室に向かって廊下を歩いていた。
――何だか騒がしいが、2回目ともなると緊張感もなくなるか。てか、最初からないか。

「どぉれ、やっぞぉ。今日のテーマは『主語と述語動詞』ね。と、そ・の・ま・え・に。まずは前回の復習でもしてみっか。いがぁ、英語を得意にするには、『声を出す』ことが大事だからね」
「キャー!」
――メドりん、誰が叫べと言った。
「おりゃ、どりゃ、そりゃっ、これでもか、……おっしゃー!」
――ヘラクレス、お前は誰と戦っている? しかも勝ったようだが。
「アハハハハ」
――パンドラ、何がそんなにおかしいんだい?
「ワ~イエムシエ、チャララチャラチャラ♪」
――だから歌うなって、ソン太。しかも伴奏付き。
(ナンマンダブ、ナンマンダブ)
――唱えるな! まったく、オルっぺまで。ま、無反応よりはましか。反応があるのは生きている証拠。ほれ、騒げ!
「イエーイ、ドンドンドンドン、ヒュッヒュー、ワッショイ、ワッショイ、ワッショイ、ワッショイ」
「「「「「……」」」」」
「ワッ、……う、うん。てなわけで、単語でも文でも、とにかく声に出して読む! それが大事! OK?」
「「「「「……」」」」」
――だよな。俺が悪かった。ま、静かになったところで、気を取り直していこう。
「てなわけで、前回の復習ね。文中で日本語の『だれが』や『○○は』にあたる語句のことを何て言ったっけ? ヘラクレス」
「主語!」
「うん。じゃあ、『どうする』や『です』みたいに、主語の動作や状態を述べる語句のことを? メドりん」
「ん?」
「じゅ」
「じゅ?」
「つ」
「つ? あ、述語動詞!」
「そだ。で、英語では、この<主語+述語動詞>を」
「「先に言う!」」我先にと、ヘラクレスとソン太が答えた。
「おぉ、お前ら、なかなかやるな」
「ヘヘ、ちょっとだけ、復習しておいたんだよねぇ」と、ソン太が言う。
「俺も、……ほんのちょっとだけ」と、ヘラクレス。
「おお、いいよぉ。全くしてないよりは、よっぽどいいよ。ま、チミたちのことだから、全くしてないなんてことはあり得ないと思うけど」
なぜか、顔を伏せるメドりんとパンドラだった。
そしてなぜか、薄笑みを浮かべるオルっぺだった。
「で、この主語なんだけど、実は英語の主語には4種類ありまして、……。はい、<アテナの黙示録2>を見てみましょ。

<アテナの黙示録2> 主語と述語動詞
【1】主語の種類
|★英語の主語には4種類ある。
||①I(私は)
||②you(あなたは)
||③3人称単数主語(=I, you 以外で1人/1つを表す主語)
|||例)he(彼は), she(彼女は), it(それは), this(これは), that(あれは), Tom(トムは), my sister(私の姉妹は), your brother(あなたの兄弟は), …
||④複数主語(=2人以上/2つ以上を表す主語)
|||例)we(私たちは), you(あなたたちは), they(彼らは/彼女らは/それらは), these(これらは), those(あれらは), Tom and I(トムと私は), my sisters(私の姉妹たちは), your brothers(あなたの兄弟たちは), …

いがぁ、【1】ね。英語の主語には4種類あるんだけどぉ、まず1つ目は、自分のことを言うときに使う I(私は)だ。2つ目は、相手のことを言うときに使う you(あなたは)ね。で、3つ目は、I, you 以外で1人/1つを表す主語、……これを3人称単数主語、って言うよ。例えば、he(彼は)とか、she(彼女は)とか、it(それは)とか、that(あれは)とか、Tom(トムは)とか、my sister(私の姉妹は)とか、your brother(あなたの兄弟は)とか、……ま、挙げたら切りがないね。で、最後、4つ目が、2人以上/2つ以上を表す主語、……これを複数主語、って言うよ。これも例を挙げたら切りがないんだけど、we(私たちは)とか、you(あなたたちは)とか、they(彼らは/彼女らは/それらは)とか、these(これらは)とか、those(あれらは)とか、Tom and I(トムと私は)とか、……『トム』と『私』で2人でしょ。あと、my sisters(私の姉妹たちは)とか、your brothers(あなたの兄弟たちは)、……ドナドナ、もといっ、などなど」
「先生?」
「ん? 何だ、パンドラ」
「おもしろくない」
「余計なお世話じゃい! で、なんで主語をこんなふうに種類分けするかって言うと、はい、ここ大事。いがぁ、……英語では、主語の種類によって述語動詞の形が変わる、ってことね」
「ん? どういうこと?」と、ソン太が首をかしげる。
「うん、例えばね、……はい、【2】の①を見ておくれ。

