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ジャスミン
君の夢を見たんだ。男は女にくったくのない笑顔で話した。
女は男の顔を覗きこみながら、それはさぞかし、いい夢だったでしょうね。男を試すような真顔で返事した。
自分で言うか?と男は苦笑いしたが、そんな女をかわいらしく思えた。
それで何の夢だったの?
そう尋ねた女に、男はひと呼吸間を置いて、話し始めた。
大きな沼の中央付近で小さな船が漂っていて、船の底に真っ白なシルクの布をひいて、舟一杯にジャスミンの花を敷き詰めてある。その中に二人が寝転がっている夢。
ジャスミンの香りに包まれて、二人とも眠っている。
それでね・・・
その沼はね・・・
一度溺れると二度と浮かび上がって来れない、底なし沼なんだ。そして、舟には一円玉ぐらいの穴が開いていて、水がひたひたと船底に溜まってる。
女は右上を見ながら男の見た夢を想像していた。ちょっと怖い夢ね。苦笑いしながら、神妙な顔つきで、男を真正面から見つめた。
その夢の中で、私はきっと舟の底に穴が開いていることを知っていると思う。知っていて知らない振りしてる。でも、あなたは船の底に穴が開いていることを知らないのだと思う。
それで、船が沈みかけていることを知ったあなたがどんな態度を取るか、私は見定めていると思うの。
船の底に開いた穴は、僕が開けたものだったとしたら?
それは故意か、過ちかにもよるわね。
女は試すような口ぶりで男に尋ねた。
それは故意(恋)だと思う。
男は悪びれずに、そう答えた。
男は微笑みながら、女の手を握った。
女は男の手を一度振り払った。
そしてしばらく間をおいて、そっと手を伸ばし、もう一度自分から男の手を握り直した。
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