高校教育(部活動)でeスポーツを効果的に用いるためには
eスポーツこそ最高の教材?「新時代の実社会スキル」育成に注目。コンテンツ配信・分析・メンタルマネジメントなどという記事があります。
アメリカの高校ではeスポーツクラブの活動が活発なようです。これは単純にeスポーツが楽しい、そして普及しているということもありますが教育の場面でも効果的に使えるからと考えられます。
以下、高校の部活動でeスポーツを教材とする意義等について解説してきます。
1.eスポーツで学べること
それではまず、eスポーツではどのようなことが学べるでしょうか。
・PDCAサイクルとその実践
・コミュニケーション能力
・パソコンの操作方法
といったものがあげられます。さらにeスポーツそのものから学べるものではないものの、プラスアルファとして、以下のようなものを学習することも可能です。
・パソコンの仕組み(そして組み立て)
・webサイト制作能力
・動画などのコンテンツ制作能力
2.eスポーツはPDCAサイクルとその実践を学ぶのに最適
eスポーツの教育面における特徴は、肉体ではなく知性を重視する点、そして団体競技である点です(もちろん格ゲーのように個人競技もありますが教育効果としては団体競技のほうが高いため、ここでは団体競技に絞ります)。
eスポーツはフィジカルスポーツよりも、PDCAサイクルとその実践を学ぶのに最適な教材であるといえます。
もちろんフィジカルスポーツでもPDCAは重要です。ただ、フィジカルスポーツでは、PDCAの分業が進みすぎているきらいがあります。
フィジカルスポーツでは、PDCAのプラン(計画)、チェック(評価)、アクト(改善)はほとんど顧問の先生がやっており、生徒はDoのみを行っているのが現状ではないでしょうか。上が考え、下はソルジャーとなり、Do、Do、Doの一辺倒は軍隊や昔の日本では良かったのかもしれませんが、現代の高校教育としては大きな疑問があります。現代の教育では、子どもたちに言われたことのみをやる人間になるための教育をほどこすのではなく、自分で考え、そして実行できる人間を育てるための教育をほどこすことが重要なのではないでしょうか。eスポーツはこういった自分で考えさせるのに非常に有益な教材です。
世界で最も有名なeスポーツである、LoL(リーグ・オブ・レジェンド)を題材にとってみましましょう。
LoLでは、考えることが重要です。なかには何も考えずにDo、Do、Do一辺倒のプレイヤーもいますが、ごく一部の才能あるプレイヤーを除き、そういった何も考えないプレイヤーは伸びず、どれだけ時間を捧げても低ランクであえぐことになります。
LoLではキャラクター同士の相性(相手だけでなく味方のキャラクターも含め)、スキル、オブジェクトの管理、視界管理、パッチによるOPキャラ、警戒すべきことなどプレイヤーが考えるべきこと、判断するべきことは非常に多いです。
プレイヤーはそれぞれが
・PLAN(たとえばゴールドになること最終目標に掲げ、この試合は序盤はレーンで耐える、あるいは逆に序盤からゲームを壊していくなどの計画をたてる)
・DO(プレイする)
・CHECK(負けた試合のリプレイを見て、どこが悪かったのか、どうすれば勝てたのかを分析して学習する。CHECKというよりSTUDYですね)
・ACT(CS精度の向上のために練習ツールを使って、毎日スキルを使わずにCSをとる練習をする、プロの解説動画を見てプロの操作を学ぶなどして改善する)
をすることが求められています。
eスポーツはこのように、プレイヤー一人ひとりがPDCAサイクルを実践することによって強くなっていくゲームなのです。
PDCAサイクルに教員の専門的知識は不要。簡単な管理だけで良い
部活の顧問を務める教員には、このようなeスポーツの専門的知識は不要です。
eスポーツを教材とする場合、教員が教えるのではなく、生徒が自主的に学ぶことに価値があるのです。
しかしながら、教員が生徒の自主性に任せて放置するのも良くはありません。放置するだけだと、世間でよく言われてるように「ただゲームしてるだけじゃん」という状態になってしまいます。
教員が簡単な管理をしていなければ生徒はDo、Do、Do一辺倒でただ遊ぶだけとなり、教育効果などはありません。教員がする管理としては、生徒に月1回もしくは数ヶ月に1回レポートを提出させるくらいでしょう。生徒はレポートを書くことによって、PDCAサイクルをより意識することになり、ゲームで強くなるとともに、PDCAサイクルを学習していくことになるのです。
3.eスポーツはコミュニケーション能力の育成に資する
フィジカルスポーツでも、団体競技ではチームメイトとのコミュニケーション能力が重要です。
ただ、フィジカルスポーツでのコミュニケーションは、時間的な制約や対戦相手にばれないためにも、アイコンタクトや「ヘイ!」「ボール!」「オープン!」といった短いものが一般的です。
これに対してeスポーツのコミュニケーションはもっと詳細です。
「~~さんはボット押して、残り4人でミッド押してタワーとろう」
「バロン警戒必要だからテレポート持ってる~~さんはボット行って」
「相手バロン始めたからもう来て」
「今から儀式の間つめるから、~~さんは龍の間の階段ロックしといて」
「4人で正面から圧力かけるから、~~さんは裏取りお願い」
などなど、eスポーツは臨機応変にコミュニケーションを取り合わなければ勝てません。具体的に言葉で表現してコミュケーションを取りますので、コミュニケーション能力の育成に資するのです。
また、ゲームが終わったあとは反省会を開いて、どこをどうすべきだったかを話し合うことでコミュニケーション能力のさらなる育成も期待できます。
eスポーツは簡単に他校と交流戦ができ、国際交流も可能
フィジカルスポーツで強くなろうとすると、遠征や出稽古などで教員の負担や金銭面での負担が大きいです。
