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第4話 小さな森の大きなお家

4. 現在形(2) be動詞の否定文/疑問文

(4月25日 メドりん宅①)

俺はメドりんの家を探して西に向かっていた。
彼女が言うには「小さな森の大きなお家」だそうだが、なかなかそのような森も家も見つからない。
「教室からは西に向かって一本道だし、一番小さな森だからすぐにわかるよ」と、彼女は言うが、一本道を行く以上、空からでも見下ろさない限り、どの森が一番小さな森かなどわかるはずがない。
おまけに入塾申込書に書いてある住所は「西の果て」だ。
これではあまりにも情報が曖昧すぎる。
大体、西に「果て」があるのか。
非現実的だが、今となっては「ある」ことを祈るばかりだ。――
ふと、昨日の授業のことを思い出した。
ある生徒が「数学の問題で角度を求める問題がわからない」と言う。
その生徒から、問題を書き写した紙切れを手渡されたが、どれだけ考えても答えが出ない。
生徒の質問に即答できないようではそろそろ廃業か、と思っていると、「こことここは同じ角度だっていうのはわかるんですけどぉ」と、横から口をはさむ。
「なんで?」と聞くと、「だって直線lと直線mって平行でしょ」「はぁ? 誰がそんなこと言った?」「だって問題に<l∥m>って書いてあったんで」「おい、なんでそれを先に言わん」「え、だって、見ればわかるかと」「いやいやいやいや、見た目は平行でも、与えられた問題に<l∥m>と書かれてなきゃ、それは平行とは言えないんだからさぁ」「あぁ、そうですか」と、こんな感じだ。
情報は正確に伝えてもらいたいものだ。
すると、
「何かお困りにゃむかな? そこの若いの」と、背後でしゃがれた声がした。
振り向くとそこには、3人の老婆(?)がゆらりゆらりと揺れながら立っていた。
彼女らは1枚の大きな黒いマントを3人で共有し、それを頭からすっぽりと被っていたので、顔はよく見えなかった。
「あ、ども。実はゴルゴン3姉妹の家を探しておりまして、……」
「それなら、もうすぐにゃむ。この坂を上っていけば、見えてくるにゃむ。赤い屋根の家にゃむよ」
――「にゃむ?」 どこのお国訛りだろう。
「そうにゃむか、あ、失礼、……そうですか。ありがとうございます」
「いいえ、どういにゃむにゃむにゃむ」
――婆さんたち、何言ってる?
とにかく、老婆たちに言われた通り、俺は坂を上っていった。
足を進めるにつれ、だんだん湿度が高くなってきているのが肌でわかる。
気付くと周りには、もやが立ち込めていた。
どんよりとした空の下、俺を取り巻く空間は耳が痛くなるほど静かだった。
しばらく歩くと、「小さな森の大きなお家」が見えてきた。
どっしりとした白い壁に生き血の色を塗りたくった三角屋根が妙に目立つそのお屋敷は、まるでアメリカのホラー映画に出てくる「何かが棲む家」のようだった。
さらに進むと、奥行き10メートルはあるであろう広々としたトンネル型の玄関ポーチに辿りついた。
ポーチの中は、熱帯のジャングルを思わせる毒々しい色の木や植物で覆われている。
芝生だと思っていた地面は、よく見ると苔だった。
いつの間にか、もやが霧に変わっている。
このポーチをくぐったら最後、2度と生きては戻れないのでは、とも思ったが、ここまで来たら、行くしかない。
意を決した俺は恐る恐る、その密林地帯に足を踏み入れた。
すると、どこからともなくポップな音楽が流れてくるではないか。
木琴で奏でられた4拍子のイントロに合わせ、周りの木や花が一斉にリズムをとりだした。
木の上のリスたちがリズムに合わせて踊りだす。
チョウチョがひらひら舞い上がる。
カエルもピョンピョン跳ねだした。
俺は何だか楽しくなってきた。
リズムに合わせて歩いていくと、あっという間に玄関先に着いてしまった。
両開きの玄関ドアは、開けると大型トラックが丸ごと入りそうなほど壮大だった。――

