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百合の花は綺麗だった
私は、女の子が好きだ。
でも、生物学的にも、聖書の中でも、女性は男性と恋愛をするって決まっている。
じゃあ、私がおかしいの?
このおかしさに気付いたのは、中学に入ってからだった。
教室で、いつもの女子のグループが、なにやら盛り上がっていた。
「ねえ、本当にタケル君に告白するの?」
金髪女子がそう言った。顔は興味深々といったようで、色恋沙汰に夢中なようだ。
そう声をかけられた、茶髪のそばかす女子が頬を掻いてこくりと頷いた。
すごいーと歓声があがる。皆、親友の恋が成就することを本気で願っている。
私はそんな様子に、ただ傍観するしかなった。
「性同一性障害障害ですね」
医師の労わった言葉に、私は俯き、母は顔を強張らせた。
「その……病気って治るんですよね」母は必死に乞うた。頼むから娘を普通であってくれよ、と。
しかし、世の中そんなに都合よくいかないものだ
「いえ。これは病気ではなく、彼女の”個性”だと思ってください」
医師はそう言った。だから、自分を責めないで、と。
初めて、好きになった女子がいた。同じクラスメイトの、立花佐紀。私の幼馴染だ。
彼女は幼稚園の頃からお転婆で、とてもエネルギッシュな子だった。男勝りで、いつも傷だらけな少女。
しかし、彼女は中学に入ると同時に落ち着き、そして次第にいじめられるようになった。誰かの好きな子を奪った、とかで。
徐々に彼女は不登校になり、そしてもう学校に戻らなくなった。
私は後悔した。彼女を助けられなかったのか。好きだったんなら、なにか力になってあげれば……。
それから四年後。私は土曜日にコンビニのレジ業務にあたっていた。
ちりん、ちりん。入店音が鳴った。いらっしゃいませーと規則的に言って、ドアの付近を見ると、そこに立っていたのは立花だった。
立花は鼠色のパーカーのフードを目深に被り、アイスやカップラーメンを物色している。その間に私はメモ帳を破って、住所と連絡先を書いたものを準備した。そして、彼女が私のレジに並ぶと、声をかけた。
「佐紀ちゃん。私。どう? 元気にしてた? 久しぶりだねえ」
口調が暗くならないように、でも距離が近づきすぎないように配慮した。
立花は最初は驚いてたが、次第に居心地が悪くなったのか、眼を挙動不審に動かした。
私は、彼女が自殺しないように歯止めになるつもりで、さきほどのメモ帳を渡した。彼女は店から出るとき、その紙を丸めて、ズボンのポケットにいれているのが見えた。
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