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その26 科学的管理法

 最近読んでいる2つの本で同じ言葉が出てきました。それが今回の題名となっている「科学的管理法」です。原著は「科学的管理法の原理」(米.フレデリック・テイラー.1911.)で、当時は第一次世界大戦(1914-1918)前夜、アメリカでは劇的な産業の発展(例;銑鉄生産高1890年950万t→2,800万t、石炭産出量同1.5億t→4.5億t*)を遂げ、過当競争の中で製品価格を下げるため人件費の削減、作業効率の向上が求められていました。

 労働者は、生産量を上げても報われない状況の中で、適度に手を抜き勤務時間をやり過ごそうとすることが常態化していました。

テイラー・システム**
 テイラーの視点は“人は怠けるもの”という性悪説を前提に職務怠慢を回避するために1日の標準的な作業量を定め、これを超えると賃金を割り増しして動機づけを行おうとするものでした。熟練作業者の作業量を調査し、その手順、環境を観察・測定することで、どのような作業方法、作業環境などが最大の効率を生むかを研究しました。
 彼の研究はテイラー・システムと呼ばれ人間を機械の構成部品のように見立てその特性を見極め、うまくデザインすれば作業効率が高まると考えていました。それは外的キャリア(報酬)による動機づけで、人間性を無視した経営理論へと変化し経営者と労働者の対立が深まる結果となりました。
 しかし、テイラー・システムを導入しようと調査(Mayo.1933)を始めた通信機器メーカーで見出されたのがホーソン効果と呼ばれるものでした。それは、作業場の照明を変えることで作業効率を計測するものでしたが、照明の違いは効率に影響を与えなかったという結果になりました。

 8年にわたる調査の結果、生産性に影響を与えたものは、調査対象となったことで期待されているという意識と目標達成のための仲間との連帯感でした。つまり生産性を上げるための物理的作業環境より期待に基づく心理的作用のほうが効果は高かったということです。この報告を機に科学的管理法は下火になっていきました。

レヴィンの考察**
 ホーソン効果が報告される以前から科学的管理法の効果と限界を研究・発表していたレヴィンはリーダーシップ研究(1939)によって、意思決定に関与できる「民主型」の作業効率が、「専制型」、「放任型」に比べて秀でていることを見出しました。
 専制型の下では作業効率は良いものの、意欲低下、攻撃的言動、いじめが見られ、また、放任型では、効率も意欲も低いことがわかりました。
 つまり、選択し意思決定することが出来る組織と環境が私たちが働く現場には必要であるということです。

仕組みは必要。だがそれは人を呪縛から解放するものであってほしい
 2008年5月米ハーフムーンベイ会議-21世紀のマネジメントの再定義***/****
 経営学と実業界から集まった36名の頭脳が示した課題は、私にとって改めて自分の頭を整理してくれる内容でした。25の課題が6つのカテゴリに集約されています。
 ここでは私がとても大切な視点だと思った5つの課題を取り上げたいと思います。
 前段でお話しましたテイラー・システムは「古い経営モデル」として、正解のあるかつての経営環境では有効であっても、高度化する仕事、生産労働から知識労働に労働の質が変わった現代においては優先度が下がった、より重要な視点は「人間的でクリエイティブな経営モデル」としています。(長々とした引用になりますがお許しください。)

カテゴリ① 志を改める
課題1 経営陣がより次元の高い目的を果たす
(前略)富の最大化というお題目は、働く人の心を揺り動かすだけの力を持たず、熱意を十分に引き出すことはできない。(中略)具体性や説得力に欠けるため、再生へのきっかけにもならない。このような理由から、新時代のマネジメントは、世の中から重要で高尚だと認められる目標を立て、その達成を目指さなくてはいけない。

カテゴリ② 能力を解き放つ
課題4 信頼関係を深め、不安を和らげる
従来型のマネジメント・システムは往々にして、社員の熱意や能力への強い不信に根差している。しかも、会社の方針に従わせようとするあまり、戒めに過度に力を入れる傾向がある。だが、組織が逆境に耐えるためには、不安の少ない、信頼感に満ちた風土が欠かせない。このような風土では、情報の共有が進み、反対意見が自由に行き交い、リスクを取ろうという気概が生まれる。不信は士気の低下を招き、不安は発言や行動を縛るため、どちらも二一世紀の組織からは追い出さなくてはならない。

カテゴリ③ 再生を促す
課題10 参加型の手法を用いて組織の方向性を決める
(前略)会社の進むべき道を決めるにあたっては、権限の大きさや地位に関係なく、先見性や洞察力に秀でた人物に発言力を持たせなくてはいけない
課題12 組織の脱構築と分解
(前略)適応力を高めるには、全社を小さなユニットに分けて、プロジェクトごとに自在に形を変えられる組織形態をつくらなくてはいけない。(後略)

カテゴリ④ 権限を分散させる
課題14 意思決定から政治を排除する
(前略)社内政治に影響されない意思決定プロセスを設け、社内の知を結集し、幅広い視点や意見を取り入れる必要があるだろう。

 私はブログ「その22 組織と個人の成長の中」で「トップの皆さんには事業の方向性と目指すゴールを言語化」してもらったうえで、「小さなグループで‘何を’‘なぜ’を含めて任せられる、決定権を持つこと」と「どんな話をしても大丈夫」な環境を準備していただくことについてお話しました。

 この本を読んで賛同・共感した理由はここにあると思いますが、一つ付け加えるなら「管理のしくみを最小限」にすることでしょうか。できうることであればその仕組みは働く私たちを縛るものではなく創造的な道へいざなうものであってほしいと思います。 

 いかがでしたでしょうか。今回は二つの書物に出てきた一つの言葉を題材に書き始めました。いろいろと調べていくうちに、これまで考えて来たことが、識者の皆様の考え方と共通項を持っていることも分かってきました。

 次回は課題1で提言されている「崇高な目標」にしてもよいかと思われる、個人心理学(アドラー心理学)についてお話できればと思います。
 
*引用 山川世界史総合図録.成瀬治他監修.2002. 山川出版社 P106
**引用 心理学概論.森津太子、向田久美子.2024. OUJ 補助教材
***引用 だから僕たちは、組織を変えていける. 斉藤徹.2019.株式会社クロスメディア・パブリッシング. P44.
****引用 経営は何をすべきか.ゲイリー・ハメル 有賀裕子訳.2013.ダイヤモンド社. Kindle版 (P342).

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