見出し画像

【読書感想文】陰翳礼讃

要は、近代化が進む日本において、昔の方が良かったみたいな話で、昨今だと、「老害」みたいに揶揄されかねない。が、その老害っぷりの緻密な文章が彼の表現力の高さを表している。

西洋のライトが日本家屋にもどんどん導入され出して、夜ですら部屋の暗がりは無くなった時代を谷崎は生きていた。そこから更に近代化/西洋化が進んだ現代において、我々は確かに夜でも日中と同じように仕事したり、家事したりできている。我々はその利便性を謳歌している。
だが、同時に失ったものがありそうだ。
覚束ない蝋燭の灯りのもとでの漆器の蒔絵の美しさや、障子からうっすら溢れる日光の美しさなど、柔らかく優しい翳りを持った美。それは全てを明らかにする潔い西洋的な美しさとは異なる。現代に生きる我々もそういう翳りのある美しさを大事にすべきではないかと思う。「老害」という言葉を使って、何でもかんでも古いものを切り捨てるのではなく、ちゃんと良いものは良いとすること。そういう強さを保つべきだと感じる。

「恋愛および色情」の章が一番良かった。
色気は英語で表現しづらい。それは色気は夜、翳りに結びつくもので、それを表現できる言葉を持ち合わせていないのである。
恋愛が芸術においての主題であった西洋と比べ、茶道では恋愛のテーマは禁じていた。テーマとしてはもともとあったが、隠していたり、ひっそりと楽しむようなものとしていた。それが西洋化に連れて、明るみに出てきたと。
艶やかで、色気のある女性、見られるというより暗がりで触れる女性の美しさ。そういった翳りと女が密接に繋がっていた。その美しさは今でも多くの人が共感できるだろう。

90年前ほどに書かれたものだが、彼の価値観に触れて、近いものを感じるものも多い。人とあまり話したくなくなってきて、居留守を使ったり、大阪から奈良に各停列車に乗って、悠久の時を楽しむことをオススメしていたり、共感できる部分もあり、彼の有名な文豪と時を超えて、繋がれるというのは大変に素晴らしい経験だった。また、どうも昨今は言語化やわかりやすさみたいなのが過剰に持ち上げられているように思う。言語化できないもの、暗がり、翳りのようなものを大切にしようと思った。そこにこそ、我々の忘れてはいけないものが在るように思う。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?