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【初コラボ記事】〈それいけ!クラシック〉がレオ・ヌッチさんに質問してみた

イケてるオペラ歌手✖️3=〈それいけ!クラシック〉

こんにちは、オペラ・キュレーターの井内美香です。皆さん、〈それいけ!クラシック〉を知っていますか?「クラシックって、超面白い!」を合言葉に、動画配信やコンサートを通じて、広く日本のクラシック音楽界を盛り上げていくための活動をしている3人の若きオペラ歌手ユニットです。

〈それいけ!クラシック〉の超面白くてためになるYouTubeチャンネルはこちら(構成・編集は瀬尾宙さん)。

それいけ!クラシックの3人

メンバーはそれぞれオペラやコンサートに活躍中の売れっ子歌手たち。上の写真の左から又吉秀樹(バリトン)、大川博(バリトン)、吉田連(テノール)の各氏。

今回、私が以前から知っていた又吉秀樹さんが、大のレオ・ヌッチ・ファンだということをSNSで知り、某音楽会でバッタリ会った又吉さんに、「〈それいけ!クラシック〉の皆さんからレオ・ヌッチさんに質問をしてみませんか?」とお聞きしたところ「ぜひ!」とのお返事が。


ヌッチさんには日本で活躍中の若き歌手たちからの質問ですとお伝えし、私からの電話インタビューにお答えいただきました。ヌッチさん、いつも以上に熱心に色々とお話しして下さいました。

その一問一答をここにご紹介いたします。ちなみに若手プロ歌手の皆さんからオペラ界のレジェンドへの質問なので、内容はかなり真面目です。でもオペラ・ファンにも面白い内容が多いと思います。さあ、それでは早速いってみましょう!

〈それいけ!クラシック〉がレオ・ヌッチさんに聞いた9つの質問


質問する人:〈それいけ!クラシック〉さん
答える人:レオ・ヌッチさん


それクラ
:世界中の歌手がヌッチさんのような歌手を目指して勉強しています。常に向上できる歌手になるにはどのような意識が必要でしょうか

ヌッチ:私にとっては歌は真面目な勉強であり、心からの喜びでした。成功したい、名声を得たい、と思ったことはありません。この歳になってもまだ勉強を続けています。出来る限り良い歌を歌いたいから。生まれ持った才能は必要だけれど、それを判断するのは自分ではなく他の人々。自分にできることは勉強すること、それだけなんです。困難はもちろんあったけれど、自分のしている事への愛と喜びがそれに優ったのです。

それクラ:大事にしているジンクスはありますか?

ヌッチ:私は縁起をかつぐほうではないからステージに出る前の儀式などはありません。唯一必ずするのは、楽屋に両親の写真を置くことです。東京で歌う時もいつも楽屋に飾っています。それはジンクスというよりは、両親への愛と、感謝の気持ちからなんです。

それクラ:声を保つための筋トレや運動はありますか?

ヌッチ:声と筋力を保つためには、毎日必ず発声練習をします。特別な練習ではありませんが。ご存知のように私は自転車に乗るので、健康を保つために役に立っています。冬場は乗りませんが、春から10月か11月ごろまでは毎日のように乗っています。自転車といってもスポーツタイプのもので、私は何キロ、何十キロもの距離を走るんです。それを長年続けてきました。自転車が好きだし、身体にもいいですから!

それクラ:ライバルだと思っていたバリトン歌手や憧れのバリトン歌手はいますか?

ヌッチ:ライバルはいなかったですね。他の歌手への嫉妬もありません。アルド・プロッティやピエロ・カップッチッリとは親しい友人でした。彼らに嫉妬したことはなく、良い友人、良い同僚という関係でした。もちろん私にも人の好き嫌いはありますが…。反対に、私のことをライバル視している人はいたかもしれません。だってイタリアでもアメリカでも、私があるエージェントと仕事を始めると、何人もの有名なバリトンがそのエージェントと仕事を始める、ということがあったのです。もしかすると彼らは私をライバル視していたかもしれないです(笑)。

私がとても好きだったバリトンはジーノ・ベーキです。私が若い頃、彼の出演した映画がいくつもありました。私は15歳の時に自宅で、ベーキが得意としていた「森の中の道(La strada nel bosco)」という歌を歌っていたところ、窓の外を歩いていた声楽の教師をしていた人物がそれを聞き興味を持ったのが、私が歌の道に入ったきっかけなのです。初めの頃、私はテノールでした。1967年に私がスポレート音楽祭の《セビーリャの理髪師》でオペラ・デビューしたときにベーキが楽屋に訪ねて来てくれました。それは大切な思い出です。


それクラ:歌う時の特徴的な口の形はいつごろ、どのようにして見つけましたか?

ヌッチ:口の形ですか? 上唇を下に伸ばして歯を覆うのは、声を前に飛ばすためです。口を開けすぎて歌いたくないのです。口を開けすぎた音は頭の中に残り、舞台上に残ってしまいます。我々の声を聴くべきなのは、チケットを買って劇場に来ているお客さんであって、舞台上にいる人間ではありませんから。

オペラにおいては前方に向けて音を作らねばなりません。例えばフランク・シナトラがあのように歌が上手くて正しい発声なのは、シナトラがオペラの声楽教師について歌を習っていたからなのです。あまり知られていない事実ですが。だから声が前に出る歌い方が出来るのですよ。昔はマイクがなかったので、演劇の俳優も名優は皆、この発声を身につけていました。今は演劇はマイクを使うようになって発声も変わってしまいましたが…。

上唇で前歯を覆うのは、音をマスケラ(マスクのイタリア語。顔面のよく響く場所)に送るためです。上の前歯を剥き出しにしてしまうと音は届きません。これは筋肉に関することで難しい話ですが。そのような歌い方をする人も多いです。私が深く愛する歌手で友人でもあったジュゼッペ・ディ・ステーファノは、誰にも真似できない素晴らしい歌を歌いましたが、40代でもう歌えなくなっていました。完全に口を開けて歌っていましたから。ディ・ステーファノのフレージングはもちろんたぐい稀なものです。ここで話しているのは発声のことです。

それクラ:声種性別関係ないとしたら、やってみたい役は何ですか?

