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飛べない翼を広げて



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西谷夕。烏野高校の一年生。今は部活謹慎中で、毎日をどう過ごすか悩んでいた。その日も近所のおばちゃんチームに混じってバレーをしていた。彼は明るくて誰にでも好かれる性格で、どんな状況でも周りを楽しませる力を持っていた。

ある日、おばちゃんの一人が声をかけてきた。「そういえば、うちの息子もアンタと同じくらいの歳でね、バレーをやってたのよ。」

「そうなんですか?」西谷は興味を示した。

「ええ、中学までね。あたしらよりずっとうまくてさ。でも、中学でトラックにはねられて片足を失っちゃったのよ。今はもう部屋から出てこないの。人一倍頑張ってた子だったから、余計にショックだったんだと思うわ。」

西谷は黙り込み、考え込んだ。そして、決心したようにそのおばちゃんに頼み込んだ。「オレをその息子さんに会わせてください!バレーをまたやらせます!」

おばちゃんは西谷の真剣な表情に心を動かされ、息子のいる家を教えてくれた。それはおばちゃんが経営するコンビニの二階だった。

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「海って言うのか!いい名前だね!」西谷は明るく笑顔を見せた。「オレは夕って書いて、サンセットって意味だ!ガリガリくん二つください!みかん味とソーダ味!」

レジを打ちながらフクさんは笑った。「海、お客さんが来たよ!ガリガリくんもあるからね!」

ため息が聞こえ、ベッドから少年が起き上がった。「食べ物で釣るなよ...って誰だ?」

「烏野高校一年!千鳥山中出身、バレー部のリベロ、西谷夕だ!」

海はその言葉を聞いて、また布団に潜り込んだ。「バレーの誘いなら断るよ。もうやらないから。」

その後の会話も、海の無反応に終わった。西谷はそれでも諦めず、翌日も、その翌日も、海の家を訪れた。そしてついに、海は西谷の熱意に折れた。

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「分かったよ、やるよ。」海の言葉に、西谷は大きく笑った。彼らはおばちゃんチームのコートを借り、バレーの練習を始めた。海は義足でプレーすることに慣れていないため、最初はぎこちなかったが、徐々に感覚を取り戻していった。

「お前、本当にやる気あるのか?」海が息を切らして言った。

「あるに決まってるだろ!お前だって、バレーが好きなんだろ!」西谷は真剣な表情で返した。

海はその言葉に一瞬立ち止まり、次の瞬間、涙が溢れ出した。「…片足じゃ、もうエースにはなれないんだ…」

西谷は彼の肩を強く叩き、「んなことねぇよ!お前ができることを見つけろ!片足だってバレーはできる!パラリンピックだってあるんだ!」

海は驚いた顔で西谷を見つめ、やがて涙を拭った。「…ありがとう、夕。」

その時、後ろからおばちゃんの声が響いた。「まあ、どっちもどっちよね!今日も頑張ったから、お菓子奢ってあげるわ!」

「母ちゃん!」二人は声を揃えて叫んだ。

その日の練習は終わり、二人はコートを後にした。西谷と海の新しい友情は、彼らの未来に新たな希望の光をもたらした。バレーへの情熱は、再び二人をつなぎ、飛べない翼に力を与えたのだった。

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