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藤原ちからの欧州滞在記2024 Day 24

月曜日。ホテルをチェックアウト。重い荷物を引きずって歩いていくと、ちょうど10番のトラムが来たので飛び乗る。10番のトラムはトラディショナルな車体ということもあって去年は宣材写真を撮ったのだった。そうだ、完成した冒険の書と一緒に写真を撮っておこう、とかしているうちに、すぐ3停留所ほどでガリバルディ駅に到着。慌てて降りたところで鉄道会社ATMの職員たち4人に囲まれ、切符を拝見、といわれる。あ、しまったチケットをアクティベートしそびれていた……。ATMはアプリがあって、駅やタバコ屋で買う代わりに、オンラインでチケットを購入できる。それを見せると、過去の購入履歴をチェックされ、パスポートを見せてくれ、と言われる。簡単な尋問の後、4人が高速のイタリア語で何か話している。対応を協議しているようだ。わたしたちは神妙な面持ちで判決が下るのを待つ。ひとりが、たぶん今回ミラノで聞いた中では最も整然とした、書かれた台詞のような英語でその判決を言い渡す。いいですか、あなたのホームではどうだか知りませんが、ここミラノでは、トラムに乗る前にチケットをアクティベートしなければならないのです、それに違反した場合、あなたは42ユーロと50セントのペナルティを支払わなくてはいけない、そしてあなたも42ユーロと50セントのペナルティを支払わなくてはいけない、これは規則です、今回は見逃しますが、次からは気をつけてください。わたしたちが謝罪し、感謝の気持ちを伝えると、彼は最後に「ありがとう」と日本語で言った。

(※42.5だったと記憶してるけど41.5だったかもしれない。)

トラムでガリバルディ駅にアクセスする場合、階段を何度も上り下りしなくてはいけない。それはわかっていたのに、なぜまたこのルートを選んでしまったのだろうか……(バスで空港に行く手もある)。駅構内のバールでエスプレッソを飲んでひとやすみ。そしてマルペンサ空港行きの電車を待つ。朝の電車はどれも遅延しまくっていて、この空港行きの便は20分遅れた。わたしたちの目的地はターミナル2だったが、なぜかターミナル1でみんな降りる。他の乗客に聞いてみると、ここで乗り換えることに急遽なったみたいよ、と親切に教えてくれる。遅延の影響なのだろう。

マルペンサ空港のターミナル2は、ほぼ航空会社easyJet専用みたいになっている。チェックインはオンラインで済ませているから、あとは荷物の預け入れだけ。これもほぼ自動化されている。ミラノでもらった「冒険の書」10冊も含め、二人合計で29.9キロの荷物を預ける。航空券はスマホで見せる。手荷物検査のあと、甥っ子姪っ子に電話。彼らはもう時差という概念を理解していて、こちらが昼間であることは不思議がらないけど、なぜかこれから飛行機で大阪に行くのだと思い込んでいる。わたしたちはビルバオに向かうのだった。


ビルバオには2時間弱で到着。バスで市内に向かう。トンネルを抜けると、グッゲンハイム美術館。そこからが市街地だ。わたしたちの受け入れ先であるAzkuna Zentroaへ向かう。美術館や劇場や図書館やプールが併設された複合施設。わたしたちのプロジェクトの担当をしてくれるマリーナに再会。演劇クエストの滞在制作について少し話す。先週彼らはミーティングをしたらしく、演劇クエストをサン・フランシスコ地区だけでなくもっと広範囲でやるのがいいんじゃないかと話したという。大きな理由はふたつあって、ひとつはこの地区ではすでに様々なアートプロジェクトが為されているから、とのことで、その話は去年の時点ですでに聞いていた。もうひとつは最近同地区で移民と警察のあいだで緊張が高まっているからとのことだった。さてどうしたものかな。わたしとしては今回あまり広範囲にしたいとは思っていなくて、エリアを絞って深く掘り下げたい気持ちがある。まあ、あらためて歩いてみてからかな……。

滞在先は、そのサン・フランシスコ地区にある。橋を渡ると、がらりと雰囲気が変わって、明らかに移民街になる。宿泊先の前は広場になっていて、なるほど、警察官たちが移民たちに尋問しているようだ。毎日こうなのよ、とマリーナ。彼女によると、いろんな考えがあるけど、わたしはこの地区で嫌な目に遭ったことがないし、この地区で起きている暴力、つまり貧困や差別について、こないだもデモをしたの、とのこと。

マリーナにおすすめしてもらった近所のアラブ系のレストランで、チキンとクスクス、それに魚を焼いた料理。安くて美味しくて、店員さんや他の客の雰囲気も良くて、初日からいいお店に出会えたな。量もかなり多いので、食べきれない分は持ち帰りさせてもらう。滞在中、ちょいちょい来ることになりそう。スーパーで買い物して帰宅。


部屋のバルコニーからは広場が一望できる。警察が、アフリカ系やアラブ系の人々を見張っている。時々、犬を連れた警官も見回りをしている。夜の10時過ぎまでそれは続く。バルはまだ賑わっているし、広場には小さな子供を連れた人たちもいる。深夜12時頃になると警官の姿は消えて、おそらくアフリカ系と思われる青年たちがチルしているだけだ。やがて、彼らの姿も消える。

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