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有名人が匿名のツイッターアカウントに対してバカだの死ねだのと言ってるけどあれ許されるの?(法律解説)
※ツイッターアカウントに対する名誉毀損はこちらで別途解説しています
インターネットは双方向性のメディアで、これまで情報の受け手でしかなかった一般人も自ら全世界に向けて情報発信できるようになりました。
しかしながら、技術の発達に倫理観の向上がついていかなかったようで、インターネットを使って誹謗中傷をする輩が大量に増えました。
とくにテレビ出演をしている芸能人がターゲットにされやすいのですが、イメージを気にして泣き寝入りを選択する方が多数でした。
これに対して、最近になってついにターゲットにされていた芸能人たちも誹謗中傷に対して訴訟で対抗するようになってきたようです。これ自体は良いことです。ネットの誹謗中傷は本当にひどいものが多いです、よくこんなこと書けるなと思うことも多いのでこれ自体は素直に応援していきたいです。
しかしながら、芸能人も聖人というわけではなく、匿名の一般人のツイッターアカウントに対して、ボケだのアホだの場合によっては死ねとまで罵る方もいます。テレビでよくお見かけする有名芸能人の方でもネットでは口汚くののしる姿を見かけます。
芸能人も一人の人間です。相手が芸能人だからといってひどいことを言っても良いというものでは決してありません。
しかしながら、匿名であってもモニタの向こうにいるのは一人の人間です。匿名の人間に対しては何を言っても許されるのでしょうか。
本記事はこの点についての法律解説(民事)となります。
1.違法になる侮辱(民事)とはなにか~基本知識の確認~
民法上の名誉毀損は、簡単にいうと人の社会的評価を低下させる行為を意味します。
これに対して、侮辱は人格権侵害の一種で名誉感情の侵害となります。
簡単にいうと、社会的評価を低下させるような言葉(たとえばこいつは不倫している、賄賂を受け取ったなど)でなくても、その人を傷つける言葉(バカ、アホ、ブス、ホモなど)をなげかけられれば侮辱になります。
もちろんありとあらゆる侮辱が違法になるわけではありません。社会通念上許される限度を超える侮辱行為が違法とされます(最判平成22年4月13日・民集64巻3号758頁参照)。
そして、一般読者の普通の注意と読み方を基準として、社会通念上許される限度を超えるか否かが判断されるとされています(後述の福岡地判令和元年9月26日・判例時報2444号44頁)。
2.名誉毀損の場合には同定可能性が必要(特定しますた)
名誉毀損は人の社会的評価を低下させる行為です。
これは、ハンドルネームやペンネームのようなものの社会的評価それ自体は保護していません。
あくまでも、そのハンドルネームやペンネームを使っている、『中の人』の名誉を保護しています。
たとえばツイッターアカウントに対して名誉毀損を行った場合、『中の人』が誰かわかるようなアカウントの場合には、ツイッターアカウントに対する名誉毀損=『中の人』に対する名誉毀損という関係が成立するので、名誉毀損も成立します。
反対に、『中の人』がまったくわからないツイッターアカウントに対して名誉毀損を行っても、ただのツイッターアカウントに対する名誉毀損(法的保護に値しない)であって、『中の人』に対する名誉毀損ではないので、名誉毀損は成立しません。
これを同定可能性(特定可能性)といいます。
簡単にいうと、ツイッターアカウントやハンドルネームの中の人が特定可能でなければ名誉毀損は成立しないのです。
3.侮辱の場合には同定可能性は必要か?―同定可能性は不要―
侮辱の場合にも名誉毀損と同じように同定可能性が必要だという見解もあります。
しかしながら、名誉毀損は、あくまでも『中の人』の社会的評価を保護しているのに対して、侮辱は『中の人』の名誉感情を保護しています。
『中の人』が誰か特定可能な材料がなければ、いくらツイッターアカウントに対して名誉毀損を行っても、『中の人』の名誉(社会的評価)は毀損されません。
これに対して、たとえ匿名のツイッターアカウントであっても侮辱を受ければ中の人は傷つくのです。
これについて、福岡地判令和元年9月26日(判例時報2444号44頁)は次のとおり判示しました。
