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帝国主義とタワー・オブ・テラー1 

ディズニーシーの人気アトラクション、タワー・オブ・テラー
20世紀初頭のニューヨークの呪われたホテルを舞台に繰り広げられるストーリーにはファンも多い。

今回はタワー・オブ・テラーのコンセプト理解する上で重要な核である「帝国主義」との関係について見ていこう。

主役ハリソン・ハイタワー3世

タワー・オブ・テラー付近の新聞


まずは、物語の主人公であるハリソン・ハイタワー3世について。
実業家かつ資産家かつ冒険家であり、珍品コレクターである彼は物語の中で非常に横柄で傍若無人な人物として描かれる。

ハイタワー3世は19世紀末に今後の秘境で呪物「シリキ・ウトゥンドゥ」を入手する。
世にも珍しい呪物を自身の経営するホテルハイタワーでお披露目会を行ったその日の深夜にハイタワー3世の乗るエレベーターが落下し、彼の姿は失踪する。そこに残されていたのは呪物たるシリキ・ウトゥンドゥと彼の被る帽子のみだった。
と、いうのがタワー・オブ・テラーの筋書きである。

ここまでは一度アトラクションに乗ったことがあれば創造に容易いだろう。

今回のテーマたる帝国主義を握る鍵がハイタワー3世の人物像だ。

帝国主義について


帝国主義(Imperialism)
- 帝国主義とは、強大な国または国家がその影響力や支配領域を拡大し、他の国々や地域を経済的、政治的、文化的に支配または征服しようとする政策や実践のことである。
19世紀末から20世紀初頭にかけて、多くの欧米列強(特にイギリス、フランス、ドイツ、アメリカ、ロシアなど)が帝国主義的な拡張を行った。

帝国主義の代表者 セシル・ローズ

ケープタウンからカイロへ鉄道用の電線を敷設するローズ。
ローズの名前とロドス島の巨像を引っ掛けた同時代の諷刺画

セシル・ローズ(1853-1902)は19世紀から20世紀初頭にかけて活動した、イギリスの実業家、政治家、帝国主義者。彼は大英帝国の拡大と資源の獲得に大きな影響を与え、特に南アフリカにおける帝国の拡大に寄与した。

南部アフリカ(現在のジンバブエ、ザンビア、南アフリカなどの地域)における、ダイヤモンド鉱山と金鉱山の開発を促進、鉄道建設を支援し、この地域の豊富な天然資源をイギリスに供給した。

彼の名前にちなんで「ローデシア」(現在のジンバブエ)と名付けた地域の開発に大きく関与し、イギリス南部アフリカ会社(British South Africa Company)を設立して経済的な権益を築いた。


タワー・オブ・テラー入り口上部のステンドグラス

タワー・オブ・テラー入り口上部のステンドグラスには" The World is Mine OYSTER, Which I with Sword will Open."(世界は私の(牡蠣のような)もの、開かねば私の剣でこじ開けるまでだ)というシェイクスピア喜劇からの引用文が付されている。
陽が昇る時から沈むまで、世界は自分のものであるとでも言わんばかりのハイタワー3世のステンドグラスはかなり風刺が効いている。

帝国主義とオリエンタリズム

美術品の収集と帝国主義の象徴


帝国主義時代において、欧米列強は、アフリカ、アジア、アメリカなどの地域を植民地化し、その支配下に置いた。
このプロセスにおいて、美術品や文化財がしばしば略奪され、ヨーロッパの美術館や個人のコレクションに加えられることになった。
帝国主義国は美術品の収集を通じて、自国の文化的な優越性や帝国の富と権威を誇示した。美術品は国際的な競争の一部と見なされ、植民地からの収集は帝国主義の成功の象徴とされた。



タワー・オブ・テラー付近の新聞や待機列の壁画からはアフリカの部族など世界中の至る所からハイタワー3世が貴重な民芸品を強奪していたことが窺える。

ナポレオンのエジプト遠征

ダヴィッド『サン=ベルナール峠を越えるボナパルト』 1801

帝国主義の拡大によってヨーロッパに美術品がもたらされた史実上の最も有名な事例がナポレオンのエジプト遠征だ。
ナポレオンは1798年に当時フランスと敵対していたイギリスに対抗するためにエジプト遠征を率いた。
この遠征は政治的な目的のみならず、科学的な調査や文化的な探求も含まれていた。このエジプト遠征隊には多くの美術家、考古学者、科学者が含まれ、エジプトの古代遺跡や芸術品について詳細な記録が残された。

ルーヴル美術館の収蔵拡大


ナポレオンは征服した国々から美術品を略奪し、フランスに持ち帰った。これにより、ルーヴル美術館の収蔵品は大幅に増加し、世界有数の美術館としての地位を確立した。多くの有名な絵画や彫刻がこの時期にルーヴルに収蔵された。

