プロゲーマー(のりお)が元所属チーム(戦国ゲーミング)を訴えた件について、中立の第三者の目線から

ネット上の知人からリクエストがあったので、簡単に記事にします。

先日、レインボーシックスシージのプロゲーマーとして活躍していたNorio氏(以下、「のりお」といいます。)が、所属していたプロゲーミングチームの戦国ゲーミング(以下、「戦国」といいます。)及びA氏に対して訴訟提起をしました。

今回の記事はこの件に関する私見ですが、戦国からはほとんど情報提供がなされておらず、主にのりお側の主張しかわからないので、それについての感想ないし論評といった程度に考えられてください(実際に裁判所でなされるのりおの主張や、戦国の主張によって結論は大きく変わってきます)。

1.問題の所在

まず、今回の問題について整理していきましょう。

双方に争いがなさそうな事実

(1)のりおは、戦国と選手契約を締結していた(Rainbow Six Japan League 2021への出場のため)。

(2)契約書には、月額報酬(毎月の給与)のほか、インセンティブが定められていた。
インセンティブの内容は、チーム賞金×各選手への分配率×出場率(どれだけ選手として出場したか)で決まる。

(3)のりおは、Rainbow Six Japan League 2021への選手としての出場が0だった。

戦国側の主張

のりおは、選手としての出場が0(0になにをかけても0)であるため、契約書に従い、賞金分配は当然0円となる。

のりおの主張

契約書の内容からすると戦国の主張通りではあるが、のりおは選手ではなく実質的にはコーチだった。
また、戦国を実質的に管理運営するA氏は、のりおに対して、契約書にはこう書いてあるけど、のりおは選手じゃなくてコーチだから、賞金分配については満額支払うと説明していた。
だから賞金については支払われるべきだ。

2.どっちが勝ちそうか

LJLのAIブリッツなみの予測精度を誇る私の予測とすると、現段階では80:20で戦国勝利です。理由は以下のとおり。

まず、訴訟において、契約書というのはかなり大きな意味を持ちます
契約書がある以上、契約書に記載した内容で合意をしたとの推定が働きます。
のりお側の代理人も次のとおり、契約書の記載内容からするとのりおの負けだと認めています。
契約書の内容からするとのりおの負けというのであれば、それだけでかなりの不利を背負うことになります(LoLで例えるなら、開始20分でチームゴールド5k差の上3ドラとられてる状態)。

のりおの代理人である田本先生の説明するとおり、もちろん、契約書の内容が絶対正義であり、契約書の記載とは異なる判決が出るというものではありません。
しかし、契約書にはこう書いてあるけど、いやいや実は違うんだ、実際はこうなんだ、という場合には、その立証責任はのりお側にあります。

つまりは、のりお側が、契約書の記載と異なる内容で合意をしていると証明しなければいけません

では、のりお側はどのようにしてこれを立証しようとしているのでしょうか。

まず、のりお本人の供述(A氏からこう説明されていた)がありますが、これだけでは勝てません(当事者の言った言わないだけでは証拠として弱すぎます)。

次に、同じチームに所属するB氏が、A氏がのりおに対して、賞金分配は満額出ると説明したことを聞いていたということがあげられています。
これはけっこう良い証拠になりますね。
しかも、これはLINEのやりとりであり、証拠として残っているとのことです

3.なぜAI(私)は八割がた戦国が勝ちそうと判断したのか

以上の説明からすると、なんかのりおの立証が成功してのりおが勝ちそうじゃないかなと思うでしょう。

そう思ってた時期がおれにもあり……いやなかったかな。

私が戦国が8:2で勝ちそうと思ったのは、契約書の内容からすると戦国が勝つという非常に大きなポイントがあることに加えて、次の2つの理由からです。

(1)B氏が訴訟への協力を拒否している

A氏がこう言っているのを私もききました、とBさんが言っていますが、それは本当のことでしょうか。
人間の記憶というのは不正確なもので、見聞きしたと言っている事実についても、実は間違いだったり、場合によっては嘘をついている可能性もあります。
そのため、法廷に呼び出して尋問を受けさせることが重要です。
いろいろな角度から質問されても、不自然な点がない証言というのはかなり信用性が高くなります。
これに対して、法廷で宣誓もせず、反対尋問も経ていないBさんがこういってるんだぞと言っても、残念ながら証明力が落ちると言わざるを得ません