これに対して、eスポーツはネット回線さえあれば、世界中のプレイヤーと戦うことができます。
近くの高校のeスポーツ部と対戦するのはもちろん、北海道と沖縄のeスポーツ部の対戦や果ては海外の高校生との対戦も容易で、費用もかかりません。
現在は機械翻訳もかなり優秀なので、意欲ある教員の方は機械翻訳(DeepL翻訳は非常に優秀です)を使って海外校との交流戦を組んでみるのはいかがでしょうか。eスポーツを通した国際交流も学習効果が高いといえるでしょう。
4.eスポーツを通してパソコンの操作方法を学べる
日本の少し危ない状況として、スマホの急激な普及によってパソコンの普及率が低下していることがあげられます。
現代では、ほとんどのデスクワークはパソコンで行われます。スマホで仕事というところまでは行っていません。
そのため、現代人が最低限のパソコンスキルを身につけることは不可欠です。
こういったパソコンスキルの基礎的教養はeスポーツを通して身につけられます。多くのeスポーツはパソコンを使ったゲームだからです。
5.eスポーツに関係する派生的学習
eスポーツそのものからは学べないのですが、たとえばeスポーツ部を設立することにより以下のようなことを学習することも可能です(教員のサポートも必要ですが)。
パソコンの仕組みと組み立ての学習
パソコンは、ケース、電源、マザーボード、CPU、CPUクーラー、メモリ、ビデオカードといった部品から構成されています。
eスポーツ部を設置しようとする高校は、予算を設定し、限られた予算内でどのようなパソコンを作るのか生徒に調べさせてはいかがでしょうか。これに加えてパソコンの組み立てをさせることにより、生徒はパソコンの仕組みを詳しく知ることができますし、限られた予算の中でどのパーツを優先するのかといった取捨選択の判断も生徒は学習することができます。
ただし、これをやる場合には教員側にも自作PCの知識は不可欠です。Ryzen用のマザーボードを買ったのにIntelのCPUを買ったり、マザーボードがサポートしていない周波数のメモリを買ったりしてはどうにもならないからです。
webサイト制作能力
これは昔からのパソコン部などでよく行われていたのですが、~~高校eスポーツ部のwebサイトを作らせてはいかがでしょうか。
サイト構成としては簡単なものでよく、部活動での取り組みの紹介と練習試合の申込先くらいでも良いでしょう。
HTMLを一からうって構成するのも良いのですが、簡単にブログ程度のものを作るくらいで良いでしょう。
動画などのコンテンツ制作能力
最近の流行りは動画です。
プレイ画面を録画(ビデオカメラ回すんじゃないですよ、ちゃんとパソコン上で記録しておくのです)し、編集、その他の素材を付け加えて簡単なプロモーションビデオの作成をさせてはいかがでしょうか。
現代社会では動画制作能力というのは、かなり重要なスキルになりつつありますのでこれも将来の仕事に役立つでしょう。
6.教材としてのeスポーツに適したゲーム
eスポーツは様々なものがありますが、教育効果が高いeスポーツの条件は、まず団体競技であること、そして、戦術性(戦略性)が高いことです。
格ゲーは、日本ではeスポーツの代表格のように扱われますが、個人競技であるため教育的効果としてはいささか落ちます。また、団体競技でもエイムでゴリ押しがメインとなってしまうようなゲームは教育効果が低いです。
私見とすると、現在、次の2つのゲームが教育的効果が高いように感じています。
・LoL(リーグ・オブ・レジェンド)
・R6S(レインボーシックスシージ)
7.eスポーツ部教員が気をつけるべき問題(モラルやネットリテラシーなど)
さて、このようにeスポーツではフィジカルスポーツにはないような高い教育効果が得られますが、反面、フィジカルスポーツではあまり見られないような問題も生じえます。
BM(バッドマナー)問題
eスポーツは、基本的に匿名で行われるのを傘に、とんでもないクズ野郎がプレイしていることも多いです。
こういったモラルに欠ける行動を生徒が真似しないように教員は注意をはかるべきです。
生徒がモラルに欠ける言動をしているのを見つけたらすぐさま叱責すべきです。
ネット上で見かけるモラルに欠ける言動は反面教師として、モニタの向こう側には自分たちと同じような人間がいるのであり、自分たちは敬意をもって接するよう徹底するべきです。
ネットリテラシーの問題
ネットでは必要以上の情報公開は避けるべきです。
とくに高校生くらいの年頃だと過ちを犯すこともあるでしょうから、ネットタトゥーにならないよう、住所や氏名など個人を特定できる情報を必要以上に他人に教えないよう教員も注意をしてあげるべきです。
ただし、匿名であることを逆手に取ったモラルに欠ける言動をすることは決して許してはいけません、必要以上に個人情報を垂れ流さず、かといって個人が特定されても恥ずかしくない言動をするように生徒に指導することが必要でしょう。
有害サイトの問題
学校のパソコンを使ってエロサイトを見るなどというのは論外ですが、ちゃんと規制をしないとやる人は多いでしょう。
そのため、学校のパソコンにはフィルタリングソフトの導入をおすすめします。
8.まとめ
このように、高校でのeスポーツ教育(eスポーツ部としての活動)は、現代社会で必要な、PDCAサイクルの学習と実践、コミュニケーション能力の育成、パソコンの学習に非常に有益です。
また、新聞社が主催するeスポーツ甲子園やテレビ局が主催する高校対抗のeスポーツ大会など、高校生のeスポーツを支援していこうという大きな流れも始まっています。
各高校にはぜひeスポーツ部を設立し、教育に活かしていただきたいです。
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