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「サイクルシティ堺」に聞く!自転車がまちに根付いているからこそできるシェアサイクル拡大の秘訣

日本最大の仁徳天皇陵古墳をはじめとする百舌鳥古墳群があり、古くから鉄砲、刃物、自転車などの産業が有名な大阪府堺市。現在も高度な技術を持った自転車関連企業があり、国内唯一の自転車博物館である「シマノ自転車博物館」や国内最高峰の自転車レースである「ツアー・オブ・ジャパン」の堺ステージが開催されるなど、市民にとって自転車は身近な存在だそうです。自転車が根付いているまちのシェアサイクル事業について、堺市の豊島さん、増田さん、西田さん、堀さんに話を聞きました。


堺市は自転車産業のまち。行政内には自転車関連施策に取り組む専門部署も

ー 堺市は「サイクルシティ堺」と言われるほど、自転車関連の企業が多く存在していると伺いました!自転車を使っている人は多いのでしょうか?

さかいコミュニティサイクルの運営からシェアサイクルへの転換(実証実験の導入)を 担当した
豊島 宣さん

豊島さん:はい、堺市は鉄砲鍛冶の知恵と技術を受け継ぎ、「自転車産業のまち」としても知られています。自転車博物館やツアー・オブ・ジャパンの開催地など自転車に関する資源が豊富にあるんですよね。また、堺市は比較的坂が少なく平坦で、自転車で走るにはちょうど良いサイズのまち。市民にとって自転車は小さな頃から身近でよく使われています。 そのため、市民・事業者・行政が連携して、自転車を安心安全に楽しく利用することができる自転車の取組を進めています。

ー 堺市役所で自転車の取組を推進する部署があるのでしょうか?

豊島さん:堺市サイクルシティ推進部では、自転車に関する施策【つかう(利用促進)・まもる(安全利用)・とめる(駐輪環境)・はしる(通行環境)・つくる(都市魅力)】を総合的に担当しています。元々は部という組織ではなかったのですが、全国的に自転車の取り組みが盛り上がっていたこともあり、平成27年に部組織(当時は、自転車まちづくり部)となりました。

当時は行政内に自転車施策を総合的に扱う部署があったのはおそらく、全国的にも堺市ぐらいであり、その背景にあったのは、堺が世界に誇る古墳の築造で培った鉄の加工技術が脈々と引き継がれてできたことなど、歴史的に自転車のゆかりが深いことがありました。部組織として、恒久的に市は、自転車施策を取り組んでいこうという心意気でもありました。

シェアサイクルの先駆けとして「さかいコミュニティサイクル」を10年運営したからこそ見えた課題


ー 堺市では自転車の施策に力を入れていたんですね。その施策のひとつがシェアサイクルでしょうか?

豊島さん:シェアサイクルを始める前の2010年に自転車の利用促進の一環で、「さかいコミュニティサイクル」を開始しました。
 
自転車施策を進めていくうえで、基本となる「つかう」(利用促進)、「まもる」(安全利用)、「とめる」(駐輪環境)、「はしる」(通行環境)の4つの要素を柱とした「堺市自転車利用環境計画」を2013年に策定したのですが、その計画の後押しもあり、最終的に市内8カ所のサイクルポートを設置し、共用自転車も最大約700台でコミュニティサイクルを運用しました。運営開始当初は日本でコミュニティサイクルの事例も少なく、手探りで運営していた割には開始数年後には定期利用待ちの方がいるなどかなり好評でした。

さかいコミュニティサイクル


ー 2010年とだいぶ早くからコミュニティサイクルに取り組んでいたんですね!好評ということですが、課題はあったのでしょうか?

豊島さん:さかいコミュニティサイクルは、平日の利用では、通勤・通学での利用が圧倒的に多く、1日朝に自転車を借りて夕方に返す、その間はずっと借りっぱなしで利用する方が多く、レンタサイクルのような利用方法がメインであることが課題でした。本来であれば1台の自転車を1日何人かでシェアすることを想定していたのですが、想定通りにいかなかったです。また、システム運用やポート設置にかかる費用が大きく、利用できるエリアを広げたくてもできなかったのも課題でした。
 
ちょうどその課題に対して、どう対応していくかを考えている時期に関東でシェアサイクルが流行り出しているのを見て、1台の自転車を1日の中で複数回シェアしたり、展開エリアを広げたりすることができそうだ、ということで、さかいコミュニティサイクルからシェアサイクル「HELLO CYCLING」に転換できるのではと思い、いきなり本格実施ではなく、まずは実証実験に取り組み始めましたね。

観光、交通などさまざまな部門と連携しながら手探りで進めた実証実験

ー 行政が運営するコミュニティサイクルから、民間主導のシェアサイクルへの移行について、不安もあったのでは?
 
豊島さん:シェアサイクルを利用するときにスマートフォンでクレジットカード情報を入力するという部分がリスクで、スマホを持っていない高齢者は使いにくい、などと最初は厳しい声がありましたね。利用方法や、コミュニティサイクルと比較して料金が高いなど、個別の問い合わせも多かったです。今ほど”シェア”という文化が根付いていなかったことも大きいと思っています。
 
また、コミュニティサイクルは公がやっていたので我々に責任がありました。しかし、シェアサイクルは民間主導の事業。儲けが出ないと撤退されてしまうのではという不安もありました。

ー 初めは厳しい声もありつつ、2020年3月10日〜2022年9月30日まで実施した実証実験の結果はどうだったのでしょうか。

建設局 サイクルシティ推進部 自転車企画推進課 西田 浩彰さん

西田さん:実証実験当初は、堺市7区のうち堺区、北区に限定して行いました。21ポートからスタートして徐々にエリアとポート数を拡大しましたが、拡大するほど利用者も右肩上がりに伸びました。駅などの交通結節点を起点とした短距離移動が多く、シェアサイクルの認知度が上がればもっと多くの方に利用されるのではと考えていました。どこのポートでも借りられ、どこのポートでも返せるというシステムや、全てが電動アシスト自転車であることも利用促進に繋がったと思います。

ー エリアやポートの拡大はどのように進めたのでしょうか?

