俺の食べ物回想記

①富良野で食べたアイスメロンパン

2016年の夏の家族旅行。めちゃくちゃ暑かったのもあるかもしれないが、とても美味しかった。冷たくて甘くて良い匂いがして、フカフカしている天国の極みみたいなパンは我々の体に染みわたった。ああ、こんなにも贅沢な食べ物を口にしても良いのだろうか。サイコロ状のメロンがごろごろ挟んであって、その圧倒的な姿を写真に収めるべく、父は一眼、母はスマホ、私はデジカメを構えてパンを取り囲み、パシャパシャシャッターを切った。アイスを溶かすという失態などせぬよう(扇風機の前であったしなおさら)、我々は信じられないくらいスピーディーに写真撮影を終えた。(食事を前にした私たち一家は、いささか滑稽であるかもしれないといつも思う。が、美味しい温度で食べることはとてもじゅうようなことである)想像以上の果肉感だったなあ。口の中がメロンでいっぱいになって最高。一緒に買ったラベンダーラムネの存在が完全に霞んでた。オレンジのと普通のメロン色のと2種類買食べ比べたが、味の違いは分からなかった。

②運動会のおはぎ

幼稚園から小学校までの9年間、母方の祖母は必ずおはぎを作ってくれた。彼岸や正月以外にも食べられるだけで幸せだったし、なにより運動会なのだ。サンサンの太陽に、辺りの家族の声のガヤガヤ、時々流れる落とし物の放送、走り回る子ども。午後のプログラムの期待がうずうずさせる。そういう中でパクつくおはぎは格別にうまい。いつもは食後に食べるけど、全然途中に食べちゃうもんね。甘くてもちもち。ばあちゃんのあんこは、豆の風味が強く残るねっとりとした粒あんである。私はそれをもちょもちょと永遠に食べている。というのは冗談だが、許されるのならば永遠に食べたい。ばあちゃんはいくつでも食べて良いよというが、こんなに時間がかかる美しい食べ物をそんなに沢山焦って食べたらもったいない。おはぎというのは、ゆっくりゆっくり、味わって食べるものである。

祖母が他に作るのはおはぎのきなこorごま、加えておいなりさんと赤飯。運動会には両親だけでなく、母方父方両方の祖父母が来てくれた。9回もあるとだんだん「担当」のようなものが決まってきて、前述のように母方の祖母はご飯系と煮物系、父方の祖母はおにぎりと唐揚げ卵焼きといった定番のおかずで、母は変わりダネおかずとデザートといったところだった。お昼になると、ブルーシートの上に三者の勢力図が展開される感じで、私はなんだか申し訳ない気持ちになった。「あれも食べな」「これも食べな」と進められるままに食べるが、正直気もそぞろである。正しい孫的な振る舞いも分からんし。でも、ああ、なんで運動会ってあんなに楽しかったんだろう。祖母の料理の話と運動会の話はまた後で詳しく書こうと思う…

③ディズニーイースターの肉巻きおにぎり

2012年ぐらいのイースターのメニューで、半熟卵入りのでっけぇ肉巻きおにぎりが出てたと思う。それがまあびっくりするくらいうまくて、ちょっと他のことがどうでも良くなるくらい夢中になってしまった。母親は「帰ったらこれ作る!」と意気込み、父親もかなり満足そうにしていた。今でも肉巻きロールは販売しているし、それも確かにうまいのだが、やっぱりあの卵がいいんですよ。丸っこい形でね。しかも結構アツアツで提供されたんだよな。持てないくらい熱かったのよ。肉の脂がタップリ染みこんだ柔らかめのご飯に、濃厚な黄身がまとわりついて味が濃い。クドいように感じるけれど、絶妙なところでクドいラインを越してないからパクパク食べられちゃうんだよね。なんかあの頃が一番楽しかったな。ディズニーイースターのことを考えると、特にイースターワンダーランドやってたあの春の頃を考えると泣きくなっちゃう、どうしてだろ……日が傾き、気温が下がり始め、パークに夜の帳が下ろされる。まだまだ遊び足りないと、夕陽に照らされたシンデレラ城が最も感傷的に見えるのは、イースターの頃なんですわ。肉巻きおにぎりも、そりゃうまいわ(?)。

