さるかに合戦

さるかに合戦
        デイサービス 生活相談員


私が幼い頃、祖母がよく絵本を読み聞かせてくれた。
その中でもお気に入りだったのが、日本昔話の『さるかに合戦』である。
カニにいたずらしたサルを、みんなで改心させるという話だ。
正義と悪に着目した話の内容は子供にもわかりやすく、その白黒のつけ方が好きであった。

そんな話を懐かしく思い出したのは、大人になってからである。白黒はっきりつけることが出来る物事というのは意外と多くない。
それは私が最近、認知症と診断された方と関わるようになったことで一層感じるようになった。
認知症の診断をされている方は、それぞれがもつ世界がある。その関わりにおいて、正解はなく、全てが様々なのである。落ち着いて過ごして頂く為には、偽りの話をしなければならないこともある。食事を終えてすぐに「ご飯はまだか」と言われれば、「さっき食べた」だけでなく、「もう少ししたら食事になるから待っててね」と言わなければならないこともあるのだ。
私自身、嘘は悪いこと、騙すのはわるいことと習ってきた私がすぐに受け入れられない部分と関わりを持たなければならないことに葛藤を抱いたりもしている。
何が正解なのかはまだわからない。福祉専門職であってもこんなものだ。それでも、この時代の大きな課題の一つ、認知症を考えることだけは続けていきたいと思えるのは、オレンジの絆みずなみでの経験が活かされているからだと思う。
現代版さるかに合戦があればその内容は昔とは違うかもしれないが、それでも幸せな結末であることに変わりはないような関わり方が出来ればと考えている。

                                      完

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