見出し画像

「価値」に触れる

今、あなたの手元に100枚の写真があるとしましょう。

100枚の写真は、全てあなたの生い立ちの写真です。
親が、兄弟が、友人が、恋人が....、そして、
あなた自身が、思い出に残したい瞬間を切り取ったものばかり。

そんな写真が、あなたの手元に100枚揃っている...とします。

その写真を1枚いち枚、手に取って...、
懐かしんだり、嬉しくなったり、悲しくなったり、
思い出せない記憶にぶつかったり...。
そんな体験をしています。
アナログの写真だからこそ、味わえる感触ですね。

--- ここからは、ちょっと酷な話です。

その写真を前に、こんな課題が出されました。
この課題は、「イヤ!」とは言えない課題です。

①100枚のうち、手元に残せるのは20枚だけ。
②選択する時間は2時間。
③残り80枚は全て焼却する。

ちょっと酷な話ですが、そんな課題が出されたとしましょう。

あなたは、100枚の写真を何度も何度も..、見返します。
あんなこともあった、こんなこともあった...と。
そうこうしているうちに、あっという間に時間が過ぎてしまいました。

さて、あなたの手元に残った20枚は、どんな写真ですか?

自分が写っているものですか?
両親の写真でしょうか?
兄弟の写真?
お子さんの?
昔の恋人とか?
妻や夫の?
親友の?
あるいは....?

手元に残す写真は、人それぞれです。

この課題が示すことは、「情報の量」ではなく、
「情報の質」、つまり価値です。
あなたが手元に残した20枚に込められた価値。

これは、あなたにとっての価値であって、
他の誰かと比べることができないものです。
比べようとすること自体あり得ないことです。
あなたが「大切だ」と感じること、
そのことに価値があるのですね。

ここから次の話題に入ります。

あなたの面接では、
利用者が「大切だ」と感じていること、
つまり利用者の「価値」に、
きちんと触れることができているでしょうか?

しばしば、「傾聴」とか「聞く」とか「聴く」
という言葉が登場します。
しかし、「言葉の向こう側にある「価値」に
触れることができなければ、
これらは、何の意味も持ちません。

「価値(大切なこと)」は、
言葉で表現することが非常に難しいことです。
だから、「価値」を言葉で表現するとも難しい。
「20枚の写真」だけを見ただけで、
価値を判断することは、不可能といえるでしょうる。

写真に映し出されている出来事や、
それを語るときの表情や、
エピソードの文脈や、
聞き終えた後に残る印象や....

「言葉では表現できないもの」によって、
利用者が「大切にしていること」が
ジワ~っと伝わってくるのだと思います。

「ジワ~っ」と感じ取るためには、
支援者側の心の感受性を、
静めておく必要がありそうです。

例えて言えば、「凪のない湖面」。
心を静めていれば、
利用者のほんの少しの吐息さえ、
感じ取ることができる。

ちなみに、
将棋棋士の藤井聡太氏が「初手」を打つとき、
少しだけ間を置いているそうです。

この場面について記者が...
「あの時は何を考えているのか?」
「最初の一手を考えているのか?」
「打ち手を迷っているのか?」
...と尋ねました。

棋士は、「心が静まる瞬間を待っていました」と答えたそうです。

利用者の語りを前に...、
新人が「うんうん...」と軽~くうなずいているのと、
ベテラン支援者が黙って聴き入るのとでは、
「共感の深さ」が違います。

「20枚の写真を見せてもらえる支援者」
「深い共感ができる支援者」
そんな支援者になりたいと思います。

見立ての事例検討会で、
「心が動く感覚」を覚える方が毎回いらっしゃいます。
それは、心の深いレベルで何かが動いたから。
動いたことに気づける「心の状態」にあったからです。

そういう経験を重ねることが、
「感性を磨く」というトレーニングに繋がるのだと思います。


最後までお読みいただきありがとうございました。

冒頭の画像は、taketaketjさんのものをお借りしています。
ありがとうございます。