「ども! 家庭教師のタムラです」
と言うと、まるでこの俺を待ち構えていたかのように、すぐにドアが開いた。
「あ~ら、センセ。いらっしゃ~い」
俺を出迎えたのは、メドりんの姉たちだった。
けばけばしい化粧にスパンコールのセクシーなドレスを身にまとった――俺好みの、とは敢えて言わないが――何とも綺麗な姉たちだった。
が、彼女らとは決して目を合わせてはいけない。
なぜならゴルゴン3姉妹には、見たものを石に変えるという恐ろしい能力があるからだ。
「これは、これは、お姉様方、……こんにちは」
俺は努めて平静を装っていた。
「ど~ぞ、お入り下さいませ」と、微笑みながら長女が言う。
「はい。では、お邪魔します」
「さぁ、ど~ぞ、ど~ぞ、さぁ、ど~ぞ」と、微笑みながら次女が言う。
が、どう見ても、純粋に客を出迎える笑みではない。
彼女たちの不敵な笑みに、俺は異常なまでの殺気を感じずにはいられなかった。――
中に入るとすぐ、リビングに通じる広い廊下があった。
その左側には2階に上がる階段が、右側には地下に下りる階段が見える。
「メドりんは、おりましたか?」
「ええ、……あら、どこに行ったのかしら? さっきまでそこで、トカゲ食ってたんですけど」
「ト、トカゲ?」
「冗談ですわよ。もう、センセったら。オホホホホ」
「……」
「メドゥサ! メドゥーサー!」と、次女が口を大きく開けて叫ぶ。
このとき、俺は彼女の口の中に鋭い2本の八重歯が生えているのを見逃さなかった。
(あ~い)
メドりんの声が地下の方から微かに聞こえてきた。
どうやらここの地下室(?)は、かなり深い所にあるらしい。
間もなく、メドりんが地下から階段を上って現れた。
黒のTシャツに超ミニのスカート。
そこから露わになっている生白い太ももには、姉たちに勝るとも劣らぬ艶かしさを感じる。
化粧をしているのか、頬は薄ピンク色で、切れ長のくっきりとした目の中からは青い瞳が覗いていた。
下唇の上に1本だけちょこんとのっている左の八重歯が、唯一子供らしさを見せていた。
と、ここまでは普通のギャル(?)なのだが、何とも恐ろしいことに、メドりんの髪の毛は1本1本が生きた蛇でできている。
それが毒蛇かどうかは定かではないが、迂闊に近寄れないのは確かだ。
「まったくもう、センセ待たせて、……何してたの?」と、長女が言う。
「わりぃ、わりぃ、……トカゲ食ってたわ」
「ひっ」
「冗談、冗談、……クヒヒヒヒ」と、笑うメドりん。
――この姉たちにして、この妹ありか。
「じゃ、センセ、……あとは、よろしくお願いしますわよ」
「あ、はい」と、俺は軽く会釈をした。
そして「こっち、こっち」と案内するメドりんのあとに、ついていった。
背後で姉たちが何やらひそひそ、話している。
――こちらを見て話しているに違いない。きっと俺のことだ。まさか、「捕って食ってやろう」などと話しているのではあるまい。
気にはなったが、振り向けば間違いなく彼女らと目が合うはずだった。
そのとき俺は、どんなリアクションをとったらよいのか。
そう思うと俺は、振り向けなかった。
そして、蛇に睨まれたカエルは、ゆっくりと階段を上り、蛇の妹さんの部屋に入っていくのだった。

「どぉれ、やっぞぉ。今日のテーマは『現在形(2) be動詞の否定文/疑問文』ね。と、そ・の・ま・え・に。まずは、前回の復習から。『私は/学生/です』を英語で言うと?」
「I am student(×)」
「おいっ。何か忘れてるぞ」
「え?」
「あ」
「え?」
「あ」
「……、え?」
「だから『あ』だっちゅーの!」
「あ~、a ね。『あ、あ、……』って言うから、先生、頭おかしくなっちゃったかと思った」
「じゃかましい! で、『私は/学生/です』を英語で言うと?」
「I am a student.」
「そのとーし! 英語では、『1人、2人、……/1つ、2つ……』って数えられる名詞の単数形(=この場合は student)には a をつけるんだった。ところで、なんでbe動詞は am を使ったの?」
「主語が I だから」
「そのとーし! その理由が大事だったよ。じゃあ、『あなたは/学生/です』だったら?」
「You are a student.」
「そのとーし! なんで、be動詞に are を使ったの?」
「主語が you だから」
「おしっ。じゃあ、『彼女は/学生/です』だったら?」
「She is a student.」
「そ。なんで、be動詞に is を使ったの?」
「主語が she だから」
「そだ。3人称単数主語(=I, you 以外で1人/1つを表す主語)のときは is を使うんだった。んで、もいっちょ。『私たちは/学生/です』だったら?」
「We are students.」
「そ。なんで、be動詞に are を使ったの?」
「主語が we だから」
「そのとーし! we は『私たちは』っていう意味の複数主語(=2人以上/2つ以上を表す主語)だからね。複数主語の場合は are を使うんだった。いでしょ」
「そっか。複数だから、この文だけ a がないんだ」
「そういうこと。その代わり、複数を表す s をつけるわけだ。ま、これを名詞の複数形、って言うけど、……これについてはまた後日ゆっくりやるとして。で、ここからが本題。今の『○○は/××/です』っていう文を、『○○は/××/ではありません』っていう否定文にするときは、どうするか? あるいは、『○○は/××/ですか』っていう疑問文にするときは、どうするか? はい、<アテナの黙示録4>を見てみましょ。

