大東紀行 2023/1/29
食堂で朝7時の朝食を終え、部屋に戻ってきてからひと眠り。
ここまで毎日違う宿だったが、よしざとは3連泊。チェックアウトに追い立てられない。
宿の向いにある「大東そば いちごいちえ」、手打ちのそばで名高いとのこと。
定休は月曜、とガイドブックには記載されているのだが、昨晩店の人に確認したら「日曜はお昼だけで夜の営業はやらないんです」。
夜の営業があるなら、宿の食事をキャンセルしていくのもいいかと思ったが
火曜の朝便で帰るからには日曜の昼しかチャンスがない。
宿の夕飯も今日はお弁当で部屋食にしてもらったが、それでも早い。さかのぼって昼を早めにしておかないとおなかが空いてこない。
口開け11時半に訪問。
ここは大東寿司も有名なのだが「船がでないので魚の入荷がない」とのこと。
そばはラフテーとかまぼこと小ネギのシンプルな具。手打ちの麺は期待通り噛みしめ感があってうまい。
塩気薄め、だしの効いたスープがこれまたイケる。
卓上の「大東とうがらし」、いわゆるコーレーグースだがこれを入れるとさらにピリッと味が引き締まる。
辛いもの好きの母は「お土産に買って帰りたい」と店員に訊ねたが、現在品切れとのこと。
昼食後、母は「ホテルで休む。シャワーも昼間のうちに浴びる」というので
サイクリングにでかけることにする。よしざとでもレンタサイクルがあるようなのだが、ふるさと文化センター内観光協会には電動アシスト車があることがあることがわかったのでそこまで歩いていって借りることにする。
料金が3時間、5時間とあって、13時のいまからなら4時間がちょうどいいくらいなのだが、どうせ母が夕方になると退屈してきて不機嫌になるだろうから3時間枠で借りることにする。
明日30日は観光タクシーでの案内を、今朝依頼したので星野洞などのスポットはそのときにいくことになるだろう。迷ったところで島のなかだからたかがしれている。
適当に走り出す。
外周道路にでたのでそのまま流す。北大東にしても南大東にしても「中央に山のない青ヶ島」みたいな地形(火山カルデラの青ヶ島と、リーフが持ち上がってできた大東では成り立ちがまったく異なるが)なので、外周道路といっても海はみえない。ところどころに港とかプールとかの切れ込みがあって
そこへ降りていくとようやく海がみえる。
浅瀬のビーチはないから、いわゆるオキナワめいたマリンブルーの海ではない。
といって黒潮の、ほんとにまっくろでむっとした匂いの海でもない。
透明度は高く、そんなに荒れているようにもみえない。トン数が大きい船で、しっかりとした港湾施設なら充分航行、着岸できるだろう。
可倒式風力発電の風車や、産業廃棄物処分場(立派!)や、連なるさとうきび畑、収穫のハーベスタなどを眺めながら島南部を西から東へ半周し海軍棒プールから内陸へ入る。シュガートレインの線路跡、ところどころレールが残っているようなのでそれを探して走る。ナローゲージのレールは学校などによくある門扉のレールによく似ている。
貨車だから機関車の牽引で、当然ながら架線はなかったろう。
旧南大東空港の跡地が島中央部にあること、Googleマップでわかったので向かってみるとそこには「グレイス・ラム」の看板がかかっていた。
ここは翌日の観光タクシーで母がいきたがっていたのでまた来ることになるだろう。
どのみち日曜でもあり、閉まっている。
昔はここから眺めたであろう、展望フロア(平屋建ての建物に外階段がついていて屋上にあがれるだけだが)へちょっとあがってみると、建物のなかに人の気配がする。日曜も工場は稼働しているようだ。
並びに「島まるごと館」というビジターセンターがある。島民のスポーツジム的に使われているようだがコロナの関係か、閉館していた。
通り雨がきたので、5分ばかり軒を借りる。「日本財団」のプレートがあることに気づく。