【2】主語の種類と述語動詞の形
|★英語では、主語の種類によって述語動詞の形が変わる。
||①一般動詞の文
|||日本語:私はテニスをする
|||→英語:I play tennis.
|||日本語:彼はテニスをする
|||→英語:He plays tennis.
|||※英語では、主語が I(私は)のときと he(彼は)のときとでは、「する」にあたる述語動詞の形が play/plays と変わる。
||②be動詞の文
|||日本語:私は学生です
|||→英語:I am a student.
|||日本語:あなたは学生です
|||→英語:You are a student.
|||日本語:彼女は学生です
|||→英語:She is a student.
|||※英語では、主語が I(私は)のときと you(あなたは)のときと she(彼女は)のときとでは、「です」にあたる述語動詞の形が am/are/is と変わる。

いがぁ、日本語の場合は、主語が『私は』であろうが『彼は』であろうが、述語動詞の『する』は『する』だよね。でも英語では、主語が『私は(=I)』のときの述語動詞『する』は play で、主語が『彼は(=he)』のときの述語動詞『する』は plays って、形が違うでしょ。ま、形が違うって言っても、この場合は play に s がついてるかついてないか、ってことだけなんだけどぉ」
テキストをじっと見つめながら、ヘラクレス、メドりん、パンドラ、ソン太、そしてオルっぺ、――クラス全員が――軽く、うん、うん、と頷いた。
――何と澄んだ眼をしているのだろう。夜空に輝く星たちよりも、お前らのその眼の方がずっとずっと美しい。こんなに綺麗な眼を持っているのに、どうして彼らは落ちこぼれてしまったのか、……。
「あるいは、今度は②ね。日本語の場合は、主語が『私は』であろうが『あなたは』であろうが『彼女は』であろうが、述語動詞の『です』は『です』だよね。でも英語では、主語が『私は(=I)』のときの述語動詞『です』は am だし、主語が『あなたは(=you)』のときの述語動詞『です』は are だし、主語が『彼女は(=she)』のときの述語動詞『です』は is みたいに、形が違うでしょ。てか、この場合はもう、形っていうよりも単語そのものが全然違うよね」
「フムフム、たしかに」と、ソン太が2回、大きく頷いた。
「まぁ、どんな主語のときに述語動詞の形がどう変わるのか、っていうのは後々じっくりやるとして、今日は取りあえず、英語の主語には4種類あって、その主語の種類によって述語動詞の形が変わる、ってことをガッチリ頭の中に叩き込んでおいてちょうだい。OK?」
ヘラクレスの「ウッス」、メドりんの「あ~い」、パンドラの「はーい」、オルっぺの(……)は、ソン太の「ハイッ」によって掻き消されてしまったが、俺は全員の返事をしっかりと確認した。
「てなわけで、もうチョイ頑張っておくれよ。今度は、述語動詞の種類、について、……【3】だな。こっちはね、『こんな種類があるんだ』とか『これからこんなことを習うんだ』くらいの感じでいいから、さっと目を通しておいてちょうだい。

【3】述語動詞の種類
|★英語の述語動詞には10種類ある。
||①現在形<動詞の現在形>
|||=「~する」「~です」のように、現在の習慣や状態を述べる形。
|||例)She plays the piano every day.(彼女は毎日ピアノを弾きます)
||②過去形<動詞の過去形>
|||=「~した」「~でした」のように、過去の事実を述べる形。
|||例)He studied math yesterday.(彼は昨日数学を勉強しました)
||③未来形<will +動詞の原形>
|||=「~だろう」「~するつもりだ」「~する予定だ」のように、未来の事柄を述べる形。
|||例)Tom will come here tomorrow.(トムは明日ここに来るでしょう)
||④現在進行形<is/am/are +動詞のing形>
|||=「~しているところだ」のように、現在行われている一時的な動作を述べる形。
|||例)My mother is washing the dishes now.(私の母は今皿を洗っているところです)
||⑤過去進行形<was/were +動詞のing形>
|||=「~しているところだった」のように、過去に行われていた一時的な動作を述べる形。
|||例)I was talking with my friend then.(私はそのとき友達と話しているところでした)
||⑥命令形<動詞の原形>
|||=「~しなさい」のように、相手に命令する形。
|||例)Open the door.(ドアを開けなさい)
||⑦自分の思っていることを述べる形<助動詞+動詞の原形>
|||=「~だろう」「~できる」「~かもしれない」「~してもよい」「~しなければならない」「~した方がよい」「~すべきだ」のように、自分の思っていることを述べる形。
|||例)He can speak French well.(彼はフランス語を上手に話すことができます)
||⑧現在受身形<is/am/are +動詞の過去分詞>
|||=「~される」のように、現在における受身的な動作を述べる形。
|||例)English is spoken in Australia.(英語はオーストラリアで話されています)
||⑨過去受身形<was/were +動詞の過去分詞>
|||=「~された」のように、過去における受身的な動作を述べる形。
|||例)The window was broken by my brother.(その窓は私の兄弟によって壊されました)
||⑩現在完了形<have/has +動詞の過去分詞>
|||=「ずっと~している」「~したことがある」「~したところだ」「~してしまった」のように、過去から現在までずっと継続している動作や状態、これまでの経験、すでに完了した動作や状態を述べる形。
|||例)I have lived in Sendai for five years.(私は5年間ずっと仙台に住んでいます)
||※ここでは「初級英語」の範囲内で上記10種類を挙げる。

