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風を見た日。風とあそんだあの頃。

 こんにちは。
だいぶ暑い日が増えてきました。
いつもお越しくださり、ありがとうございます。

 今日の絵本は、お部屋に飾っておくだけでも爽やかな、夏らしい黄色い表紙の絵本「ジルベルトとかぜ」です。

 作者はアメリカの絵本作家、マリー・ホール・エッツ。
「もりのなか」や「わたしとあそんで」などは日本でもロングセラーの人気絵本ですよね。
エッツの特徴は、自身の幼少期の思い出をもとに絵本をつくっていること。


 風にあおられ今にも吹き飛ばされそうな帽子を賢明に押さえている愛らしい男の子。
この表紙の少年が主人公のジルベルトです。そして、姿はないけれどジルベルトの帽子を吹き飛ばそうとしている風も、ちゃんと登場しています。

 息子たちが幼いころ、こんなこと良くあったな…って思い出すことがあります。
風とたわむれる日々。

風の強い日に赤ちゃんをベビーカーに乗せて連れ歩いていると、「きゃーっ」と奇声を発することがあります。

何を見ているのかな?と不思議に思ってベビーカーをのぞくと…風なんだよね。
風が顔にあたるのが楽しくて、Maxの興奮状態になっちゃってる。 
おでこにかかった前髪をふわーっと持ち上げて、風が赤ちゃんをあやしてくれているみたい。
 風と遊ぶことが出来るのは子どもだけなのかも…と思うとちょっぴり寂しくなりますケド。 

 本のトビラをひらくと、
「ぼくは ジルベルト そして これは ぼくと かぜの おはなし」っていう短い文章と、意志の強さ、利発さを感じさせるキリっとした眼差しでこちらを見ているジルベルトくんの絵があります。ジルベルトは自分で作った凧を持ってる。


 ここでたぶん読者はハッとさせられる。
小さな体つきのジルベルトの瞳が、とても大人びて見えるから。 
このジルベルトの眼差しで、彼がどんな境遇で、何を考え、どんなことを話してくれるのか…わたしはものすごく知りたくなってしまいました。   

 さて内容です。 
4、5歳くらいの少年ジルベルトが、手に持った風船やシャボン玉、外に干された洗濯物、傘や木戸…風の抵抗を受けて動いたり形を変えたりするものの変化をやわらかな感性で受け止めます。
ジルベルトは、風を生きもののように捉えているの。 

 生きものである風は当然ながら感情を持っていて、いじわるもするし、優しくもしてくれる…想像もつかないほどの大きな存在の風にジルベルトは翻弄され、また、それでも立ち向かってゆく負けん気がなんとも愛らしい。
これは母親として子どもに読み聞かせていたわたしの感想で、たぶん子どもたちは違うのかも。
 
 「こんなふうに風とあそべる場所があっていいな」とか「こういうことぼく(わたし)もしてみたい」なんてジルベルトに心を添わせて聞いているんだろうな。 

 思い通りにならない友達のことってものすごく気になるでしょ?風はジルベルトにとってそういう存在なんです。

 傘を壊す、落ち葉を巻き上げて顔に吹き付ける、風船は木にひっかけちゃうしね。
でも、風は凧上げを手伝ってくれるし、りんごを落としてくれるし、紙の舟を水たまりで走らせてくれる。
ニクイけどやさしいんだ…。負けん気の強いジルベルトはそういう風に惹かれているんです。
 
 いつもながらの計算しつくされたエッツの絵はすばらしいです。
背景のモスグリーンと白と黒と茶…この4色で風の表情を描き分けていますからね。
ジルベルトの表情も豊かで、エッツのデッサン力に改めて感心させられます。

 実は、このジルベルトは実在の少年。
最初の夫を戦争で、二番目の夫を病気で失ったエッツ(「もりのなか」は夫を看病しながら合間に創作した絵本なのです)その後、彼女は絵本を描くことでゆっくりと回復していきます。

 初のコールデコット賞を受賞した「セシとポサダの日(クリスマスまであと九日)」のストーリーはメキシコ人の友人と共に書いたものでした。
エッツはメキシコの女の子を主人公にした絵本創作のため、二年間メキシコで過ごします。

 ジルベルトは、その後、出会ったメキシコ人少年。
貧しい生活の中でも、たくましく成長していくジルベルトの健気で愛らしい様子に心打たれたエッツは、教育費を彼に送っていたそうです。

 エッツにとって我が子のような存在だったジルベルト。

 最後のページに思わずニッコリしちゃいますよ。
遊び疲れた風とジルベルトが、柳の下で抱きあうようにして寝ているの。
ジルベルトへの深い愛情が感じられる一枚の絵。
読む人を心からしあわせに、そして納得させてくれるラストです。



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