見出し画像

大東紀行 2023/1/30

今朝も心づくしの朝食を終える。
昨日丸一日休息した母は元気そうだ。予定通り、昨日予約した観光タクシーに乗れる。
朝9時に迎えにくるというので軽く支度をし、よしざとの玄関へ。

「ちょうどさとうきびの刈り入れまっさかりのシーズンだからみんな出払っていて」とオーナーの垣花佳代子さんご自身が案内してくださる。
出張でもないのに、事前になんのツアーの予約もなく離島にくる人間はめずらしかろうが、そのときになってなにならできるかは、ひとえに老母の体調にかかっている。アクティビティを当て込んでいてムリすることになり、最悪帰れなくなる…のような事態を避けるには島に降りたってからの調整となる。
行ければいく、行けなければ島の空気を吸っているだけでもよい。

よしざとのロビーにはナイトハイクや池沼でのカヌーイング、地底湖ツアーなどもあったが、観光タクシーを選んだ母、3年前の小笠原行きのときより少々体力に自信がなくなってきているのだろう。

まずは母の一番の関心事、グレイスラム。
その場で工場へ架電していただいたら、いまからなら時間取れるという。

この手前にカウンターがあって、ラム酒とラムケーキを販売している。レンタカーで訪れても試飲はできないわけで、観光タクシーさまさまである
せっかくだから糖蜜でなくて搾汁からのを2本購入したら、こんな風に詰めてくだすった。
「お昼時でもね、食後のコーヒーにたらしてほわっとするのもいいですよ」と
保安検査を済ませた乗客がこの扉のなかで待っていたのだろう

昨日は外側からチラ見した旧空港ビル。今日はいよいよ中へ。
「南西航空」の看板に、早くも興奮気味である。

これはバランス取るのがむつかしそう

旧空港時代に就航していた便、18名乗りだと聞いていたので左右に振り分け1列づつかと想像していたが、1列2列の配置だったことに驚く。
調布空港からのセスナのように事前に座席指定がないのは同じだが、左右のバランスをとるために
「1列側にはガタイのよい男性があてがわれる」由。
そもそも貨物を含めた積載総重量にも限りがある。これは東邦航空のコミューターヘリと同様だが
手荷物は計量するものの体重は自己申告のヘリと違い、ガチで量っていたらしい。
「当時那覇で帰りの便のキャン待ちしていて、みんなもう前の晩から空港駐車場で順番取りをしている。
既に待っている人がいて3番目くらいだったらあきらめて再トライだが、
たまたま順番前の人が重量オーバーで乗れなくて順番回ってきたことが」と語るガイドの垣花さん。
席数少ないところでのキャン待ち、御蔵でも日常の風景だったから頷ける。

「心豊かなふるさと創り推進事業」とある。そういえば、このあとに登場する星野洞の整備は、あのふるさと創生事業でなされたらしい
「いまは成人式が1月2日になってますね。帰省してきた若者の参加しやすさもあって」との由

日の丸山展望台へ。どこまでもなだらかにつづくさとうきび畑とぐるりの森。
ひとつひとつの圃場が広いのも、北海道を連想させる。

展望台の下から既に眺望が利くのです
先の集落がホテルのある在所方面
展望台にあがります
さとうきび畑を水田に置き換えると佐渡に近いかも。ただ佐渡は両脇の山脈がそれなりに隆起してますからね

ガイドの垣花さんのお宅も農家さんだが、機械化するために全島で区画整理をおこなった結果でこれはあるらしい。
現在の水道水は海水淡水化で得られているとはいえ、農業用水は池沼からの貴重な水をくみ上げてタンクに貯め、点滴灌水で畑に供与する。島としては湿度の低いところだから、蒸発での歩減りを極力避けるための手法。
実際のその点滴灌水のホースを観察すると、新潟市の「公道の消雪パイプがないから、自分とこの駐車場だけ雪を溶かすためにクルマ止めの後ろに配置したホース」にちょっと似ている。
気候条件が真逆な場所で同じようなものが別の用途で使われている、のが面白い。

波の具合をみてみよう。

海面、そんなにシュワシュワしていないが690tのだいとうには厳しかろう。

掘りこんだ下の岩盤が白いからこの海の色になるのでしょう
向かいには北大東島。北大東の漁港も南大東に面した側にあります

南大東漁港。避難港として数十年かけて整備されたここがあるがゆえ
現在、ある程度の大きさの漁船であれば陸に揚げずに済むようになった。
御蔵、青ヶ島からしたら羨望の環境である。
コロナのいまはペンディングとなっているものの、にっぽん丸のクルーズの寄港も年に1度くらい実現したらしい。
それによる経済効果が1日で数百万にものぼったのだとか。
島に、ふつうに訪れるならば宿と食事の確保がマストだ。
クルーズ船の寄港なればこその観光客受け入れ人数であろう。