これにとどまらず、B氏の姿勢が戦国への全面協力にかわっている場合には、むしろ、戦国側証人となって出てくるリスクすらあります。

もっとも、のりお側もこれ一本で戦っているわけではなく、その後、戦国から「賞金が分配されると誤解されかねない発言をしたことは事実だろうと考えています」「誤解をさせてしまったことお詫び致します」という回答などを引き出しているようです。

そのため、(1)B氏が訴訟への協力を拒否していることを戦国勝訴の理由としてあげたものの、実はこの点だけにしぼればのりお側の勝ちの(A氏がのりおに対して、賞金は満額出ると説明したという立証ができる)可能性はあります。

(2)契約締結時に賞金が満額出ると説明したか否かが重要

さて、このように説明すると、「おいおいこのポンコツAI、なんでその理由で戦国が八割がた勝つと思っているんだ」と思うでしょう。

いやいや、最後まで説明をきいてくださいな。

まず、のりおが選手契約を締結したのは2021年1月

次に、B氏立会いのもと、A氏がのりおに対して、賞金を満額もらえると説明したのは2021年9月の大会終了後とされています。

契約というのは、締結時に内容が定まります
2021年1月の契約締結時に、A氏がのりおに対して、賞金を満額もらえるよと説明してのりおがそれならと契約したのであれば、大問題です。
虚偽の説明をして契約をしたと認定されたり、A氏が説明したとおりの内容で契約が成立したと認定されるおそれがあります。

これに対して、契約期間が満了した、もしくは、満了間近となった2021年9月に、A氏がのりおに対して、誤った説明をしたという認定がされただけならそれほど問題ではありません。
A氏が既に締結された契約について、契約内容を誤解して、のりおに対して誤った説明をしてもそれで契約内容が変わるというものではありません
たしかにそれはA氏のミスですし、のりお側とすると、変な期待持たせやがってこの野郎と思うでしょう。
しかし、のりおが拘束されるのはあくまでも2021年1月に締結した契約であり、契約締結後に誤った説明をされても、それによって契約締結時ののりおの意思(契約するか否か)が左右されることはないのはもちろん、契約内容が変更されるものではありません。

このように、現時点での、のりおの主張からすると、2021年9月にA氏が賞金は満額出ると説明したことは推認できたとしても、2021年1月にそういったことを言ったとまで認定することは困難と思料します(2021年9月に言ったんだから2021年1月の契約締結時にも言ったんだという論理展開も考えられますが、これだけだとちょっとよわいですね)。

戦国が、「賞金が分配されると誤解されかねない発言をしたことは事実だろうと考えています」「誤解をさせてしまったことお詫び致します」と回答したとされることもこれですべて説明がつきます。

すなわち、戦国とすると、「さーせん、A氏が既に締結済みの契約について、契約内容を誤解して、2021年9月に誤った説明をした可能性があるみたいなんすね。まじありえないのでA氏しかっときますわ。あいつ契約内容とかよう知らないんでほんと勘弁す。ちな、さすがに2021年1月の契約締結時にはそんなこと言ってないすよ、なんか証拠でもあるんすか?」でその後の対応についても合理的な説明がつきます。

このほか、戦国からのりおに突きつけられるであろう疑問として、契約書上は賞金分配がされないことが明白であるにもかかわらず、なぜそのままサインしちゃったの?契約書の内容と違って賞金が出ると説明されたなら、契約書修正してよと言うのが普通では?という点もあります。

さらには、のりおは選手ではなくコーチだから契約書の解釈にあたって、文言そのまま適用されないのではないかという問題についても、この主張が通ったところで賞金分配が出場率に関係なく支払われるべきだという結論にはならんのではという点もあります(そもそも賞金分配は、出場率の定めがある通り、選手に対するインセンティブでありコーチには関係ない、となると思われます)。

