2DK part4 【短編小説】



前編を読んでからお読みください。


11.逃走
次の日の朝。柔らかい肉付きをした躰が僕の胸に優しく当たる感覚で僕は目覚めた。やってしまった。奈々さんは僕に恋愛感情も持ち合わせていなければ性的対象でもない。一時的な衝動で身体を重ねてしまった後悔が押し寄せてくる。それでも隣にいる何も纏ってない麗しい奈々さんに目を向けてしまった。この葛藤で頭がぐちゃぐちゃになる。どうして僕なんかと。そう考えて家に居てもたってもいられなかった。気が付いたら外に飛び出して、大学を超えて河原まで来てしまった。息が溢れてくる。これは「苦しい」なのだろうか。それとも「嬉しい」なのだろうか。分からない。奈々さんはひなのを諦めて僕のことを見てくれたのだろうか。僕の存在を大事に思ってくれていたのだろうか。そうかんがえては、「いや、そんなことは無いだろ。」と考える。一晩で好きな人が変わる程奈々さんは節操がない人なのか。そうじゃないだろと、心の中で信じてみては奈々さんらしいのでは無いかとも考えてみる。色々な客と枕を交わし続けた奈々さんだ。ただ酒が入って人恋しくなったからではないかとも思う。奈々は僕をどう思ってるんだろうか。最後の「ごめんね」と「ありがとう」の意味とはなんなのだろうか。「絶対に性的感情は湧かないと言い続けてごめんね」なのか「体を重ねてごめんね。」なのか。ありがとうはなんだろう。「私のわがままに付き添ってくれありがとう」と言うのが奈々さんらしいだろう。気づいたら奈々さんのことばかり考えて生きてのだな。それなのに、ひなのは奈々さんが最も傷つく言葉を吐いた。友達として関わっていくのに違和感でもあったのだろうか。そう考えているうちに知らない街まできてしまった。日が陰っている。奈々さんと僕の家に帰ろう。Googleマップを開いて、今いる場所が市を2つも跨いでることに驚いた。

12.オーバードーズ
帰ってきたら夜になっていた。扉を開けると奈々さんの気配がなかった。しかし靴はある。何か嫌な予感がした。そしてその予感はすぐにあたった。食卓で倒れている奈々さん。ロラゼパムと炭酸リチウムを大量摂取したゴミの跡があった。オーバードーズだ。急いで救急車に連絡した。そして机の上には髪が置いてあった。
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アイルへ
ごめんね。君が私のことを好きなこと、ずっと気づいてたよ。だからわざと頼った。わざと揶揄ったこともした。本当にごめんね。こんな私でごめんなさい。もっといい人を好きになってね。さようなら。

ひなのへ
好きだったよ。気持ち悪いかもしれないけど。
今までありがとう。

白河奈々

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きっと震えた手で書いたのだろう。字から朦朧としているのがわかる。僕がちゃんと家にいれば。飛び出していなければ。しっかり奈々さんと向き合えていれば。後悔ばかりが押し寄せてくる。

救急車の音がして、急いで奈々さんの保険証とお薬手帳を探す。救急隊員がやってきて、奈々さんを運んでいった。僕も同居人として乗車した。
リチウム中毒らしい。薬の管理をきちんとしていれば。そう思った。

それからはぼくも記憶がない。奈々さんは病院で入院することとなった。




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