「名誉毀損は,表現行為によってその対象者の社会的評価が低下することを本質とするところ,社会的評価低下の前提として,一般の読者の普通の注意と読み方を基準として,不特定多数の者が対象者を同定することが可能であることを要すると解されるのに対し,名誉感情侵害はその性質上,対象者が当該表現をどのように受け止めるのかが決定的に重要であることからすれば,対象者が自己に関する表現であると認識することができれば成立し得ると解するのが相当である。そして,本件でも,対象者である本件記事の男性,すなわち原告は本件記事が自己に関する記事であると認識している。
これに対し,一般の読者が普通の注意と読み方で表現に接した場合に対象者を同定できるかどうかは,表現が社会通念上許容される限度を超える侮辱行為か否かの考慮要素となるにすぎない」
明確に、侮辱については同定可能性なんて要らんと断言したのです。
ただし、同定可能性が認められる人に対して侮辱をした場合には社会通念上許容されるかどうかというハードルが下がりますし、賠償額にも影響が出るでしょう。
4.これは俺のことを言ってるなプンプンと過剰反応をするのはダメ
以上のように、侮辱においては同定可能性は不要です。
たとえば匿名のツイッターアカウントに対して侮辱をする場合に、完全に匿名の人であっても侮辱(人格権侵害)は成立します。
ただし、だからといって過剰反応まで許容されるわけではありません。
ネットの言論の中には「こういったことをやっている人はバカだと思う」というような一般論を述べた言論も存在します。
こういった一般論に当てはまってしまった人が「あ、これは俺のこと侮辱してるな」と感じることもあるでしょう。
明らかに、特定の人を指して侮辱しているような場合は別ですが、
「当該表現活動の登場人物は自分を指しているのではないかと過剰に同定するような場合は、論外なはずである」(田代亜紀・判例評釈745号11頁)。
ちなみに、この記事は特定の人に対しての記事ではありませんが、普段から匿名のツイッターアカウントに対して、バカだの死ねだのと言っており、心当たりがあるなという人は「これは自分のことを言ってるな、侮辱だ、訴えてやる」とプンプンする前にまずは自身の言動を見直すことをおすすめします。
5.有名人にひどい侮辱をされた、訴えたいという場合にはクラウドファンディングで訴訟費用の捻出という選択肢も
このように、有名人の中には、相手が匿名の一般人だからなにをやってもいいやとばかりにひどい侮辱を浴びせかける人がいます。
これについては、以上のとおり、人格権侵害(名誉感情侵害)であるとして、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟で対応可能です。
しかしながら弁護士に依頼して訴訟をするには当然費用が掛かります。侮辱の損害賠償金は数十万円程度の世界ですので、弁護士費用で赤字になる可能性も十分になり、泣き寝入りを強いられている人も多いでしょう。
こういった場合にはクラウドファンディングを活用するというのも手です。
こういったひどいことを公の場で言い放つ有名人については、多数の人が反感を持っており、被害者に支援してあげようという人も多くいるはずです。
また、クラウドファンディングでの集金状況というのは一種の目安になります。
ひどい侮辱をされてる、かわいそう、と世間一般の人が思うようであれば資金も潤沢に集まるでしょうし、反対に、この程度で侮辱とかなに考えてんだ、被害妄想じゃないかというレベルだとそもそも資金もあまり集まらないでしょう(もちろん有名人の知名度や訴えを提起しようとしてる人の知名度にも左右されますが)。
6.まとめ
・名誉毀損は社会的評価の低下
→ツイッターアカウントそのものに対する社会的評価は保護されないが、中の人が特定可能な場合には保護される(これを同定可能性という)
・侮辱は社会的評価の低下ではなく、名誉感情の侵害
→中の人が特定可能かは問題にならない(名誉毀損で要求される同定可能性は不要)
・芸能人の中には匿名のツイッターアカウントに対してひどい侮辱を繰り返す人もいるが、匿名のツイッターアカウントに対する侮辱も違法になり得る(つまり法的にも許されない)
・違法かどうかの判断基準は、社会通念上許される限度を超える侮辱か否か。侮辱された人が匿名ではない場合には、社会通念上許容される限度も超えやすい
・芸能人からひどい侮辱をされて訴えたいけど訴訟費用を捻出できないという場合にはクラウドファンディングで訴訟資金調達という手も考えられる
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