西田さん:先ほどお伝えしたことを背景に、堺市は自転車の利用促進を他市より積極的に行っています。「サイクルシティ堺」として、自転車はまちのアイデンティティのような位置付けですね。
 
そのため組織内でも、サイクルシティ推進部だけでなく、観光部などと連携してシェアサイクルの推進に取り組むことができました。
 
堺市内には歴史文化資源が多く点在していますが、バスや電車で巡ろうとすると待ち時間などもあり移動に時間がかかってしまいます。そこで、シェアサイクルで公共交通を補完できないかな、など部門横断的にシェアサイクルの活用方法を考え、ポート設置場所も相談しながら前進していきました。
 
また、さまざまな部門と連携していることから、設置候補の施設側との信頼関係を構築しやすく、文化、観光、スポーツ施設などにもポート設置がしやすい環境だったことも拡大要因の一つです。

散走マップ作成やツアー・オブ・ジャパンなど、「サイクルシティ堺」ならではの取組を展開

ー2022年10月からの本格実施から1年半ほど経つが、現在はどのように運用されていますか?

堺市建設局 サイクルシティ推進部 自転車企画推進課 増田 佳史さん

増田さん:実証実験では市役所、区役所、駅近くの駐輪場などの公有地を優先的に、ポートを設置していました。現在は、シェアサイクルを使って市内周遊を促進させたいという思いから、観光施設やおしゃれなカフェなどへのポート設置に注力しています。

また、観光地周遊にも有効的だと分かったため、ホテル協会へもシェアサイクルを提案したり、堺市と包括連携協定を結んでいる企業に声掛けをして、その企業の取引先の敷地内へポートを設置していただけないかという多角的なアプローチも行っています。

堺市役所のステーション

ー現在シェアサイクルはどういった利用が多いのでしょうか。

 堺市建設局 サイクルシティ推進部 自転車企画推進課 堀 佑香さん

堀さん:平日は朝と夕方の時間が多く、通勤や通学で使っていただいている方が多いと思います。土日も平日に引けを取らない利用者数で、買い物や観光で利用されていますね。堺東駅のポートの利用者が非常に多く、長時間利用されている方もいます。堺市役所の職員が通勤で利用しているという声も多く聞いています。
 
データを見ると、百舌鳥古墳群周辺で一時駐輪している方がいるのは面白いですね。古墳巡りにシェアサイクルを活用いただけていることが非常に嬉しいです。

市役所の窓から見えた古墳群
走行軌跡データを見る西田さんと堀さん

ー古墳の周辺に一時駐輪して観光する方がいらっしゃるんですね!シェアサイクルは細かな移動ができるところが便利ですよね。イベントなどでもシェアサイクルを活用する動きはありますか?

西田さん:大阪府がスポーツツーリズムを推進している関係もあり、堺市にゆかりのあるバレーボールチーム「日本製鉄堺ブレイザーズ」や大阪府と連携してシェアサイクルを使ったデジタルスタンプラリーを実施しました。

https://www.city.sakai.lg.jp/kurashi/doro/jitensha/76223920240312133135573.files/202403160317.pdf

また、堺市では散走(散歩するようにゆっくり自転車での観光を楽しむこと)を推進しています。散走する時に便利な周遊マップなども作っていますよ。

2023年5月の自転車月間では、UR都市機構様と連携して、南区のUR団地や公園でキッチンカーの出店やサイクルアートの実演、BMXパフォーマンスなどのイベントを実施したのですが、その際、実際に対面でシェアサイクルの使い方や利便性を説明した方が分かりやすいだろうと考え、シェアサイクルのブースを設けてパンフレット配布や住民への説明などを行いました。

また、今年5月に実施した国内最高峰の自転車レースである「ツアー・オブ・ジャパン」堺ステージでは、パネル設置とパンフレット配布でシェアサイクルの利用を呼び掛けましたね。

2024年5月に開催された「ツアー・オブ・ジャパン」でのブース

堺市にとってシェアサイクルは、日常に彩りを与えてくれる存在

ー堺市のシェアサイクル事業を運営してみて、どのような実感がありますか?

西田さん:シェアサイクルの活用で移動の利便性が高まっていると感じています。まさに目的地までのラストワンマイルを補完できている状態ですね。HELLO CYCLINGは全国共通同じアプリで利用ができるので、来訪者にも市内周遊を楽しんでもらえていると思います。

ー堺市にとってシェアサイクルはどんな存在ですか。

西田さん:「サイクルシティ堺」として自転車利用を促進する上で、シェアサイクルは移動手段として必要不可欠です。通勤・通学のほか、観光やちょっとしたお出かけなどで利用することで、日常に彩りを与えてくれる存在だと思いますね。
 
ーシェアサイクルの今後の展望、新たに取り組みたいこと

西田さん:これまで蓄積してきた移動データを分析して、より利便性の高いところにポートを設置していきたいです。堺市近隣の自治体もHELLO CYCLINGを導入しているので、自治体を越えて利用できることが強みだと考えています。自治体間でも連携して相互に往来をしていく動きができると良いですね。

また、2025年の万博を契機に、継続的に市内を周遊いただけるよう取り組んでいきたいです。周遊するためには、シェアサイクルもより大切な移動手段になるので、エリアを拡大して利便性の高いものをめざします。
 

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