この世はあまりにも残酷で優しい

今年の3月にUber配達を始めた。何だかこの仕事が性に合っているようで、一日でも休むと体がなまってしまい、毎日自転車で商品を運び続けている。スマホに配達依頼の通知が来たら、お店に行って商品を受け取り、注文したお客さんの家に届ける。ただそれだけである。そして配達距離に応じた報酬が貰える。

自転車を漕ぎながらふと色んな事が頭をよぎる。
「今日の都知事選どうなったかな」
「andymoriのライブ行ってみたかったな」
「高校の時、同じ野球部のメンバーは何であんな僕に当たりが強かったのかな」

現在過去未来。様々な事が頭に浮かんでは通り過ぎていく。納得の行く答えが出ない事もある。納得が行かないまま自転車を漕ぎ続けるが、そのモヤモヤは徐々に萎んでいく。

「今日チャリで来たの?はい、これ!」
「ありがとうございます!」

ごくたまに優しいお客さんがチップをくれる。こんな事がこの日本であるとは思わなかった。見ず知らずのどこの馬の骨かも分からない配達員に千円もくれるなんて。

エネルギーが湧いて、いつもより軽快に自転車を漕いで帰る。商品を渡した時のお客さんはみんな良い顔をしてる気がする。美味しいご飯を待ってたんだよね。作ったのは僕じゃないのに、そんな顔を見れるなんて役得だ。

先ほどまでのモヤモヤはもうすっかり消えていた。
悲しい事もたくさんあった気がする。浄化できない悲しみはやがて怒りへと変わっていく。怒りは人を狂わせる。制御できない怒りはまた別の悲しみを産む。

僕は狂いたくない。穏やかな気持ちであり続けたい。
だから自転車を漕ぎ続ける。野球選手が素振りして自分のフォームを確かめるように。自分自身であり続けるために。
そしてあなたの家にご飯を届ける。あなたの機嫌の良い顔が見たいから。あなたが少しでも上機嫌でいてくれれば、きっと世の中はちょっとは穏やかになる。

こんばんは、Uber Eatsです。

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