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お姫様と吟遊詩人

あるところに美しいお姫様がいました。人づきあいが苦手で、王様が近隣の名だたる名士を招いて舞踏会を開いても、なかなか出席しようとはせず、お姫様にひと目会いたい若い名士たちを、いつもがっかりさせていました。

森の入り口の林の荒屋に吟遊詩人が住んでいました。愛の歌、人生を詠んだ詩を歌いながら、薪にする枝を拾い細々と暮らしていました。

ある日、お付きのものを引き連れて、そっと森を散策している間に、皆とはぐれてしまい、森の中をさまよいました。森の中には獣たちはいるし、盗賊たちも寝ぐらにしていたので、お姫様のような美しい人がさまよっていると、格好の餌食となって、ひどい目に合わされるのは時間の問題でした。

心細くなって夜も暮れていこうとしている時に、運良く吟遊詩人に見つけてもらい、お城まで連れて帰ってもらったのが出会いでした。二人はすぐに打ち解けて、昔から知っていた友人のようにたくさん語りながら歩きました。お姫様は森でさまよっていたことも忘れるぐらい、楽しいひと時を過ごしました。

お姫様と吟遊詩人の間には身分の違いを越えて、絆ができようとしていました。お姫様はお付きのものの目を盗んでは、吟遊詩人に会いに行きました。身の危険も感じる林まで会いに行きました。二人に恋が芽生え、欠かせない人になるまでにそう時間はかかりませんでした。

抱きしめ合いながら、詩を詠んだり芸術の話をしたり、森に咲く花の話をしたり、話題は尽きることがありませんでした。その日も夢中になって、語りあっているうちに固く抱きしめ合い過ぎて、吟遊詩人はお姫様の腕の中で息絶えてしまいました。

慌ててお姫様は吟遊詩人が息を吹き返すように手を尽くしましたが、帰らぬ人になってしまいました。嘆き悲しむお姫様は森の中へ穴を掘って、吟遊詩人の亡き骸を埋めてしまいました。お姫様はその後、毎日のように泣きながら埋めた場所へ花を持っていき、吟遊詩人の死を悼みました。二度と帰って来ない日々。お姫様の通った場所には一本の道ができていました。

そういう日が長く積み重なって、お姫様は盗賊に見つかって半死半生の目に合わされて亡くなってしまいました。無くなる寸前に、これで吟遊詩人のそばに行けると、涙をこぼして命果てました。

そうやって長い輪廻転生の末に、二人は片時も離れることなく、何かの関係になって巡り合い、愛を深めていくのでした。

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