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「ジュビロ磐田へのFIFA制裁」

衝撃的なニュースがジュビロ磐田よりリリースがありました。今回は、この事件の裏側を探っていきます。

1.事件の概要

事件は、21年に磐田に加入したファビアン・ゴンザレスは、タイリーグのクラブであるラチャブリと契約をしていた。
磐田は、当該選手とラチャブリとの契約関係が存在するのを知りつつも、当該選手を誘引してラチャブリとの契約解除させ、磐田が当該選手を獲得したとするもの。

2.制裁の内容

・ゴンサレスの4ヶ月間の公式戦出場停止処分とラチャブリへの約5万ドルの賠償金支払命令
・賠償金については、磐田も連帯して支払義務を負う
・来季の選手新規獲得を禁止(育成世代含む全てのカテゴリーの男子選手)
 ※ユースからトップへの昇格等のクラブ内の登録区分変更と、レンタル バックは可能
・育成世代については、新規入団する新高校1年生、新中学1年生、新小学5年生および新小学6年生については新加入選手は公式戦への出場禁止

という驚愕の制裁。

3.事件の経過

・20年11月  ラチャプリとゴンザレスが契約締結 ※1 
・20年12月 ゴンザレスがタイに渡り、14日間の検疫期間に入る ※2
・21年1月 磐田がゴンザレスと契約締結 ※3
          ↓
・22年4月13日 ラチャブリが磐田とゴンザレスを相手としてFIFA紛争解決室(DRC)に申立て
・22年9月29日 DRCの裁定
・22年10月19日 磐田がスポーツ仲裁裁判所(CAS)へ上訴

※1 以下のニュース(2020/11/24)より推定  (ブラウザの翻訳機能で和訳してください。)

※2  以下のニュース(2021/1/18)より推定 (ブラウザの翻訳機能で和訳してください。)

※3 ジュビロ磐田 ゴンザレス加入リリース (2021/1/15)から推定

4.国際移籍の選手登録

a.国際移籍証明書の取得

事件について踏み込む前に、国際移籍の手続きを触れておきましょう。
国際移籍では、FIFAが構築した「Transfer Matching System(TMS)」というオンラインシステムによって選手の登録手続きを行われます。

選手を獲得したクラブ(移籍先)は、国際移籍証明書(ITC)を取得する必要があります。
このために、所属の協会を通じTMSを用いて、以下のような流れで移籍元のクラブ(前所属)に対して申請します。

ITC申請
 移籍先クラブ → 移籍先協会 → 移籍元教会 → 移籍元クラブ

申請を受けた移籍元クラブが受理し、申請の順とは逆方向で受理手続きが進みます。移籍先クラブに受理の通知が届くと、TMS上でICTが発行されます。

申請受理

 移籍先クラブ ← 移籍先協会 ← 移籍元教会 ← 移籍元クラブ


b.選手登録(移籍承認)

Jリーグで例えると、移籍先のクラブは、取得したITCのほか、選手のパスポートなど必要な書類を添付し、当該選手の登録申請を日本サッカー協会(JFA)にします。

また、Jリーグに対しても登録を行うため、当該選手と交わした統一契約書と覚書(特約にあたるもの)など必要書類を提出します。

5.DRCとは

FIFAのクラブ及び選手における紛争を仲裁、解決する機関です。サッカー界の裁判所と言えます。

以下のリストには名前しか記載されていませんが、メンバーの経歴をWEBで調べると、弁護士、各国リーグの法律顧問、法科大学院出身など法律関係のプロフェッショナル。

となると、本件についても厳正かつ慎重な審理がなされていたと思います。

DRCメンバーリスト

6.裁定結果から見る事実認定など

クラブからリリースされた裁定結果からDRCが認定した事実などを探っていきましょう。

a.ゴンザレスに対する制裁

 「約5万ドルの賠償金の支払命令と4ヶ月間の公式戦出場停止処分」

・ラチャブリは、ゴンザレスと契約締結して「書面」として残しているのは間違いない。
・ラチャブリが証拠として契約書をDRCに提出しているため、ゴンザレスは、その事実からは逃れられない。
・契約書では、契約解除の規定が設けられるが、互いに自由に解除できるようにはしていない。相手方に重大な違反行為などがあった場合に限定される。
・ゴンザレスは、磐田からのオファーに魅力を感じて、ラチャブリとの契約を契約書の規定に基づかない方法で一方的に解除した。
・これは契約違反であり、ラチャブリは契約書に則って賠償金をゴンザレスに請求した。→これがDRCに認定された。

b.クラブへの制裁に係る争点

DRCは、ジュビロ磐田とゴンザレスが契約締結する前に、同選手とタイのラチャブリとの間に契約が締結されていたことを認定した上で、同選手がタイのクラブとの契約を正当な理由なく解除するとともに、ジュビロ磐田が当該契約解除を誘引したと推定されると判断し、決定を下した。