ヌッチ:《ラ・トラヴィアータ(椿姫)》のヴィオレッタです。素晴らしい女性なので。現代的で、自由な考え方を持っている女性です。モデルとなったアルフォンシーヌ・プレシの人生を反映しているのです。15歳の時には何の教育も受けていなかった彼女が、18歳では教養のある女性になって、著名人たちと社交をするまでになったのですから。

ヴィオレッタは愛のために自己を犠牲にしますが、特別な女性、本当に素晴らしい女性です。この役を歌う歌手は多くの場合、歌に集中する事が多すぎて、ヴィオレッタという役を演じること、この役について考えることがおろそかになっていると感じています。

オペラ全体が本当に美しく、真実味があり、洗練されているのですが、ジェルモンとの二重唱の場面は、これ以上良く書けた劇は無いのではと思います。美しい旋律、美しい音楽は他にもあるでしょうが、演劇的に、ドラマツルギーとして見た時に、ジェルモンとヴィオレッタの二重唱はこのオペラの中の最も重要な場面ですし、全てのオペラの歴史の中でも最も重要な場面の一つだと思います。

ちなみに私がジェルモン役を初めて歌ったのは1974年のことでした。その後も、まだ若かった頃からジェルモン役は世界中で歌ってきました。かつらと化粧の助けを借りて、あとは演技力で父親役を歌っていたのです。

それクラ:今までで1番怖かった舞台での体験はなんですか?

ヌッチ:幸いなことに、個人的に舞台で怖い思いをしたことはありません。歌手が舞台から転落する事故などは残念ながらありうることで、同僚の歌手のそういう出来事を聞いたことはあります。危険は私たちの仕事の一部なのですね。

面白い事故としては、アレーナ・ディ・ヴェローナで《セビーリャの理髪師》に出演していた時のこと、指揮者がソプラノのアリアを忘れて次の曲に行ってしまったことがありました。仕方がないので私が舞台に出て行って「マエストロ、あの曲、やるんですか?やらないんですか?」と聞いてお客さんを笑わせてから、その曲を演奏したということがありました。こういう事故はある意味、楽しい事故ですね(笑)。

それクラ:今回日本に来る時に楽しみにしている食べ物はありますか?

ヌッチ:もちろんカルボナーラを食べたいですね、というのは冗談です(笑)。もう皆さん、私が寿司が大好きだというのはよくご存知でしょう。イタリアでも寿司を売っていますが、やはり日本とは違いますから。それから神戸牛です!

それクラ:日本の若い声楽家たちに一言をお願いいたします。

ヌッチ:すべての日本の若い人たちにお礼を言いたいです。イタリア・オペラに対する愛情を持ってくれていることに対して。個人的にも、大きな努力をしてとても良く勉強をしている若い方々を知っています。一人一人、持っている才能は違うけれど、音楽を、特にイタリア・オペラを愛してくれる若い歌手の皆さん、そして観客の方々にも心からお礼を言いたいです。

今回、私もできる限り体調を整えて最高のコンディションで来日し、若い日本の歌手の方々や、オペラ・ファンの皆さんとオペラへの愛を分かち合えるよう願っています。もうその日はすぐ近くに迫っていますからね。皆さんに私からの挨拶を伝えて下さい!


もうすぐ会える。ヌッチ、来日!
© Mirella Verile

【ヌッチ、来日】 イタリアの至宝レオ・ヌッチ、有終の美
2024年2月7日(水)18:30開演
東京オペラシティ
ジェイムズ・ヴォーン(pf)

2024年2月10日(土)14:00開演
サントリーホール
F・I・チャンパ指揮 東京フィルハーモニー交響楽団

詳しくはこちらへ 
 

〈それいけ!クラシック〉のコンサートが開催されます!


ヌッチさんへのQ&A、いかがでしたか?ヌッチさんの来日リサイタルは2月7日(水)と2月10日(土)ですが、何と!
〈それいけ!クラシック〉のコンサートが2月9日(金)にHakuju Hallで行われます。皆さん大丈夫です。日程は重なっていません!オペラ・ファンの皆さん、これはどちらも聴き逃せませんよ!!!

【コンサート情報】
それいけ!クラシックConcert シャカリキ!
【日時】
2024年2月9日(金) 18:30開演/18:00開場
【会場】
Hakuju Hall 全席自由

一般¥5,000/高校生以下¥1,000
<ゲスト出演>河原忠之 Pf.

2月9日(金)にHakuju Hallでコンサート「シャカリキ!」を開催!
ピアノは名手、河原忠之さん

予定プログラム:
第一部

  • オペラ「フィガロの結婚」序曲

  • オペレッタ「メリー・ウィドウ」より“女のマーチ”

  • アマリッリ

  • オラトリオ「メサイア」より"なぜ諸国民たちは互いに激怒するのか"

  • オペラ「イドメネオ」より"胸の内にある海は"

  • オペラ「マクベス」より"憐れみも誉れも愛も"

  • オペラ「ローエングリン」より"遥かなる遠い国に"

  • オペラ「死の都」より"私の憧れ、私の夢"

第二部

  • リビングルームミュージック

  • ピアノソロ

  • お祭りメドレー

チケットのお求めはこちらから。

最後まで読んでくださりありがとうございました。
それでは皆さん、会場でお会いしましょう!