旧滑走路の一部には村営住宅が既に建っていて、のこりの部分は港湾工事ででた残土の捨て場になっているようだった。
というとなにか汚いようなイメージがあるが、鮮やかな赤土にリーフの成れの果ての白い石灰岩が積みあがるさまはなにか神々しさすら感ぜられる。
そろそろ時間だ。北海岸まで足を延ばすには厳しい。島中央の湖沼群をぐるりと一周して観光協会へ戻ろう。
それにしてもカエルの多い島である。冬のいま時分だから生きたカエルではない。
暑いシーズンにクルマに轢かれたのだろう、こぶし大のカエルの干物が自転車で走る道のそこかしこにある。
御蔵はカエルのいない島であった。この島には最初からいたのだろうか。それともだれかが持ち込んだのだろうか。
自転車を返すちょっと前に、予測したように母から電話が。
「部屋での夕食用になにかお酒買ってきて。オリオンビールは飽きたのでそれ以外」。
「日曜に、酒類の扱いのあるお店が開いているかどうかはわからないので訊いてみるわ」。
観光協会の女性に訊くと「Aコープ、お酒ありますよ」との由。
寄ってみるとコンビニくらいのサイズの店舗、食品メインでいろいろ扱いがあった。
泡盛は母が好まないし、今日明日のふた晩で蒸留酒のボトルは空かないだろう。
チリワインの安いのがあったのでそれと、「泡盛と同じ麹の芋焼酎」というカップ酒を買う。
島のとうがらしも、手のひらサイズのパックにぎっしりで150円。
生とうがらしが好物で、近所のスーパーでも産直品で入るといつも購入する習慣の自分、1パックを手にして、母はどうだろうかと考えもう1パック追加する。
店内に「お客様のご要望にお応えし、12月から島での水揚げの魚を漁協から各商店で買えるようにしていきます」との貼紙が。
やはりここも漁協いかないと魚買えない島だったか。
肉のコーナーはすべて冷凍ではあるものの、東京のスーパーとさして変わらない価格帯で売られており「本島よりかは高くとも、本島での肉の価格が比較的安いから運賃乗せてもバカ高くはならないんだな」と。しかし魚のコーナーは冷凍がかけられる加工品、シメサバとかイカソーメンのパックがメインである。おそらくそうなんじゃないかと推測していたのが当たったようだ。
Aコープは在所と呼ばれる「よしざと」などがあるエリアと、製糖工場の社宅気象台のあるエリアの中間にあってアクセスがよい。ひっきりなしにクルマで島民が買物にくる。社宅があるからこどもも大勢いて活気がある。
酒を買ってホテルへ戻る。弁当にしてもらった部屋食を取りにいくと「ナイトハイクにでも参加するの?」と訊かれる。
「今日は夕日がみられそうなので、ここの屋上からそれを眺めたいと思って」。
毎日移動していたわけだから80歳の体力にはそれなりにこたえているはずで今日一日「休養日」にしたのは正解なのだけれど、退屈して「むぅ」となってくるのが母である。
昼のおそばと、夕焼けくらいのイベントは欲しい。
外周が高く、水平線のみえない島。しかし芝居の書割のような森に沈む夕日もまた乙であった。
買ってきた酒をみて「ワインかよ…」と不満げな母だったが、存外うまいチリワインに「運賃かけてきて500円だよー、お値打ちでしょう」と機嫌を直す。
弁当はビビンバ丼。お刺身も別につけてくれていた。それをツマミにボトルを半分ほど空けて、残りをエレベータ前の冷蔵庫にしまう。
とうがらしは「わたし、ひとりでこんなに使いきれない」とのたまうので、2つとも自家用のお土産とした。
東京に持ち帰った2パックのうち1パックで、喜界島の黒糖焼酎をベースにした「コーレーグース」を自作、富山に送ってやったら「ハマってなんにでも掛けている」とLINEの返事がきたのはまた後日のお話。
《続》
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