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決算数値から見る清水エスパルスの足取り(その5) -2016年度-

前回での予告とは異なりますが、今回はクラブ史上初のJ2リーグを戦った2016年度のみに焦点を絞ってみました。
初のJ2での戦いならではの困難が多々あった中で、公約どおりに1年での昇格を果たした裏側を覗いて行きたいと思います。

1 2016年度の出来事

J2降格にも関わらず多くの選手を繋ぎ止めることに成功したエスパルスでしたが、降格したチームではあったので、戦えるチームへと育てながらの戦いでした。そのため、シーズン中盤までは所々で勝ち星を逃していました。

しかし、小林監督の下で北川、松原、金子らの若手を育てながら戦力を充実させて行きます。そして、苦しみながらも戦いの中で自信とチームワークを深めたエスパルスは、終盤に一気に開花。「奇跡の9連勝」で昇格を掴んだのでした。

2 注目すべき決算数値

(1)営業収益、スポンサー収入等の伸長

前年度(2015年度)と比べて、営業収益が約2億円ほど伸長しています。その伸び代を支えたのがスポンサー収入です。前年対比約3億5千万円増で「17億円」台に達しています。
J1時代でさえも12億円台だったので素晴らしいの一言です。一般的には降格すると、スポンサー離れや減額契約があると言われていますので、驚くべき数字だと思います。

2016年度収益(2014・2015対比)

(2)地道に稼いだ入場料、物販収入

また、入場料収入は前年よりは落ちたものの約5億円を稼いでいます。物販収入は、約2億8億千万円から約3億2千万円に増えています。(2015年の額はサポーターズミーティングでの議事録で確認。)
この辺りの収入は、我々サポーターの貢献あっての成果でしょう。

物販については、クラブ初の3rdユニが販売され、そこの貢献もややあったと思われます。3rdユニ事業は、実は後年で効果を発揮しているようですが、それは次回で触れます。

降格年であったものの、大きなマイナスどころか、同水準で維持できたのは大きかったと思います。

(2)収益増に支えられたトップチーム人件費

トップチーム人件費を見ると約15億円となっています。決算数値的には前年度からやや減少してはいますが、J1平均値に迫る数値です。ほとんどの選手の引き止めに成功したのはこの人件費予算があってのことです。
その人件費予算の裏付けがスポンサー収入の増によるものだったことは容易に理解できます。

2016年度トップチーム人件費(2014・2015年度対比)

降格を許し弱体化したチームですが、更に選手が大量流失したのでは、一からチームを作り上げることになります。その意味で人件費確保にまず注力したことは大きかったと言えます。

3 周到に準備された計画

(1)降格シミュレーションと財源確保

初めてのJ2降格にあって、収益面での後退、選手の流失など多くの困難な課題に向き合わねばなりません。
左伴社長は、万一に備え、2015年7月頃から降格時の財政シミュレーションを着手していたとのことです。
その万一が現実となったのは非常に残念でしたが、そのシミュレーションで弾き出された数字をもとに、財源確保や施策展開に速やかに動き出します。

その最大のものは、親会社の鈴与から通常スポンサー料の「2倍に相当する8億円※1」の支援を受ける約束を取り付けました。
それを足掛かりに既存パートナーから支援継続、更に何社もの増額支援を受けることに成功します。IAI社がこの年にユニフォームの背中スポンサー(1億円台のトップパートナー※2)になってくれたことが一つの象徴と言えるでしょう。
この財源の裏付けをもって選手の交渉に臨み、大きな流出を防ぐことに成功したと言えるでしょう。

また、シーズン終盤では「J1復帰祈願協賛」として42もの企業が追加支援の手を差し伸べてくれています。
その協賛各社のバナーがピッチに展開される初の光景を見て、熱いものを感じたものでした。

2016年10月 「J1復帰祈願協賛」の各社のバナーがピッチに展開される

(2)小林監督の招聘

財政的なことではありませんが、監督人事について触れておかないわけには行きません。昇格達成のためには監督人事は超重要事項であるのは言うまでもありません。

左伴社長は、監督就任後2年以内にJ1昇格経験のあることなどの選定基準を設定して人選を進めていました。そこに徳島の監督をしていた小林伸二氏の契約満了リリースを聞きつけ、現地へ赴き口説き落とすという速攻を繰り出したのでした。その小林監督が昇格に導いてくれたのでした。

左伴社長と強化部のその確かな見立てと俊敏なフットワークがなければ、昇格は成せなったというのも過言ではないと思います。

(3)社長の情熱と覚悟

降格時の財政シミュレーションに始まり、鈴与への増額支援の要請、他のパートナーの支援継続、選手の繋ぎ止め、小林監督の招聘などの昇格に必要な様々な施策が成功したのも、左伴社長の「情熱と覚悟」があってのことだと私は思います。
その想いが伝わらねば、これらの関係する人達が動いてくれなかっただろうと思います。

サポーターを含めてステイクホルダーの心を掴み、皆を前に向かせた起点となったと私が確信している出来事があります。
それは、2015年10月17日の降格が確定的になった仙台戦終了後のこと。左伴社長がゴール裏へ一人歩み出て、サポーターに謝罪と覚悟を表明した28分ものスピーチだったと思います。

あの真摯な姿なくして、皆が前を向いて一つにはなれなかったと思います。

4 まとめ

▶左伴社長の機転で作成した降格時財政シミュレーションを基に1年での帰還のための施策を速やかに展開
▶鈴与からの倍増支援を足掛かりにし、降格に関わらず増額支援を提示するなど、パートナー企業の強力な支援を獲得
▶パートナー企業の強力支援でトップチーム人件費の前年度レベルを維し、戦力維持に成功
▶電撃交渉で昇格請負人と称された小林伸二氏を監督招聘に成功
▶それらを含む諸々の施策展開の結果、1年でのJ1昇格を果たす

次回は、左伴社長時代の2016年度から2019年度の全体をフォーカスします。

※1 鈴与のスポンサー料の額は、サポーターズミーティング議事録より
※2IAIのスポンサー料の額は、2024年1月13日「エスパルスを絶対J1に戻そう」での石田社長の説明より


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