脱法的な差押えはやめましょう

先日以下のようなポストをしたのは、実際職場でこのような話を聞いたから。

簡単に現時点での考えをまとめておこうと思う。

1 脱法的な差押え

滞納処分による差押えについて、初めて「脱法的」との指摘をした裁判例は、前橋地判平成30年1月31日である(たぶん)。

以上によれば、被告は本件預貯金債権の原資が〇〇からの給与であることを認識しつつ、同社からの給与が本件貯金口座に振り込まれた当日に、本件各差押処分を行なっているのであって、実質的に給与自体を差し押さえることを意図して、本件各差押処分を行なったものと認めるべき特段の事情があるというべきであり、本件各差押処分は、いずれも地方税方41条1項、331条6項、728条7項が準用する法76条1項に反する脱法的な差押処分として違法であると言わざるをえない。

前橋地判平成30年1月31日

行政処分である差押えについて、「脱法的」という言葉を使用するのは、かなり強い表現であると言ってよい。が、確かに振込日に給与を全額取立てというのはやり過ぎだと思う。この判決においては、違法性認定の要件として「給与自体を差し押さえることを意図」していた点を挙げている。なお、前橋市は本件については控訴せず、判決は確定している。

2 高裁での逆転

同時期に提起された(ほぼ)同内容の訴訟についても、前橋地裁は同様の判決を出している(前橋地裁平成30年2月28日)。こちらについては市側が控訴し、高裁で逆転していることに留意する必要がある。

①滞納処分庁が、実質的に法77条1項及び76条1項により差押えを禁止された財産自体を差し押さえることを意図して差押を行ったといえるか否か、②差し押さえられた金額が滞納者の生活を困窮させるおそれがあるか否かなどを総合的に考慮して、差押処分が上記趣旨を没却するものであると認められる場合には、当該差押処分は権限を濫用したものとして違法であるというべきである。

東京高判平成30年12月19日

比較して分かるとおり、「滞納者の生活を困窮させるおそれがあるか否か」が具体的要件として追加されている。本判決においては、「2,000円が差し押さえられたからといって、その額が直ちに被控訴人が困窮に陥るおそれがある額であったということはできない」などとして、被控訴人の請求を棄却している。こちらも上告はされずに判決確定。

3 そして令和元年判決

現在、滞納処分の法適合性判断に大きく影響しているのは、大阪高判令和元年9月26日だろう。

給与等が受給者の預金口座に振り込まれて預金債権になった場合であっても、同法76条1項及び2項が給与生活者等の最低生活を維持するために必要な費用等に相当する一定の金額について差押えを禁止した趣旨に鑑みると、具体的事情の下で、当該預金債権に対する差押処分が、実質的に差押えを禁止された給与等の債権を差し押さえたものと同視することができる場合には、上記差押禁止の趣旨に反するものとして違法となると解するのが相当である。

大阪高判令和元年9月26日

「具体的事情」については、「対象口座への入金が(ほぼ)給与のみであること」及び「処分庁が実質的に差押禁止財産を差し押さえることになると認識していたこと」を挙げており、東京高判で認定していた「滞納処分庁の意図」や「困窮させるおそれがある金額か」については触れられていない。

4 今後の展望

東京高判から大阪高判の流れに鑑みれば、違法性の判断基準が「滞納者寄り」になっているように感じる。大阪高判に関して国は上告していないが、"この流れで最高裁判決が出るのはマズい"という判断があったのかもしれない。

徴税吏員は職権で滞納処分を行うことができ、それを行うだけの調査権限を与えられている。財産調査は、単に差押財産の探求だけでなく、滞納者の生計維持の可否にも着目して実施すべきであるといえるだろう。



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