<アテナの黙示録4> 現在形(2) be動詞の否定文/疑問文
【1】be動詞(現在形=is/am/are)の否定文のつくり方
|★「~ではありません」のように打ち消す文を否定文という。
|★be動詞の否定文は、be動詞のうしろに not を入れてつくる。
||例)肯定文:I am a student.(私は学生です)
||||否定文:I am not a student.(私は学生ではありません)
|※縮約形…I am not=I'm not, you are not=you’re not(=you aren’t), he is not=he’s not(=he isn’t), she is not=she’s not(=she isn’t), it is not=it’s not(=it isn’t), we are not=we’re not(=we aren’t), they are not=they’re not(=they aren’t)

いがぁ。まずは【1】から、……否定文のつくり方ね。『~ではありません』って言うときは、is/am/are のうしろに not を入れる」
「それだけ?」
「うん、それだけ」
「簡単じゃ~ん」
「そうだよ。大体、お前らはね、ルールを無視して例文の暗記ばっかりやってるから、いつまでたっても成績は上がらないし、勉強だってつまらなくなるわけさ。こんなのルール通りにやれば、どぉってことないんだよ」
「そっかぁ」
と言うメドりんは、今までに見たことがない宝石箱を開けたような気分だった。
「んで、さっそく。I am a student. を否定文にしたら?」
「I am not a student.」
「そのとーし! am のうしろに not を入れるだけだからね。ちなみに意味は?」
「私は学生ではありません」
「そのとーし!」
「ホント、簡単!」
「でしょ。んで、調子こいて、もいっちょ。You are a student. を否定文にしたら?」
「You are not a student.」
「そ。意味は?」
「あなたは学生ではありません」
「そのとーし! はい、もいっちょ。She is a student. を否定文にしたら?」
「She is not a student.」
「うん。意味は?」
「彼女は学生ではありません」
「そ。はい、最後。We are students. を否定文にしたら?」
「We are not students.」
「うん。意味は?」
「私たちは学生ではありません」
「てことさ」
「イェイ! 次いこ、次」
「おしっ。と、そ・の・ま・え・に。いくつか、縮約形を覚えておこう。is not は縮めて isn’t でもいいよ。それから、are not は aren’t ね」
「am not は?」
「am not は縮められない。縮めるんだったら I am の方を縮めて I’m not ってするよ」
「あ、そっか。なんか見たことある」
「うん、よく使う形だからね。ほんじゃあ、次、いきますか。【2】ね。今度は疑問文のつくり方ね。

【2】be動詞の疑問文のつくり方
|★「~ですか」のように相手にたずねる文を疑問文という。
|★be動詞の疑問文は、be動詞を主語の前に出してつくる。
||例)肯定文:You are a student.(あなたは学生です)
||||疑問文:Are you a student?(あなたは学生ですか)

『~ですか』って相手にたずねるときは、be動詞を主語の前に出せばいい。例えば、You are a student. であれば」
「Are you a student? ってこと?」
「そ。be動詞、この場合は are ね、……これを主語の you の前に出すだけだ。そうすれば『あなたは学生ですか』っていう疑問文になる。答えるときは普通、yes/no で答えるよ。【3】ね」

【3】be動詞の疑問文の答え方
|★疑問文には普通、Yes, ~./No, ~ not. で答える。
||例1)Is Nancy a student?(ナンシーは学生ですか)
|||||―Yes, she is.(はい、<彼女は>そうです)
|||||―No, she is not.(いいえ、<彼女は>そうではありません)
|||||※答えの文では代名詞(=この場合は Nancy の代わりに she)を主語にする。
||例2)Are you a student?(あなたは学生ですか)
|||||―Yes, I am.(はい、<私は>そうです)
|||||―No, I am not.(いいえ、<私は>そうではありません)
|||||※Are you ~? には、Yes, I am./No, I am not. で答える。

