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(第一期)『岩波講座 世界歴史<15>近代2―近代世界の形成II』~初学者に読んでほしい、高校世界史から歴史学への橋渡しの書

岩波書店からは同名の叢書が三度出版されています。岩波書店自身はとくに新旧つけて呼び分けをしていないようなので、1969-1971年に刊行された全31巻の全集を便宜的に「第一期」と記載します。入手困難かと思って紹介していませんでしたが、最近はひとむかし前に比べて、ネット書店などでだいぶ入手も容易になりました。

オランダ関係の箇所のみについて記載します。

卒論など、研究レベルで勉強したい初学者向け。先行研究の紹介、詳細な通史、問題点の提起等、その分野に興味関心がある人向けの手引きという位置づけだと思います。「講座」の名のとおり論集なので、知識やエピソードのみを求める場合にはやや難解な部分もあるかもしれません。刊行から半世紀以上経ってしまっていますが、きっちりと研究の基礎をつけるには必須の本だと思っています。

ただし、現在の大学教育で、50年前のこのタイプの書籍が推奨されているかどうかはわかりません。この第一期シリーズは既に開架ではなく書庫に放り込まれているという情報も。

書誌情報

出版社: 岩波書店
サイズ: 単行本
ページ数: 444p
発行年月: 1969年

読書メモ

オランダ共和国の「成立」について一項目丸々割かれています。『身分制国家とネーデルランドの反乱』に次いで、オランダ史に研究レベルで興味のある人は読んでおくべきと思っています。章の内容は下記のとおりです。

6 十六・十七世紀の西ヨーロッパ諸国 二 ネーデルラント連邦共和国(栗原 福也)

1.共和国の成立

  1. はじめに

  2. 成立をめぐる諸見解

  3. 叛乱の序曲

  4. 海乞食の蜂起

  5. 「ガンの平和」からユトレヒト同盟まで

  6. 分裂と対立

  7. 休戦まで

2.共和国の政治体制と経済構造

  1. 国家組織とその構成原理

  2. 共和国の経済構造

3.十七世紀の政治的発展と十八世紀における衰退

この章立てからもわかるように、1-3~1-6まで、「反乱」の経過についてがメインになります。オランダの反乱(八十年戦争の開始から連邦共和国の成立まで、つまりオランイェ公ウィレム一世の時代)については何よりも詳しいので、これ一冊押さえていればとりあえず大丈夫です。2-1、2-2の共和国の構造についても、『身分制国家とネーデルランドの反乱』と併読でかなり理解が進むものだと思います。

但し1-7や3に至ってはオマケ程度。ナッサウ伯マウリッツの1590年代からウィレム五世の1790年代までの200年間は、さらっと流して終わっています。個人的にはそこがいちばん必要だったんですけれどね…。

『身分制国家とネーデルランドの反乱』同様、最も重要なのは「1-1 成立をめぐる諸見解」、19世紀以降のオランダにおける先行研究のまとめです。この部分はある程度の基礎知識が前提となっているため、先に「1-2 叛乱の序曲」以降を読んでからあらためて読んだほうが良いかもしれません。

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