ここまでで午前中の観光は終了。「食堂 光」さんにわれわれふたりをドロップ、午後は13時半にまたよしざとまでお迎えにきていただくことにした。

「おすすめ」と伺っていたナワキリ定食は1人前のみだったため、海鮮丼とともに半分づつ母とシェアする。
脂のじゅうじゅう乗った、ごつい骨の白身である。骨離れがよいので食べやすい。

正直見た目は「大味な白身?」ですが、ほんとに脂が乗っているのです

午後の部は星野洞から。ここは大東観光商事さんが指定管理で業務を請けているらしい。
入り口は森の上なのだが、どこまでも深く、洞が続く。

カーテン状に成型されるのが特徴
昔のウェディングケーキはこんなでしたでしょうか
なにゆえここに解説版があるのかというと、上下がズレているから。地盤のズレによるものならば他の石筍も同じようになりそうなところ、この鍾乳洞のなかでここだけ何故??と

思わず何枚も写真を撮ったが、スチルではとてもこのダンジョンを表現しきれない。
縦に複雑な塊の空間。3DCGでもないと全貌をお伝えできないだろう。
腕のよい映像作家がいたなら、よろこんで飛びつきそうな素材だ。

このあとふるさと文化センター(昨日、自転車を借りにいったものの中は見学していない)へ寄る予定だったところ、星野洞の受付の女性を通じて情報が。
「『爆破予告』があったらしい。小中学校、役場など公共施設は全部閉めるよう連絡がきた」
島で爆破?搭乗者名簿や乗船名簿でみんなアシがつく離島でそんなこと仕掛ける人間いるだろうか。
とにもかくにもふるさと文化センターも閉まっているだろうから、クローズしない場所、バリバリ岩へ連れていっていただく。
沖縄的には御嶽(ウタキ)に相当するであろうこの場所には、一段と涼やかな風が抜けていく。
この樹に触れるとパワーが得られるとのこと。しっとりした樹皮の感触。

バリバリ岩、という名がついたのも比較的近年とのこと
コドモの探検ならもっと先までいくのでしょう

ちょっと先の北港まで足をのばして、ツアー終了となった。

向かいに隣の島が、薄くともみえるとほっとするものです

久米島で育ったという垣花さん、高校から本島にきて大東出身のご主人と出会ったのだとか。
「久米島はもっと人間関係が濃密で、ちょっとツラいときもある。ここは適度な距離感。島嫁としてまわりから大切にしてもらいました」
結婚相手をちゃんとみつけて島に帰れる男性はだいたいがしっかりものである。
ツアーの途中でお見掛けした、畑のなかトラクターで作業中のダンナさん、まさにそんな印象であった。

島の観光業者として、アイランダーにも出展されたり

よその観光地への視察団を率いたりされているという。
こちらが「興味深い」と感じるような外からの視点と、地元のおうちのかたならではの内からの生活実感をお持ちで、これは御蔵だと「アタリ」のガイドさんのときだな…としみじみ一日を振り返った。

明日は一路、帰京の行程となる。
島も今晩が最後。名残惜しく、夕刻再び散歩へでる。ひょうたん池をぐるりとひと回り。

「爆破」とはどうみても無縁の光景。沖縄県の全市町村に入った予告だったとは、晩のニュースで知りました
在所の近傍でも畑の区画は同じく広い
育つ際に台風などで強い風を受けるとナナメって生える。一方向からなら、しかしこのように成長する。反対側からの吹きかえしがあると折れてしまうのだとか
ハーベスタは農家さんへ順繰りに貸し出すのだそう。天気の具合もみながら。

緑と黄の配色の農機といえばジョンディアだ。
御蔵にもなぜか1台、ジョンディアのトラクターが役場にあった。

調べたら
https://www.caseih.com/anz/en-au/products/harvesting/austoft-cane-harvesters
というオーストラリアのメーカーのようです。メーカーサイトにはミニチュアのおもちゃもあるようでそそられます

近寄ってロゴをみると"AUSTOFT"と読める。ジョンディアとは違うようだが
日本製ではないものと思われる。
これもまた北海道めいた風景の一助となっている。

ニューホランドのトラクター
製糖工場の燃料はA重油らしい
一応、乙4持ちなので「保有空地」とか「防油堤」とかの単語が脳裡をよぎる…
明日の夕日は東京か、と思えば切ない

日が落ちる。よしざとへ帰ろう。

午前0時。部屋の窓からは絶えずもくもくと煙をあげる製糖工場の煙突がみえる。
さとうきびは刈り取って間を置くと糖度が下がってしまうと聞いた。
島内で製糖できてこそのさとうきび畑だ。相場が政策的に支えられているとはいえ離島の20億円産業にただただ圧倒される。

《続》

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?