このように、現在、のりお側が公開している主張のみから考えると戦国の勝ちの可能性が高いかなという印象です。

もちろん、実はネットでは公開してないだけで、のりお側にいろんな証拠(とくに2021年1月時点の説明についての隠し玉)があるとなれば話は別ですし、A氏を反対尋問で崩せばそれで一気に勝利に近づくでしょう。

私は手首もAIブリッツなみと評判ですので、いつでも手のひら返しをする準備はできています。手首にあぶらをさしておくので、ぜひ逆転裁判なみの新展開を期待したいところです。

4.(余談)移送について

のりお側は移送について主張していますが、まぁこれはそんな言わんでもという印象です。

契約書で専属合意管轄裁判所が福岡地裁になっているにもかかわらず、東京簡裁(東京地裁に移送)に訴訟提起したらそうなりますし、戦国に対する訴訟だけ福岡地裁に移送してA氏に対する訴訟は東京地裁でやるとは通常ならんでしょうから、そんなもんではないでしょうか。

期日の直前に移送申立てされたらおいおいこっちは東京だと期待してたのにーと、イラッとするのはそうでしょう。

ただ、そもそもが専属合意管轄があるにも関わらず、別の裁判所で提訴しているようなのでそのようなリスクは大いに内在しているものですし、第1回期日までに和解に向けた協議を訴外で行っていたとのことなので、戦国側は単に和解成立を目指していたので、あえて移送申立てをして刺激するようなことはしたくなかったのではないかという印象です。

5.ゲーミングチームもある程度大きくなってきたらコンプライアンスを意識しよう

ゲーミングチームというのは、最初からコンプライアンスがちゃんとした大企業が運営するというのはまれでしょう。

サークルの延長で賃金なんて当然なかったり、お金持ちのおじさんが趣味でお金出してあげて始めたり、というものかもしれません。
そのため、契約書なんてものがそもそもなかったり、あったとしてもネットで書式だけ拾ってきたようなヤバいものだったりというのが往々にしてあるでしょう。

しかし、これがいままでは通じたからと言ってその後もずっと通用するとは限りません。

大会で実績を残すなどしてある程度チームとしての体裁がととのってきたら今までの成功体験に縛られることなく、コンプライアンスを意識すべきです。

ゲーミングチームというのは人気商売です。

ファンやスポンサーがいるからこそ運営できているはずです。

こういったチーム内のごたごたが表ざたになると、ファンやスポンサーは、チキン冷めちゃった状態になることは想像に難くありません。最悪、大会主催者から問題にされることもあるでしょう。

お金に余裕があるなら、少しでも選手に配って報いてあげたいという気持ちはわかります。

しかし、ごたごたが起こってチームが崩壊してしまえば元も子もありません。
極力紛争が起こらないように、仮に起こっても敗訴しないようにする体制づくりは将来への投資として必要なことである、と経営者の方にはちゃんと意識してもらいたいものです(どことは言いませんが、こういったごたごたで崩壊してしまったチームもいくつかあります)。

6.戦国が敗訴してしまったらどうすれば良いか

訴訟はみずものなので、戦国が敗訴する可能性ももちろんあります。

敗訴した場合には大変なことになります。

ゲーミングチームにはファンもいればアンチもいます。
従来のアンチは容赦なく攻撃を加えますし、野良連合を崩壊させたことでいちやく有名人となった人物もいますので、戦国が敗訴すれば嬉々として様々なところがとりあげて、ゲームには興味はないけどただ戦国を攻撃したいだけというアンチも大量発生するでしょう(こういった観点から決して負けられない訴訟であるともいえます)。

そうなった場合の対処としては組織改革をすることがおすすめです。

代表者の首を挿げ替えるだけという対応は一般の中小企業なら通じるでしょうが、ネット民はどうせお飾りだろとみなして粘着して攻撃を加えてきます。

こういった場合には弁護士を中心とする第三者委員会をいれて再発防止策をとりいれたり、なんなら弁護士を役員にいれてコンプライアンス体制を構築しますとアピールしつつ、あまりにも度を越したアンチに対しては訴訟をして黙らせるというのも手でしょう(こういった対応をするにはけっこう資金力も必要ですが)。

なんにせよ、敗訴した場合の対応はすぐにでもやらないと一気にチームが崩壊するので注意が必要です。

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