争点となるところは、
○クラブがラチャブリとゴンザレスとの間に契約が成立してたことを認知していた。
○その事実を認知しつつ、ラチャブリとの契約の解除を誘引したと「推定」される。

c.契約解除の誘引行為

・「推定される」とあるようにDRCは、磐田が契約解除を誘引したことについては、直接かつ確定的な証拠を得ていないと読めます。
・けれど、これ程の強い制裁に踏み切ったのには、それなりの理由があったはずです。
・これはあくまで推察の域ですが、DRCは責めからを逃れようのないゴンザレスをまず追求した。
・このことにより、出場停止制裁と賠償金の支払い義務がゴンザレスに科せられるのを周知させた。
・ゴンザレスは、賠償金支払を一人で負うのは耐えられなかった。そこで、契約解除については磐田の関与があったと「自白」した。
・この誘引行為については、口頭での指示によっていたと思われ、直接的な証拠が無いが、この自白が大きな根拠となった。
・ただし、ゴンザレスの自白以外にも磐田の関与が推定される事実がいくつかあったので、「推定される」という言葉を使って関与を認定した。
・こうして、DRCは磐田にも制裁を科した。

d.ITCの謎

・一つ不可解なところが見えてきます。
・前述したように、選手の登録にはTMSを用いて、国際移籍証明書(ITC)の取得が必要です。
・ラチャブリは、磐田よりも前に契約していたのは間違いなく、ゴンザレスの移籍したアトレチコ(ゴンザレスのコロンビアにある以前の所属クラブ)に対してITCの申請をしていたはずです。
・アトレチコは、それに対し受理手続きをしたと思われます。結果として、ラチャブリに対してにITCの発行まで及んでいた可能性を強く感じます。
・磐田もゴンザレスを獲得し、ITC発行申請をし、取得できたからこそJFAとJリーグに対する選手登録ができたはずです。
・すると、ITCが二重で発行されたという可能性が浮かびあがります。けれど、TMSは、二重発行を拒否するシステムになっているのではないかと思われます。
・ということは、次の可能性が考えられます。
 → ラチャブリのITC申請が磐田より遅れていた。
 → ITCの申請は、重複申請も受け付けてしまうTMSの仕様になっている。
 → 何らかの不正な手段で磐田が取得した。

・アトレチコとコロンビアの協会がもし、二重の申請を受けたとしたならば、両クラブに対して事情を確認するものと思われます。その時に磐田側がどのように説明したのか?
・ラチャブリの申請がまだなされておらず、ゴンザレスが契約解除を通告してきため、そのまま保留していた。その間に磐田が手続きを完了していれば、重複申請状態はなく、円滑に進んだと思います。
・その点が不可解なところです。

7.関連するクラブ内の動き

・成績不振の責任を負って、伊藤監督が解任されると同時に鈴木秀人強化部長も解任されています。
・監督が途中交代することは日常的にありますが、シーズン途中での強化部長解任はあまりないことです。
・ここには、本事件の責任を強化部長に対して追及した結果と思われます。
・ただし、磐田は、誘引行為等の不正はしていないと主張しているので、強化部長が不正に関与したとして処分はしていないことになります。
・すると、ゴンザレスとの契約について、慎重な調査が不足していたという注意不足を問題視したことになります。
・他の補強があまり上手く行っていないようにも思われますが、それも含めてがですが、途中解任は重いかと。
・なので、この解任についても不可解なところがあります。

8.想定される制裁の影響

a.表面的な影響
・トップチームは当然ながら新戦力の獲得ができない
・今季で契約満了する選手に更新を拒否されると、保有選手が減っていく
・育成世代も選手の獲得ができない

b.更に懸念される影響
・登録選手について練習や公式戦に耐えうる人数が確保できない
・ユースからの二種登録で人数的に補充としても戦力ダウンは否めない
・クラブの信頼失墜と戦績不振によるスポンサー離れ、その結果としての財政悪化
・リーグ降格危機
・育成世代の短・中期的な戦力の降下。その結果としてのユースのプレミアムリーグから降格
・クラブの信頼失墜とプレミア降格による育成世代の短・中期的な有力選手の入団拒否
・育成世代の競争力低下によるユースからのトップチームへの選手供給力が弱まる

などが考えられますが、これらは複合的かつ連鎖的に起きえて、歯止めの掛からない負のスパイラルに陥る可能性があります。

8.更なる制裁

・現在、発表されているものはFIFAの制裁です。もしも、CASでの裁定で磐田の関与が確定すると、磐田は不正な選手登録をJFAとJリーグに対して行ったことになります。
・とういうことは、JFAとJリーグからの制裁が更に科せられる可能性が強いものと思います。
・FIFAの制裁の種類としては、以下の大きく4つがあります。
A- 警告
B- 罰金
C- 2シーズンの完全な降格
D- 1 回または 2 回の連続した登録期間中、国内または国際的に選手を登録することを禁止
・このことからすると、磐田への制裁は重い方で、重大な違反行為であると認定されたと読めます。
・FIFAの制裁の重さに比例したJFAとJリーグの制裁があるものと思われます。ダフルパンチ、トリプルパンチの可能性があるかもしれません。

CASの裁定を見守るしかないのですが、この事件を抱えたサポーター、スポンサー、育成世代の選手たち、トップチーム選手たちの心情を考えると切ない思いでいっぱいです。

ここに書いたのものは、あくまで推察の域を超えません。本件のDRCの裁定結果がまだ公開されれば事件の真相が明らかになってくると思います。





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