グループホームの朝


早番の朝、まだ眠たい目を擦りながらホームに着き、
「おはようございます」と挨拶をして
事務所に入りエプロンを着ていると、

「ちょっとあんた!!」

物凄い形相をした利用者のYさんが私に訴えかけてきた。
「おはようございます、Yさんどうされました?」
「私の眼鏡がない!!誰かに盗られたわ!!」
「それは大変!手があいたら一緒に探しましょうね」
と言って一旦自分の仕事に戻る。

グループホームで誰かに何かを盗まれたなんてことがあったら大事件!
しかしこの騒動、認知症の症状のひとつなのです。
実際にこの利用者のYさん、3日に1回は
「誰かに盗られた!!」と大騒ぎ。
職員が探すと大抵クローゼットかタンスの奥深くから出てくるものです。

早番の仕事を初めて30分後、
利用者のYさんが、
「ちょっと!!どこを探してもない!やっぱり盗られたんだわ~」
「うーん、クローゼットの奥深くにないですか?よーく探してみてください」

60分後、
眼鏡をかけたYさんが、
「ねぇ!!私の鉢植えがないんだけど!!」
「あれ、Yさん眼鏡ありましたね!
え、鉢植え?いつも窓際に置いてあるんだけどなぁ...」

私が勤めているグループホームでは、朝は9人の利用者さんを夜勤と早番の2人体制でみなければいけません。

夜勤は利用者さんの口腔ケア(歯みがき)を行い、
早番は掃除や食器洗いを利用者さんと一緒に行います。
ここでYさんの探し物を手伝ってしまうと、その後の食事作りが間に合わなくなってしまいます。
なるべくなら本人に見つけてもらえると助かるのですが...

と思いながら、Yさんのお部屋を除くと、
なんと、部屋中が土まみれ...

「ちょっとー!Yさん何ですかこれー!!」
「誰かが鉢植えをクローゼットの中に入れてたのよ!
もー頭にきちゃう!!」

これも先程と同様、認知症の症状です。
Yさんは、大切なもの、失くしたくないものをクローゼットやタンスの奥にしまい、しまったことを忘れてしまうのです。
ここで、Yさんに正直に話しても怒りが増すばかりで何の解決にもなりません。
なので私たち職員はまず受け入れることから始めます。

「そうなんですね、それは大変なことをされましたね。
よし、じゃあこれからは職員みんなでYさんのお部屋に誰も入らないよう、見張っておきますね!とりあえずこれ、お願いします。」
とほうきとちりとりを渡す。
「はいはい。」
とYさんは手際よく掃除をしていました。

その後、
「ちょっと、ぞうきんか何かない?」と聞いてくるYさん。
「ありますよー!」
と、いつも使っているモップを渡し、
返ってきたモップは真っ黒、
Yさんのお部屋の床はピカピカになっていました。

「はー、もう疲れちゃった。」
「いい運動になりましたね♪」

80代半ばのYさん、今日も朝から元気いっぱいです。

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