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オランダでビールを飲みながら。「障害者とポジティヴヘルス〜健康的に生きる、働く〜」

障害を持った人がどう健康的に生きるか。
2018年6月のオランダ視察の中で、いくつかのいわゆる就労施設(主に飲食店)を訪れた。視察、ではなく食事に行った感じ。


総じて言えることは、キャストの誰が障害者で誰がそうでないか、はあんまりよくわからないということだ。
現地の方は笑いながら、オランダはもともとサービスのレベルが高くないから、なんて言うけれど、それだけではないのは明らかだ。

なんと言うと良いか……
雰囲気がいい、皆がそこに“いる”価値を大切にしている……
そんな綺麗な言葉で、優しい障害者施設を語ることはできるのだけれど、そうではない。

そんなんじゃないんだよなー

うーん、つまり、ビール工場&レストランの“DePrael”で言えば、
ビールが美味しいことだ。食べ物も美味しい。平日だと言うのに満席だ。

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DePraelを立ち上げた精神科看護師のArno Kooy(写真奥)は言う。
働いてない時は、自分と病気のことだけを考えている。
誰かに会うと、友人について、ビールについて、女性について、話すようになる。
満員の客がいて、感謝の言葉をもらうようになると、ポジティヴな気持ちが増えていく。自分を認められるようになるんだ、と。

障害者を雇用する施設ですよ、と言われたからそんな目で見ちゃうけど
そんなことはどうでもいい、どうでもよかった。

美味しいビールを出す店で働いている。美味しいご飯も人気だ。忙しいがお客さんが喜んでくれると嬉しい。
仲間も楽しい。そこで働くことは忙しいけどやりがいがある、誇りがある。
できればここでずっと働きたいと思う、この街で暮らし続けたいと思う。
時々は嫌になったり、やめようと思ったり、引っ越したくもなるけど。

この視察、ではなく、食事を終えて、iPhoneの写真を振り返ると、そこに写っているのは
働いている障害者、ではなく、美味しそうにご飯を食べてビールを飲む私たちばかりだった。
主語が入れ替わっていた。
「障害者が、働く」ではなく「私たちが、飲む」を体験しにきたのだ。

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実は、2017年のオランダ視察の時、こよなくビールを愛する私たちは、限られた視察の合間にアムステルダムでビール巡りをした。
半日で5件のビアホールを飲み歩く極めてハッピーなビアツアー。なんとその時にこのDePraelに行っていたのだ。
美味しい、美味しい、とたくさんビールを飲んだ。
その時は、精神障害や発達障害を持つ人が多く働いている場所だなんて知らずに。そして気づかずに。
彼らは、間違いなく、9000km以上離れたところから訪れたビール好きの旅人をとことん幸せにしていた。

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実は1年前に「美味いビールを飲む」という想いだけで訪れていた時の写真。視察、と構えてないぶん、さらに美味かったかも。


人を幸せにする力を持つこと。それは、診断を受けることや薬を飲み続けることよりも価値があるし、それは、できる。
「できない」と決めつけようとする人(医療専門家)に出会わないことが大切なのかもしれない。

僕は、医者であるばっかりに、彼らの病気や障害が何かな、と頭をよぎることがあった。とても残念だ。
でも、これからは、僕がポジティヴドクターになれば、彼のハッピーはなんだろう、
そのために彼は何をすることを選ぶのだろう、僕には何ができるだろう。と考えることができる。とてもハッピーだ。
医者になってよかったともう一度思える気がする。

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ビールにコロッケ。オランダはこれ!


一方で、Kooyは強い口調で言った
できることと、したいことは違う。したいからなんでもできるわけじゃない。
それを思い知ることも、仕事では大切だ。
あたりまえの厳しさがあった。
けれども、働くあたりまえ、仲間を持つあたりまえ、やりがいを感じるあたりまえ、人を幸せにするあたりまえ、が揃っているからこそ
この厳しいあたりまえも、医療者側の言い訳としてではなく存在できるのだと感じた。

医療福祉側の言い訳として、この厳しいあたりまえのみが存在する場所を嫌になる程見てきたことも思い出しかけたが
エールビール、特にホップの苦味とアルコールのバランスがすばらしいIPAを3杯も飲んだおかげで、
ほろ酔いで幸せな気分でアムステルダムを後にすることができた。


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DE PRAEL
https://www.deprael.nl

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