「『普通』ってことは、普通でないこともある、ってこと?」
「そ。yes/no で答えられない疑問文もあるからね。例えば、『これは何ですか』って聞かれてるのに『はい、そうです』とか『いいえ、そうではありません』って答えるのは、ちょっと、……てか、かなり変だよね」
「クヒヒヒヒ、たしかに、たしかにー」
「ま、yes/no で答えられない疑問文についてはまた別な機会にやるとして。で、ここ、……大事よん。Are you a student?(あなたは学生ですか)って聞かれたら、『はい、私はそうです』ってことで、Yes, I am. って答えるよ。『いいえ』であれば、『いいえ、私はそうではありません』っていう否定文になるわけだから、No, I am not. って答える」
「フムフム。訳すときって、『はい、そうです』とか『いいえ、違います』じゃ、ダメ?」
「いいよ。てか、むしろその方が日本語らしいよね。でも、英語では主語は省略できないし、『違います』っていうのは『そうではありません』っていう否定文なんだ、ってことを理解してもらうために敢えてそういうふうに訳しただけなんで。OK?」
「オッケー!」
「んで、もうチョイ、練習してみっか。Nancy is a student. を疑問文にしたら?」
「Is Nancy a student?」
「そだ。意味は?」
「ナンシーは学生ですか」
「そ。じゃあ、今の疑問文に yes で答えたら?」
「Yes, ……」
「Nancy は女性だから、she(彼女は)(=代名詞)に置き換える」
「てことは、Yes, she is.」
「そ。そうすれば『はい、(彼女は)そうです』っていう意味になるね。no だったら?」
「No, she is not.」
「そだ。no のときは not をお忘れなく。そうすれば『いいえ、(彼女は)そうではありません』っていう意味になるよ」
「フムフム、わかった。もっと何か出して」
「おしっ。んで、<スピンクスの謎4>をやってみよう。

<スピンクスの謎4> 現在形(2) be動詞の否定文/疑問文
次の英文を否定文に書き換えなさい。
(1) I am busy now.
(2) They are teachers.
(3) She is my friend.
次の英文を疑問文に書き換え、yes/no で答えなさい。
(4) You are from Canada.
(5) Tom is a junior high school student.

はい、(1)から、書き換えた英文読みぃ」

次の英文を否定文に書き換えなさい。
(1) I am busy now.

「I am not busy now.」
「そのとーし! am のうしろに not を入れるだけだ。ちなみに意味は?」
「busy って何?」
「busy は『忙しい』」
「じゃあ、『私は今忙しくありません』」
「そのとーし! はい、次、(2)」

次の英文を否定文に書き換えなさい。
(2) They are teachers.

「They are not teachers.」
「そ。今度は are のうしろに not を入れればいいね。ちなみに意味は?」
「彼らは先生ではありません」
「おしっ、次、(3)」

次の英文を否定文に書き換えなさい。
(3) She is my friend.

「She is not my friend.」
「そだ。is のうしろに not を入れるだけ。ちなみに意味は?」
「彼女は私の友達ではありません」
「うん」
「何か、かわいそう」
「ま、まぁ、例文ですからぁ。はい、次、(4)、……今度は疑問文だね」

次の英文を疑問文に書き換え、yes/no で答えなさい。
(4) You are from Canada.

「Are you from Canada?」
「そのとーし! are を主語の you の前に出す。ちなみに意味は?」
「あなたはカナダ出身ですか」
「そだ。んで、yes で答えたら?」
「Yes, ……」
「『あなたは~ですか』って聞かれてるんだから、答えるときは『はい、私は~です』だよね」
「あ、そっか。てことは、Yes, I am.」
「そ。『いいえ』だったら?」
「No, I am not.」
「てことよん。はい、ラスト、(5)」

次の英文を疑問文に書き換え、yes/no で答えなさい。
(5) Tom is a junior high school student.

「Is Tom a junior high school student?」
「そのとーし! 意味は?」
「トムは中学生ですか」
「うん。yes で答えたら?」
「Yes, he is.」
「そ。よくできた。Tom は男性だからね、he(彼は)(=代名詞)に置き換える。no だったら?」
「No, he is not.」
「そういうこと。OK?」
「オッケー!」
「んで、本日終了」
「何か、あっという間に終わったね」
「集中してやれば、時間が経つのも早いってことよん。おつかれさ~ん。あ、そうそう、……次回は教室で講習会ね。よろしく~」

帰り際、姉たちの姿はどこにも見当たらなかった。
ホッとした俺はメドりん宅をあとにして、いざ東へと向かった。

<オイディプスの答え4> 現在形(2) be動詞の否定文/疑問文
(1) I am not busy now.
(2) They are not teachers.
(3) She is not my friend.
(4) Are you from Canada? ―Yes, I am./No, I am not.(=No, I’m not)
(5) Is Tom a high school student? ―Yes, he is./No, he is not.(=No, he’s not./No, he isn’t.)

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