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仮面ライダー555 20th パラダイス・リゲインド 感想

昨年1月、仮面ライダー555は20周年を迎えた。令和5年5月5日、555 ファイズの日に、20周年記念のVシネの公開が決定し、ファンが大いに湧いた。

筆者がファイズに出会ったのは数年前の話だが、その時から大好きな仮面ライダー作品の1つだったので、今回のVシネ公開決定の一報を聞いたときは本当に嬉しかった。

ファイズといえば、シリアスな展開と、どこか漂うほの暗さ、妙に現実感のある雰囲気だと思う。

映画冒頭のシーンから、テレビ本編第一話の不穏でおどろおどろしい雰囲気を思い出させる展開で、「自分は今ファイズを見てるんだ」と強く実感すると同時に、2024年の今この瞬間にファイズの新作をスクリーンで見ていることに感動している自分がいた。夢の続きは、確かにそこにあった。

少年少女から大人へ

スクリーンの中にいる巧や真理、海堂、草加は、あのときファイズの世界で生きていた人なのだが、間違いなく20年の時間の経過を感じさせられるキャラクターになっていた。それは、単純に演者の方々が20年分歳を重ねたということではなくて、それぞれのキャラが人として大人になっていたということ。

特に巧と真理のシーンが印象的だ。序盤、真理が姿を消す前の巧と最後に交わしたやりとり。

巧は自分の手から灰がこぼれ落ちるようになり、自らの死期が近いことを悟っていた。その後、彼は真理に「散歩に行く」と言う。その言葉を受け取った真理は、ただ事ではない、巧が自分の元を去ろうとしているということを悟っている様子で、真理はとっさに「なら私も行こうかな…」と話す。しかし、「散歩は1人で行くもんだ」と巧の方から断られてしまう。すると、「じゃあ、マヨネーズ買ってきて」と巧にお使いを頼んだのだ。

20年前の真理なら「なんで!?」とか、ついて行くことを断られても「えーー!私も行く!」と強引について行きそう。

だが、今の真理は違う。彼が今までと様子が違うことは気づいていて、出て行こうとしていることも勘付いているし、出て行ってほしくないと思っている。それでも、彼女は巧の思いを尊重し、本音を飲み込んで彼を引き留めなかった。

巧も20年の変化を感じさせる部分があった。巧は真理とは反対に、本音を全く言わない人だった。全てを飲み込み、背負ってしまおうとする人。そんな巧が、夜の学校のシーンで真理に対し、「俺を助けてくれ。」と言う。

これまで、巧が人前で弱音や本音を吐くところを見たことがなかったが、20年という時間が経ち、巧は人前で素直になれる人になったのだ。それと同時に、もう残された時間がわずかであるという焦りがあったのかもしれない。

あの草加だって、ずいぶん物わかりの良い大人になっていた。当時の草加なら、決して乾巧の肩を持つようなことは言わなかった。それなのに、巧がスマートブレインの尖兵として現れ、西洋洗濯舗菊池の面々に襲いかかってきた後も、「乾くんにも何か事情があるのかもしれない」「彼はそう簡単に折れる男じゃない」と語っていて、この変貌ぶりには本当に驚いた。何なら違和感すら覚えるくらいだ。この違和感がクライマックスに合点がいくようになるのも面白い。

こういった登場人物の変化を見ていると、彼らは地続きで20年間生きてきたのだと思わされる。テレビシリーズから今作までの間に描かれていない時間の中で、彼らは様々な人生経験を積み重ね、少年少女から大人になったのだ。

巧と真理

今作のミソは、真理がオルフェノクに覚醒することだ。そして、巧との関係性の変化も、かなり重要ポイントだと思う。

真理のオルフェノク覚醒には、乾巧に片思いをしているスマートブレインのオルフェノク殲滅隊隊長、胡桃玲菜が1枚噛んでいる。

真理には20年前の流星塾での一連の事件によってオルフェノクの記号が埋め込まれているが、1度も覚醒したことがなかった。

玲菜は巧に片思いをしているが、巧の心に真理がいることから、真理を排除するために彼女を拉致し、人為的にオルフェノクの記号を活性化させたのだ。

真理は自らがオルフェノクに覚醒したことに驚き、絶望した。「私はただ、人間でいたかった。」と思いを吐露する。

真理は失意のどん底に立たされ、1度は自ら命を絶とうとするところまで追い詰められる。しかし、オルフェノクになった彼女は簡単に死ぬことはできず、巧に助けられた。

真理はオルフェノクに覚醒したことに絶望し、巧は自分に残された時間がわずかしかなく、「もう自分は死んでいる」と言いながらも、心のどこかで「まだ生きていたい」と強く思っており、どうすることもできない現状に絶望していた。

そんな2人が結ばれたのは驚きもあったが、腑に落ちる展開だった。

巧と真理の関係は、今作の映画で変化したところもあるかもしれないが、精神的な強いつながりは今も昔も変わらないと思う。

田﨑監督が芳賀優里亜氏と2人で対談している動画でも語っていたが、巧と真理の関係性は、恋だの愛だのを超越した関係だと話しておられ、大きくうなずいた。

2人の関係は簡単な言葉で形容することができないのだ。

最後の戦い

クライマックス、草加や北崎の秘密が暴かれ、最後の戦いへ。

まさかアンドロイドだったとは。草加を学習したAIだからこそ、あんなに物わかりのいい人になっていたのではないだろうか。

また、ネクストファイズ、ネクストカイザ、ミューズという新たな戦士の活躍だけでなく、巧のピンチにいつだって駆けつけるみんな大好きオートバジンの活躍、啓太郎の甥である条太郎が届ける旧式のファイズギア。そして、ファイズの活躍。

「俺はやっぱり、こっちで行くぜ!」という台詞といつもの変身待機音。

justiΦ’sのイントロが流れたときは大感激。見たかった姿を全て見せてくれた。

真理が変身するワイルドキャットオルフェノクとファイズの共闘により、敵は撃破。2人の背後で大爆発が起こるのだが、このシーンを見ると、やはりファイズは2人の物語でもあるのだなと思う。

これからも続く彼らの日常

戦いを終え、平穏な日常は戻った。しかし、真理たちの置かれている状況に何ら変化はない。

スマートブレインの社長が変わっただけで、また新しい刺客が襲ってくることは容易に想像がつく。きっとそうなったら総力を上げて戦うのだろう。今度は巧も一緒に。

巧の「生命線がのびた」という台詞。気休めでしかないかもしれないけれど、死んだように生きていた彼が、彼らしく今を生きられるようになっただけでも本当に良かった。

何でも無い話をしながら食卓を囲む様子を見ていると、これからも彼らの人生は続いていくのだと思う。

自分はどう生きていけばいいのか、答えの出ない問いと向き合う中で、巧の語った「問い続けることこそが、答え」という言葉。

巧や真理はその言葉のように、答えを問い続けながら今を生きている。この世界のどこかで、海堂や条太郎、ケイといった仲間たちと共に。









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