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ミルクチョコレートの“ミルク感”

日本を代表するお菓子メーカー・森永製菓グループ傘下の森永商事。彼らは1973年の創立以来、グループ内で唯一プロ向け製菓材料に特化した事業を推進してきた。
その体制は、自社で開発を行い、製造工程だけを外部工場に委託するというユニークなもので、一般に「商社」と聞いて思い描くイメージとは大きく異なる。

そんな彼らが、当時同社のチョコレートテクニカルアドバイザーを務めていた植﨑義明氏(現「ラ・リヴィエ・ドゥ・サーブル」代表)と共同で開発したのが、2008年より手がけるクーベルチュールシリーズ「ショコラマニュファクチュール」の最新作「セレニティ」だ。

その開発の経緯について、植﨑氏に話を聞いた。

「ラ・リヴィエ・ドゥ・サーブル」植﨑義明代表

「僕からはミルク感の強いミルクチョコレートをつくってほしいというお願いをしました。焼いても塩味を感じないハイミルクなミルクチョコレートがほしいんだけどできないかなあ、って。

『ミルク感を強くしたい』と言うと『じゃあ粉乳を多くしましょう』というのが一般的な考え方ですが、そうするとコンチングの最中に熱が加わって粉乳が焼けてしまう。この焼けた粉乳が、ビスケットやクッキーのような塩味のもとになってしまうんです。

塩味は塩味で良いのですが、そうならずに、だけどそれでいてミルク感は強いチョコレートがもし実現できたらこれはスゴイことだなと」

相当難しいお題だったと思います、と植﨑代表。

“強いミルク感”のために開発チームがまず目をつけたのは、やはり粉乳の量。とはいえ植﨑代表の指摘どおり、粉乳を増やせば増やすほど塩味は強くなり、また乳糖由来のしつこい甘さも目立つ。それだけでなく、粉乳を増やしすぎると乳たんぱくが口のなかでダマになり、口溶けの悪さにもつながったという。

「何回もやり直しをお願いして、かなり苦労したんじゃないかなあ。でも、おかげで理想形に近いものがつくれたと思います」

セレニティ

完成の決め手になったのは、使用する乳製品の産地だった。

通常使用している日本やオーストラリアの乳製品は、どれも比較的すっきりとした軽い味わいが特徴。一方普段はあまり使用しないヨーロッパの乳製品に目を向けてみると、コクがあり濃厚な味わいのものが多かった。この違いは主に食べている牧草の違いに起因するものだという。

 いくつものサンプルのなかから選んだフランス産の乳製品を軸に、特徴の異なる複数の乳製品をブレンドすることで、ミルク感は強く、だけど塩味の主張は最小限というこれまでにないミルクチョコレートに仕立てた。そうして完成したのが、「セレニティ」だ。