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夢と現実がつながる時/         青い鳥からのメッセージ  

真冬のある日のこと、出先で偶然に合った友人からあるワークショップに誘われ、一枚のチラシを貰った。

友人はハワイ在住のワークショップの講師がお気に入りとみえて、講師についてはあれこれ話して聞かせてくれたのだが、肝心のワークショップの中身についてはすっかりスルーしていた。どちらにしろ、真冬の外出は億劫だし、当日気が向いたらいこうと、こちらもいい加減にとらえていた。とはいえ、ふと気がつけばそのワークショップはすでに翌日に迫っていた。

その晩、私はいつもより早めに温かいベッドにもぐり込んで眠りについた。そして翌朝の明け方近くにある夢を見ていた…。

夢の世界は全体にレトロな雰囲気につつまれていて、私は子供時代に通った小学校の校舎内にいた。そこで何か大切なことを学んでいる様子だった。今はうっすらとしか思い出せない一連のクラスの後、私は誰もいない玄関ホールの下駄箱で靴を履き替え、下校時の解放感を味わいながら校庭へと出て行った。

曇り空のもと、校庭にはまったく人影がなくがらんとしていた…。

なにげに門の方に歩きながら、たまたま校庭の中央に目を向けると、地面の上で小さなものが動いている…。目を凝らしてよく見ると、それは色鮮やかな青い鳥だった。

小さな鳥はくちばしで地面をチッチッと突いていた。突いた地面からはミミズが出てくるかと思いきや、なんと、きらきら輝く小ぶりの金銀財宝が次から次に出てくるのだった。この予想外のファンタジックなこの光景に、私はびっくりしたのだが、大地から「宝物」がでてくることはもう体験的に知っているという不思議な感覚を覚えた。

そうしていると突然、小雨がぱらぱらと降ってきた。私は急いで門の近くに設置されたテントにおもむき、そこで雨宿りをしながら、引き続きこの不思議な光景から目がはなせなかった。

ところがある瞬間、まるで時空がワープしたかように、私は突然、雑踏の行きかう街頭に自分がいることに気づいた…。

私はその中で歩いている雑踏のひとりだった。この急な転換に戸惑いつつ、まわりを見回すと、前方からひとりの長身の男性が歩いてくるのに気づいた。

その男性は他の人たちとは一種異なる無機質なオーラを放っていたから、すぐに目についたのだった。私の視線に気づいたのだろうか、彼もこちらに顔を向けた。すると私たちの目と目があった。

お互いにすれ違う際に、私は思わずその男性に声を話かけた。

「あなたは誰ですか?」

彼は、無機質な表情で答えた。
「私はあの青い鳥です。」

「で、でもあなたは人間じゃないですか?」私は一瞬立ちどまり、斜め前にいる彼の顔を見あげてつぶやいた。

「私たちは、時々人の姿に変身し、あなたたち人間と交わるのです。」
彼はそう答えると、そのまま雑踏の中に消えていった。

この予想外の答えにびっくりしながらも、私はそれが本当のことだと直感した。青い鳥のスピリットも、他の動物たちのスピリットも、この男性のように時に人の姿に変身して人間界とまじわる…、少なくとも人間の意識と交流する。だから、私たち群衆の中には、人間以外の存在が何かメッセージを伝えるために時おり混じっていることだってありえるのだ、と。とはいえ、実際そのような次元に遭遇したら、はっとさせられるのだ。

私は雑踏に目を向け、その中には人間以外の存在がどのくらい混ざっているのだろうと不思議に思わずにはいられなかった。しかし、この稲妻のような直感的閃きは飽くまでも夢の中でのこと。現実社会では、ただの妄想と嘲笑されるに違いない。

この不思議な夢をはっきり肌で感じたまま、私はいつのまにか目を覚ましていた。外はもう薄明るくなりはじめていた。

それは今にも雪が降りそうな寒々とした朝だった。夢の中の青い鳥だと自称するあの男性の無機質な余韻を感じながら、私はコーヒーで目を覚まそうと、いつものようにテーブルに座り、入れたてのコーヒーを飲みはじめた。

テーブルの上には、昨夜もらったワークショップのチラシがおいてあった。その時はじめて、私はワークショップのタイトルに気づいた。そこには「ハートを開く/ Open your heart」と大きく書かれていた。

それは、普段の少々へそ曲がりの私だったら常套句として軽く受け流してしまうようなものだった。が、それを見た瞬間、私の中でそれは夢の中の青い鳥とリンクした。

ハートを開く、それはメーテルリンクの童話「青い鳥」の中にあるように、私たちの最も身近にある幸せのカギなのかもしれない…。私たちにとって本当の幸せとは何か?それは私たちがハートを開くことでもたらされる様々な愛や喜びという宝物なのかもしれない。そして青い鳥のスピリットは、人間たちにそのことを思い出させるために、時として人間界に現れるのかもしれない…。そんな空想まがいのことを考えていると、私の中で何かがストンと腑におちた。

そうだ、このワークショップに行ってみよう!

軽い朝食をとると、私はさっそく身支度をして、玄関を出、マンションの屋外廊下を通り抜けて一階へと降りていった。そして、階段を降り切った踊り場でまったく予想外の場面にでくわした…。

なんと、踊り場一面に青い鳥の羽根がばらまかれているのだった。

私は思わず息をのんだ。私はまだ夢の中にいるだろうか? これは一体どういうこと? どうやって、こんなにたくさんの羽根がそこにばら撒かれているのか?

近くの森のカワセミがカラスに攻撃されたのか?それとも、近所で飼われている青い鳥が猫に攻撃されたのか? しかし、そこには血痕の跡はなく、ただ大小さまざまの色鮮やかな青い羽根だけが散らばっているだけ。それも「ハートを開く」ワークショップに出かける矢先の私の足元に…。

青い羽がどのようにそこにもたらされたかは未だに知るよしはないが、それは私にとって夢と現実が物理的に交錯しあう初めての体験だった。

この共時性をどう受けとめてよいか分からないまま、私はとりあえず足もとに散らばっている青い羽根を一枚一枚拾いあつめ、ハンカチで丁寧に包み、バッグに収めた。それから、半分夢うつつの不思議な気持ちとある種の高揚感にかられながら、ワークショップへと向かった。

そのワークショップは実際に愛をテーマにしたものだった。何年も経った今、その内容はうら覚えとなったが、今でも鮮明に私の心に刻み込まれているのは、この夢と現実が交錯する次元からのメッセージだった。

その日以来、私はその時に得た青い羽根を青い鳥のスピリットからの贈り物として宝物にしている。私にとって、この体験は、人生という計り知れないミステリー・スクールでハートを(心を愛に)開いてくことの大切さに気づき、それをより意識的に生きていく「道」へのイニシエーション(秘儀入門)であったように思える。

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