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その22 組織と個人の成長

組織と個人の関係性については、その20エンゲージメントの稿で少し触れました。今回はその成長の構造と人事制度についてお話したいと思います。

自律的組織と自律的個人
 多くの企業が会社を運営する上での組織を株主、経営、管理、一般といった階層構造で捉え、これをマネジメントする手法を整備してきました。役割を階層に割り当てることで分業していたということかと思います。株主は投資の最大化、リターンを求めて、経営は会社の存在意義と事業とその方向性を決定し、管理はその方向を実現するための方策を検討し実装ベースに至るまで分解していきます。一般職の皆さんは、分解された仕事のパーツをひたすら完成させていくという感じでしょうか。
ここでの課題は、意思の疎通に時間がかかるところと、伝わっているか検証の方法が脆弱であること、それから「その19ジョブ・クラフティング」でお話した主体的で自律的な力を十分に発揮できないところかと考えています。

 働く私たちは、小さなグループで「何を」、「なぜ」を含めて任せられる、決定権を持つことで現場レベルでのスピーディな意思決定と方策実行、それに連なる改善・改良施策を実現するのではないかと思います。いわゆるPDCAが回っている状態ですね。出来得ることであればトップの皆さんには事業の方向性と目指すゴールを言語化してもらえるとありがたいですね。もう一つ、がっちりした管理の仕組みは小さな組織には負担になるので最小限にしていただく。また、どんな話をしても大丈夫な風通しのよい環境もうれしいですね。
 そのために働く私たちに必要なことは、実績作りと社会の中で通用する知識と言語を身に着けることでしょうか。


意外と重要「企業理念」
 企業理念というと、多くの会社では年始か年度初めの式典や昇任試験でしか出番のない飾り物になっているのではないかと思います。企業理念の役割は、その組織が何を目指してどのような経済活動をするかを表したもので、実社会とのつながりの一番目の接点になっているはずです。
ファーストリテーリンググループパナソニックグループの「企業理念」のリンク先を張り付けてみました。
ご覧になってわかる通り目指す組織の形を社会に対して表明しています。
 組織の中で働く私たちは、こういった言葉を具体的な行動に移せるように事業とマネジメントの骨組みを作っていきます。極端な言い方をすると企業理念がなければ、経営や事業の方針を立てることも企業統治の仕組みも作ることができないということなのです。意外と重要ですよね。

経営・事業方針と事業計画
 企業理念、経営・事業方針によって組織のコア・コンピタンス(他社にまねできない核となる能力)と様々な視点から検討すべき事柄を知り、その組織が何をもって社会貢献していくかを決めていきます。何を事業とするのか、なぜその事業を行うのか。この経営・事業方針に基づいて、中期計画で3年~5年の事業の方向性を練ります。当該年度の仕事の内容とそれにまつわる計数計画、仕事管理の原票を事業計画書と言っています。事業計画では予想される仕事と受注、売上、原価、利益が記述され、販売費および一般管理費などと合わせることで想定利益を算出しています。

ガバナンス
 事業計画が利益を得るための計画とすると、企業統治の方策は会社を支えるための仕組みづくりといえます。定款というルールブックは株主との関係性や事業内容を定義します。経営・事業方針、各種規程で組織の在り方、マネジメントの方法、従業員の在り様を定義します。このような言語化を通じて、どのようにマネジメントを行って法令に合致させるか、どのように投資資本の最大化を実現させるかを練りこんで組織を作っていきます。

人事制度
 企業理念から数えると結構なステップを経てようやくここまで来ました。
統治機能の一つとして、私たち働く立場と組織との関係性を具体的に表現したものが就業規則や人事制度規程となります。「その21 雇用における3つの無限定性」でお話しました職能資格制度、職務等級制度、役割等級制度は人事制度の典型的類型でした。人事制度では、その組織で働くにあたってどのような姿を目指せばよいかが書かれています。

このように、企業理念を起点とした一連の事業と組織の構造が組織と個人の成長の拠り所になっていることが見えてきました。
 

成長の道筋
 組織にかかわる皆さんの視点が、企業理念を頂点とする集約点を見出したところで、成長の道筋のお話をします。経営・事業方針、人事指針まで落とし込まれた企業理念は具体性を帯びて、中期計画や事業計画、人事面では採用方針、育成研修計画などの行動計画に落とし込まれていきます。
ここで重要なのは組織的なあるいは組織間のミスマッチが出ていないかということです。極端なことを申し上げるなら、建設業を伸ばそうとしているのに、AIエンジニアの採用に注力しているのであればその理由の確認が必要ですよね。

事業部門は、事業に必要なスキルセットを明示して、企画部門や人事部門と共有します。それを受けた企画部門や人事部門は採用計画と育成計画を作成して事業部門と齟齬が無いようにすり合わせる必要があります。

 また組織と個人の間のすり合わせも重要です。これまでに必要な事柄を、働く私たちの視点でブログにしてきました。ご自身を知るためのきっかけを持っていただくこと(自己理解)、環境について気づきを持っていただくこと(環境理解)を目当てとしました。

組織と個人といっても現場レベルで組織を代表するのは管理職の皆さんです。一方で管理職の皆さんは個人の立場でもあります。二つの立場は悩ましいところです。雇用における3つの無限定性(その21)でもお話した通り、私たち経験を重ねてきた人間は、固定概念に邪魔されてしまうことが少なからず出てきてしまいます。

その時に必要な知識が「認知のゆがみ」を知り、「メタ認知」の視点を使うこと、その気づきが無ければ「壁」を超えることができません。(ブログ その7,8,10で紹介しました。)

この流れで少しだけ追記をお許しください。
 私が紹介したかったのは、私が担当した経営統合案件での制度設計の経験についてです。着任して一番に行ったのは、経営者からのヒヤリングです。企業理念が作られていない会社でしたので、それに代わるような経営者の思いを聞かせていただきました。それを会社の人事施策における指針とて人事制度の冒頭に記載しました。
 人事制度を作ってみてわかったことがあります。経営者の思いがどれだけ大切かということです。経営者とそこで働く人との信頼関係が一朝一夕ではなく、醸成してきた相互の積み重ねが、どれだけ貴重な「ご縁」であったかは想像に難くありません。組織の規模の大小ではなく、経営者の気づきの有無が、経営の質を決めるのではないかと思いました。


参考文献:高橋 俊介. キャリアをつくる独学力―プロフェッショナル人材として生き抜くための50のヒント. 東洋経済新報社.

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