④尾道のかき氷

かき氷の体冷やす効果ってすごくないですか!?という。

2015年の家族旅行in瀬戸内。時季が悪かったのかもしれないが、もう、信じられないくらい暑かった。暑いからといって「じゃあ帰りますか」とも行かないので、予定通り町歩きをするわけである。すぐに限界がやってきて、ゼイゼイと登った先に(坂もきつすぎる)、オアシスのようにカフェが現れ、我々は迷いなく飛び込んだ。が、冷房は効いておらず、小さな扇風機が入り口付近の生ぬるい空気をかき混ぜているだけだった。そのときの落胆と言ったら……!とはいえこのまま出るわけにも行かない感じになってしまったので、とりあえずかき氷を頼んだ。味ももう売り切れていて、桃1つとレモン2つになってしまった(3人違う味を頼むのが鉄則なのに。私はいちごがよかった!)。でももういい、何でも良いから涼めるものを早く持ってきてくれ……!!!!!水分を、水分を……!!!!!店員さんがやたらと涼しそうなのがもはや癪に障るほど、全く切羽詰まっていた。滝のように汗が吹き出す中、我々は、かき氷の”威力”を知ることになる。

先に母の桃のかき氷が到着した。(正気を保っていた父親は、写真を撮った)大急ぎでさじを口に運ぶ。「ママ、それどう?」「おいしいよ。ランも食べな~」「食べる~」と一口もらって食べる。さっぱりしてうまい。口がヒエヒエになって、液体になった甘い水を飲み込む。やっぱもう一口。「あんがと」

器を母の元へ返す。すると、汗がすっと引いた。いやいやwそんなわけwww「ちゃんと桃だね」と言いながら、木目調の机や、飾られたオシャレな置物が目に入るようになった。よく見たらシーリングファンあんじゃん。風、循環してるんだね。

「ねぇ、すごい。汗引いてきたんだけど」

「やっぱり?」

私と父の分も到着して食べ始めた。経過とともにどんどん涼しくなっていった。かき氷の劇的な効果に興奮しつつ、「いやいやw」という疑いの念がある。それを晴らしたのは、

「確かに体温下がった気がする」

という父の一言だ。説得力ある~。一番体温高いし、冬場はほぼゆたんぽとみなされている父だ(冬場の朝といえば、私と母は布団から出たくな~いとごねているのだが、そういうとき父は布団に入れば良い。暑くて布団から出ざるを得ないからだ)。まじで体冷えてんだ。

落ち着くと感覚も取り戻していくもので、かき氷の味も分かってきた。レモンは甘いシロップにうんと漬けてあって、酸味が少なく食べやすかった。しんなりと柔らかになったレモンをかじると、ほどよい苦味が染み出す。母の桃味も、結構しっかり桃の果肉がのっかっていて、ワシワシッ・ジュワッとした食感を残したままかつシロップがよく染みていた。氷は流行りのふわふわ系ではないけれども、微粒で舌触りの良いものだった。ガラスの器は涼やかで、溶けた汁までうまかった。何せ自家製シロップがたっぷりかかっているので、それ自体がジュースみたいになっているのだ。スプーンがガラスにふれあう音が優しい。器を持ち上げ、行儀悪く汁をすすった。まあ、他に客もいないし。遠慮なく飲み干した。

今まで食べたことのあったのは屋台のかき氷で、おいしいと思ったことがなかった(屋台のかき氷もそれはそれで情緒的でわくわくするが、やっぱり別に美味くはないと思う)。シロップが変な味だし、最後の方味しないし、なんなら中盤の段階でそのまずいシロップすらかかってない。氷はガキガキで、くっついちゃって普通に飲み物に入ってる氷くらいの大きさだったりするのだ。ストローのスプーンも食いずれーしよぉ!そのかき氷の苦手なイメージは全く覆された。かき氷とはこんなに良いものだったのか。おいしい、おいしい。

あんなに暑かった店内も適温に感じられるようになり、すっかり癒やされた我々はまた炎天下に繰り出した。それからひとしきり尾道のエモすぎる風景を楽しみ、かき氷の効果が切れて、さすがに体調を害すると判断した我々は、すごすごと車に引き返した。

以来私は、かき氷を半ば神聖視している。食べたいけど、そんなにしょっちゅう食べない。たまに食べて、「こんなに進化してるのか」「こんな組み合わせもあるのか」と感動している。かき氷すごすぎる。氷と砂糖の贅沢の極み。

しかし、やっぱりあのかき氷にはかなわないと思う。そしてあんな極限状態も経験したくない。「空腹は最高の調味料」≒「限界までの屋外活動は最高級のシロップ」そんなの良くないに決まっているからだ。