それから、【4】の動詞の形、についても今日のところはまぁ、いでしょ。

【4】動詞の形
|★英語の動詞の形には6種類ある。
||①原形
|||例)I don’t play tennis.(私はテニスをしません)
||②現在形
|||例)He plays tennis every day.(彼は毎日テニスをします)
||③過去形
|||例)He played tennis yesterday.(彼は昨日テニスをしました)
||④現在分詞(=ing形)
|||例)She is playing tennis now.(彼女は今テニスをしているところです)
||⑤過去分詞
|||例)I have played tennis for three years.(私は3年間ずっとテニスをしています)
||⑥不定詞(=to +動詞の原形)
|||例)We went to the park to play tennis.(私たちはテニスをするために公園に行きました)

では」
「終わり?」と、メドりんの眼が輝く。
「んなわけねぇだろうが!」
「だよねぇ」
「はい、<スピンクスの謎2>、……ま、前回の復習も兼ねてやってみましょ。

<スピンクスの謎2> 主語と述語動詞
次の日本文を英文に書き換えなさい。
(1) 私は(I)/テニスを(tennis)/します(play)/。(.)
(2) 彼は(he)/テニスを(tennis)/します(plays)/。(.)
(3) 私は(I)/学生(a student)/です(am)/。(.)
(4) あなたは(you)/学生(a student)/です(are)/。(.)
(5) 彼女は(she)/学生(a student)/です(is)/。(.)

んで、ヘラクレスから、(1)、書き換えた英文読みぃ」

次の日本文を英文に書き換えなさい。
(1) 私は(I)/テニスを(tennis)/します(play)/。(.)

「I tennis(×)」
「おいっ。そのまんま読んでどうする。英語の語順は『だれが/どうする/なにを』だぞ」
「あ、そうだった。I play tennis.」
「そ。はい、メドりん、(2)、書き換えた英文読みぃ」

次の日本文を英文に書き換えなさい。
(2) 彼は(he)/テニスを(tennis)/します(plays)/。(.)

「He plays tennis.」
「そのとーし! 『します』にあたる述語動詞(=plays)が(1)(=play)と違うところもチェックだな。はい、次、(3)、パンドラ」

次の日本文を英文に書き換えなさい。
(3) 私は(I)/学生(a student)/です(am)/。(.)

「I am a student.」
「そのとーし! これは『○○は/です/××』のパタンだね。はい、次、(4)、ソン太」

次の日本文を英文に書き換えなさい。
(4) あなたは(you)/学生(a student)/です(are)/。(.)

「You are a student.」
「そのとーし! 『です』にあたる述語動詞(=are)が(3)(=am)と違うところもチェックだよ。はい、次、(5)、オルっぺ」

次の日本文を英文に書き換えなさい。
(5) 彼女は(she)/学生(a student)/です(is)/。(.)

(She is a student.)
「そのとーし! これも『です』にあたる述語動詞(=is)が(3)(=am)、(4)(=are)と違うところに注意だね。以上、どっか質問ある? なければ終わりにするけど」
すぐさまメドりんが、「余計な質問をするなよ」と言わんばかりに、斜め後ろに座っているソン太を睨みつけた。
が、当のソン太は、さっさと帰る準備をしていた。
それを見たメドりんは内心ホッとしたが、同時にほんの少しだけ自分の行動を恥じた。
「なければ、本日終了!」

「疲れたー!」と、パンドラが天井に向かって言う。
「うん、よく頑張った!」
――その疲れを無駄にはしないよ。ここにいる全員がそうだが、お前らが落ちこぼれたのは、……お前らのせいじゃない。
「あ、そうそう、次回からは各家庭を訪問して指導するからね、そのつもりで」
「じゃあ、掃除しとかなきゃ」と、パンドラが言う。
「いやいやいやいや、気ぃ使わなくてもいいよ。余計なものは見ないし、授業が終わったらとっとと帰るから」
――だよな。各家庭には各家庭の事情がある。「わざわざ塾に通わなくても先生が家まで来てくれる」という謳い文句は、指導する側の勝手な言い分であって、実際には来てもらって迷惑なこともあるということを、家庭教師は常に頭の中に入れておかなくてはならない。どぉれ、ウチもたまには掃除すっかー。

<オイディプスの答え2> 主語と述語動詞
(1) I play tennis.
(2) He plays tennis.
(3) I am a student.
(4) You are a student.
(5) She is a student.

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