ロゼッタ=ストーンの発見


reference:© Hans Hillewaert

ナポレオンのエジプト遠征の結果、考古学上最も重要な発見の一つであるロゼッタ=ストーンの発見が成された。

上部にはエジプトのヒエログリフ、中部にはデモティック文字、下部にはギリシャ語で同じ文章が刻まれているこの石碑は、その後の言語学や考古学に多大な影響をもたらしただけではなく、オリエンタリズムを加速させた。
その後、ロゼッタストーンはイギリスへ移され、今日では大英博物館でその姿を見ることができる。

オリエンタリズム(Orientalism)

ウジェーヌ・ドラクロワ『アルジェの女達』1834


オリエンタリズムは、主に西洋文化圏における東洋(特に中東やアジア)に対する研究とイメージのことである。
この概念は、西洋の学者や芸術家が東洋に対するイメージやステレオタイプを形成し、研究し、表現する傾向を表現している
オリエンタリズムの起源は、18世紀から19世紀にかけてのヨーロッパに遡り、東洋に対するロマンティックな魅力や異国情緒的なイメージが広まった。
帝国主義とオリエンタリズムは、欧米列強が植民地支配を行う過程で相互に影響し合った。
オリエンタリズムは、支配された地域や民族に対する知識と理解を形成し、その地域における帝国主義の支配を合理化した。
帝国主義とオリエンタリズムの相互作用は、西洋とその支配地域との関係において複雑な影響を及ぼし、後の歴史と文化にも影響を与えた。

美術品の保護と維持

一方で、一部の帝国主義者や美術愛好家は美術品の保護と維持にも尽力した。彼らは美術品の価値を理解し、文化的な遺産を保存する努力を行った。これは、美術蒐集品が失われることなく、後代に伝えられる重要性を強調したものであった。

世界を手中に入れ、美術品の収集を行うハイタワー3世の人物像はまさに19世紀〜20世紀にかけての近代帝国主義者そのものと言えるだろう。

新大国アメリカの勃興

ジョン・ロックフェラー(1839 -1937)

金ぴか時代(Gilded Age)という言葉に表されるように、アメリカは南北戦争終結後の19世紀中頃から産業革命の煽りを受け急速な経済発展を遂げる。
また、大陸横断鉄道や鉱山開発など巨大インフラが整備された時代でもある。
その過程で生まれたのが今日に至るまで世界中に影響力を持つ巨大資本家の存在だ。
その結果として、ジョン・ロックフェラー(1839 -1937)やアンドリュー・カーネギー(1835-1919)、マイアー・グッゲンハイム(1828-1905)など実業家が数多生まれた。
ハイタワー3世はアメリカ屈指の富豪として描かれ、こうした実業家たちの影響は色濃いだろう。

その他蒐集家としてのハイタワー3世の人物像に関与していそうな人物

チェスター・ビーティー卿


チェスター・ビーティ(1875 – 1968)卿は、20世紀初頭のアメリカ合衆国とアイルランドの間で重要な役割を果たした実業家および美術コレクター。
チェスター・ビーティ卿は1875年にアメリカ合衆国で生まれ、石油産業や鉄道業界で成功し財を成した。
彼は美術、特に書物や古典的な手稿に強い興味を示し、多岐にわたる美術コレクションを形成し、特に中世の写本や東洋の美術品に焦点が当てられた。コレクションには、多くの貴重な美術品や歴史的な文書が含まれ、アメリカからアイルランドにコレクションを寄贈しダブリンにあるチェスター・ビティ図書館として設立した。
この図書館は、一般の人々に美術と文化に触れる機会を提供し、アイルランド国内外の訪問者に人気のある観光スポットとなっている。
彼の慈善的な寄贈と文化への貢献に対してアイルランドで「卿」”Lord ”の称号を授与される。彼は「チェスター・ビーティ卿」(Lord Chester Beatty)として知られるようになった。

ゲイヤー・アンダーソン少佐

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ゲイヤー・アンダーソン(1881 – 1945)は、イギリスの軍人、エジプト学者だ。
軍人として第一次世界大戦を経験。エジプトに移住し、エジプト政府でさまざまな職に就いた。
特に、カイロのエジプト考古学博物館の監督を務めた。この経験はエジプト学の知識を深める要因となった。

エジプトの歴史、考古学、美術、文化に関する研究を行い、多くの論文や著書を執筆した。その研究はエジプト学の分野で高く評価された。

特に、彼が私財を投じて復元した「アンダーソンの猫」で有名。

彼は、カイロにあるシェヒ・ゼイナブ宮殿を購入し、修復・再生した。この宮殿は彼と彼の兄弟の邸宅として使用され、現在では「ゲイヤー・アンダーソンの邸宅」として一般に公開され、美術品やコレクションが展示されている。

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